【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

楓乃めーぷる

文字の大きさ
303 / 488
第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子

301.黒い影

しおりを挟む
「――霧よミスト

 レイヴンが手のひらをかざすと、水が収束する。
 限界まで収束されると、一気に霧散して辺りを覆う。

 魔法で視界を遮っちまえば、視界を閉ざされた賊は声を上げて戸惑うだけだ。
 俺らは霧の中でも相手の姿形は捉えられるように、こっそり追加魔法で援助も忘れない。
 騎士様二名は、しっかりと姿と気配を察知して素早く沈黙させていく。
 賊は声を上げる暇もなく、気絶していった。
 
「おーおー。早かったなとりあえず親玉が戻って来ないうちにやることやっちまうか」

 探知ディテクションでも反応がないってことは、まだ別のヤツに気づかれてねぇってことだ。
 どれくらいかは分からねぇが、少し時間の猶予があるはずだ。

 一旦補助結界を全て解き檻まで近づくと、予想していた通り子どもたちが何人も檻に入れられていた。
 服装的に身寄りのない子ども、あとは所謂庶民の子どもらだな。
 貴族は出かけるときに誰かしら一緒だから、攫えなかったってことか?
 まぁ典型的で汚いお貴族様なら、黒幕と取引をしていて安全を保障されているっていう可能性もある。
 
 庶民の子どもは街中で遊んだりお使いに行っている隙を狙われただろうし、身寄りのない子どもは道で寝起きしてれば簡単にかっさらえる。
 理不尽だが、この国でもまだまだ庶民と貴族の身分の格差は根強いもんだ。
 俺にできることはするが、こればっかりは陛下にも頑張ってもらわねぇと。
 
 身体を寄せ合って震える子どもを見ながら、鍵解除アンロックで鍵を開けていく。
 カチャンと音を立て鍵が開くと、レイヴンが静かに檻の中へと入っていき優しく微笑みかける。
 子どもたちは戸惑って、固まっちまった。
 だからと言って俺じゃあ子どもを泣かせちまうだろうし、ここは優しいお兄ちゃんに任せるしかねぇな。

「怖かったでしょう? もう、大丈夫だから。一緒に帰ろう?」
「お、お兄ちゃんは……」
「魔法使い。そっちのおじ……お兄さんも、怖そうだけどいい人だから。それに、騎士さんがみんなを守ってくれるから大丈夫」

 レイヴンは優しい声色で話を続けながら、ふわりと丸い光を出して見せた。
 その光はふわふわと浮かび、辺りを照らす。
 灯火ライトの光を見ると安心して、子どもも明かりに手を伸ばす。
 
 子どもにとって、魔法は暗い道を照らしたり料理のための火を灯したりするもんだからな。
 戦いのためと言うより、生活に密着しているものだ。
 騎士も普段から街を巡回してるし、賊より俺らの方が安心できるはずだ。
 ディーはデカくて怖いだろうが、ウルガーはごく普通の騎士様に見えるだろうしな。

「お家に帰れる? ホント?」
「うん、だから……」

 子どもたちの説得はレイヴンに任せて見守っていたが、探知ディテクションが反応する。
 檻から少し離れて、身体の向きを変え檻を背にし目を凝らして一点を睨みつけた。

 左斜め前の空間、奥に続く通路から何者かが近づいてくるのが分かる。
 俺は先に魔法の詠唱を始めて、先手を打つ。

 ついさっきまで何も感じなかったってことは、外に繋がる別の抜け道があるかもな。
 どちらにしても、今はこの場に現れようとしている何者かへの対策が先だ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...