109 / 119
第九章 真ハピエン後の追加エピソード
106.とっておきの秘策
しおりを挟む
お言葉に甘えて仮眠させてもらった。俺だけなんだか申し訳ないけど、モーングレイも寝るからと説得された。
騎士の皆さんは慣れているし、順番に見張りと仮眠を交代するのでと乗ってきた馬車の中で仮眠した。
そして早朝――
俺たちは緊張しながらその時を待っていた。
「……来ました。侯爵家の紋章を確認しました。間違いありません」
「そうか。じゃあ、頼んだで。ハル、俺らはコイツらが馬車を足止めした後に隙を見て一気に近づいて妹さんをかっさらう」
「分かりました。緊張してきた……」
騎士の皆さんがいわゆる陽動をしてくれるという作戦だ。
妹を助けるための陽動だけではなく、この場で侯爵家の悪事も暴露して辺境伯特権を使用し侯爵家を取り締まるらしい。
もちろん、このことについて王様も知っているそうなので王様の命令ってことにもなるみたいだ。
騎士の皆さんでアイコンタクトを取ると、一斉に高台から森の道へと降りていく。
十人くらいだけど、モーングレイさん曰く精鋭さんたちだそうで俺のことを気遣ってくれていたイケメンな人は副団長で、団長さんも来てくれたらしい。
俺たちは騎士さんたちの一番後方から静かに高台を降りて、近くの木の裏に身を潜めた。
「わ……すごい」
「アイツらは戦い慣れとるからなー。見た目に騙されるとえらい目にあうで」
「カッコイイ……!」
「ハルんとこにはいないんか?」
俺は余計なことまで言いそうになったので、慌てて口を閉じる。
俺が見守っている間に騎士さんたちが馬車の前へ立ちはだかり、何か紙を見せている。
あれが、王様から預かったっていう紙なのかな。
侯爵家にも護衛なのか何人か馬に乗った騎士っぽい人もいるけど、馬車の側にその騎士が横にいるせいで近づけない。
「あの騎士たちが離れた時がチャンスや」
「分かった」
フィッツロス家の騎士が凄むと、侯爵家の騎士が反論するように馬から降りて騎士の方へ近づいていく。
よし、これなら……!
「ハル、行くで!」
「はい!」
俺たちも顔を見合わせて、そっと馬車の方へ一気に近づく。
そして、馬車のドアを勢いよく開けた。
「きゃあっ!」
「な、何者だ!?」
薄桃の柔らかそうな長い髪と、優しい雰囲気の薄灰の瞳。この子が夢に出てきたハルミリオンの妹か。
妹がいるのは分かったんだけど、向かい側にいかにもチャラそうな男が座って妹の手を握っていた。
……なんだ、コイツ?
「まさか、ご本人が迎えに行ってたんか! コイツは少し想定外やな」
「お前たちは一体?」
「お……お兄様!」
ハルの妹のリムキヨリアが声を上げたので、俺の正体がすぐにばれてしまう。
すると、焦った男が妹の手を離していきなり剣を抜いて襲い掛かってきた。
「今更何をしにきた! 出来損ないめ!」
「すみません、妹をっ!」
「わ、分かった!」
モーングレイに妹のことを頼んで、俺は急いで剣に手をかけた。
俺じゃダメだけど、きっとアイツなら……!
使うのは初めてだけど、俺ならできる!
「スイッチ!」
俺は意思を込めて、精霊神に言われた言葉を叫ぶ。
すると、すぐに意思がふっと遠のくのが分かった。
「……ったく、呼ぶならもう少し早く呼べ!」
俺は、一言文句を言ってから、腰の剣を引き抜いてヤツの剣を受けた。
しかし、本当にスイッチとやらができるとはな。
外に出たのは久しぶりだったが、身体がなまっていなくて良かった。
「なっ……」
「フン。残念だが、俺は剣には少々自信があるんだ。お前くらいの腕なら、大したことはない」
「クソっ!」
剣と剣がぶつかる。ギリっと嫌な音がするが、この程度の力なら勢いで押せる。
グッと押し出してやると、男はよろりと体勢を崩した。
俺が剣を跳ねのけたところで、騎士が慌ててコッチへ駆けつけてくる。
もう少し早く気づいてくれれば、俺が表に出る必要はなかったんだがな。
「ハル様、ご無事ですか?」
「問題ない。で、この男が妹の婚約者か」
「ですね。まさか自ら迎えに行っていたとは。調べ不足で申し訳ありません」
「いや、こちらが無理なお願いをしたんだ。あなたたちの協力がなければ成し遂げられなかったこと。改めて俺からも礼を言わせてくれ。心より感謝申し上げる」
あっちのハルはお礼を言っていたが、俺からは言っていなかったからな。
俺は男が捕らわれたのを確認して、剣をおさめた。
騎士の皆さんは慣れているし、順番に見張りと仮眠を交代するのでと乗ってきた馬車の中で仮眠した。
そして早朝――
俺たちは緊張しながらその時を待っていた。
「……来ました。侯爵家の紋章を確認しました。間違いありません」
「そうか。じゃあ、頼んだで。ハル、俺らはコイツらが馬車を足止めした後に隙を見て一気に近づいて妹さんをかっさらう」
「分かりました。緊張してきた……」
騎士の皆さんがいわゆる陽動をしてくれるという作戦だ。
妹を助けるための陽動だけではなく、この場で侯爵家の悪事も暴露して辺境伯特権を使用し侯爵家を取り締まるらしい。
もちろん、このことについて王様も知っているそうなので王様の命令ってことにもなるみたいだ。
騎士の皆さんでアイコンタクトを取ると、一斉に高台から森の道へと降りていく。
十人くらいだけど、モーングレイさん曰く精鋭さんたちだそうで俺のことを気遣ってくれていたイケメンな人は副団長で、団長さんも来てくれたらしい。
俺たちは騎士さんたちの一番後方から静かに高台を降りて、近くの木の裏に身を潜めた。
「わ……すごい」
「アイツらは戦い慣れとるからなー。見た目に騙されるとえらい目にあうで」
「カッコイイ……!」
「ハルんとこにはいないんか?」
俺は余計なことまで言いそうになったので、慌てて口を閉じる。
俺が見守っている間に騎士さんたちが馬車の前へ立ちはだかり、何か紙を見せている。
あれが、王様から預かったっていう紙なのかな。
侯爵家にも護衛なのか何人か馬に乗った騎士っぽい人もいるけど、馬車の側にその騎士が横にいるせいで近づけない。
「あの騎士たちが離れた時がチャンスや」
「分かった」
フィッツロス家の騎士が凄むと、侯爵家の騎士が反論するように馬から降りて騎士の方へ近づいていく。
よし、これなら……!
「ハル、行くで!」
「はい!」
俺たちも顔を見合わせて、そっと馬車の方へ一気に近づく。
そして、馬車のドアを勢いよく開けた。
「きゃあっ!」
「な、何者だ!?」
薄桃の柔らかそうな長い髪と、優しい雰囲気の薄灰の瞳。この子が夢に出てきたハルミリオンの妹か。
妹がいるのは分かったんだけど、向かい側にいかにもチャラそうな男が座って妹の手を握っていた。
……なんだ、コイツ?
「まさか、ご本人が迎えに行ってたんか! コイツは少し想定外やな」
「お前たちは一体?」
「お……お兄様!」
ハルの妹のリムキヨリアが声を上げたので、俺の正体がすぐにばれてしまう。
すると、焦った男が妹の手を離していきなり剣を抜いて襲い掛かってきた。
「今更何をしにきた! 出来損ないめ!」
「すみません、妹をっ!」
「わ、分かった!」
モーングレイに妹のことを頼んで、俺は急いで剣に手をかけた。
俺じゃダメだけど、きっとアイツなら……!
使うのは初めてだけど、俺ならできる!
「スイッチ!」
俺は意思を込めて、精霊神に言われた言葉を叫ぶ。
すると、すぐに意思がふっと遠のくのが分かった。
「……ったく、呼ぶならもう少し早く呼べ!」
俺は、一言文句を言ってから、腰の剣を引き抜いてヤツの剣を受けた。
しかし、本当にスイッチとやらができるとはな。
外に出たのは久しぶりだったが、身体がなまっていなくて良かった。
「なっ……」
「フン。残念だが、俺は剣には少々自信があるんだ。お前くらいの腕なら、大したことはない」
「クソっ!」
剣と剣がぶつかる。ギリっと嫌な音がするが、この程度の力なら勢いで押せる。
グッと押し出してやると、男はよろりと体勢を崩した。
俺が剣を跳ねのけたところで、騎士が慌ててコッチへ駆けつけてくる。
もう少し早く気づいてくれれば、俺が表に出る必要はなかったんだがな。
「ハル様、ご無事ですか?」
「問題ない。で、この男が妹の婚約者か」
「ですね。まさか自ら迎えに行っていたとは。調べ不足で申し訳ありません」
「いや、こちらが無理なお願いをしたんだ。あなたたちの協力がなければ成し遂げられなかったこと。改めて俺からも礼を言わせてくれ。心より感謝申し上げる」
あっちのハルはお礼を言っていたが、俺からは言っていなかったからな。
俺は男が捕らわれたのを確認して、剣をおさめた。
234
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる