【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

楓乃めーぷる

文字の大きさ
434 / 488
第十九章 旅に出る弟子と騎士

430.懐かしい顔

しおりを挟む
 ウルガーとの旅は順調で、道中魔物に襲われることもなかった。
 港町リオスカールまで辿り着くまでは、アレーシュの領土内だ。
 アレーシュの魔物は王国騎士団と魔法使いたちで時々討伐していることもあって、危険な魔物が出たという報告はない。
 俺たちが魔族と戦い、何とか勝利できたというのもあるのかもしれない。

 歩き続けて一週間ほど経ったころ、村で物資を調達しているとふいに声をかけられた。
 この声はと思って振り返ると、フードをかぶっていても美しいグリーンの瞳とブロンドの三つ編みが目に飛び込んできた。

「レイヴンさん、ウルガーさん。お久しぶりですね」
「レクシェルさん、お久しぶりです」
「俺の名前まで、覚えてくださってたんですか!」
「勿論です。良かった、お二人にお会いできて」

 レクシェルさんと会うのは俺が精霊魔法の特訓をしにいった時以来だ。
 その後もいつもアレーシュ王国のことと俺のことを気にしてくださっていたのは聞いていたんだけど……まさかこの村で会えるなんて思ってもみなかった。

「俺たちにわざわざ会いに来てくれたんですか?」
「ええ。お時間があれば少しお話させてください」
「レクシェルさんなら大歓迎ですよ! じゃあ、あの酒場で。まだ昼過ぎですけどあの酒場はやってるはずです」

 あからさまにウルガーが嬉しそうなのが面白いけど、レクシェルさんが俺たちに話したいことがあるっていうのは気になるな。
 たぶん、俺らが立ち寄りそうな村はこの辺りだろうと思って待っていてくれたんだろうけど……一体何の話だろう?
 ウルガーが一足先に酒場がやっているかどうかを確認しにいったけど、どうやら大丈夫だったらしくて手招きしているのが見えた。

「やってるみたいですね。行きましょう」
「ええ。それにしても……レイヴンさん、なんだか雰囲気が大人っぽくなりましたね。髪の毛のせいかしら?」
「確かに……髪を少し伸ばしたせいかもしれませんね。色々気遣ってくださっているというのに、俺がふがいなくて連絡もできずにすみませんでした」
「いいえ。レイヴンさんも大変だったはずですもの……これも落ち着いてからお話しましょうか」

 微笑するレクシェルさんになんとか笑顔を作りながら、ウルガーの待つ酒場へと向かう。

 +++

 酒場では酒は頼まずに、果物を絞った飲み物を注文する。苦味と酸味の合わさった果物がこの村の名物らしい。
 ウルガーとレクシェルさんも同じものを注文し、俺たちとレクシェルさんで向かい合わせに座ることにした。

「それで、お話とは?」

 俺が早速切り出すと、レクシェルさんも頷いて話し始める。
 
「アレーシュのことは心配しなくてもいいということと、それからレイヴンさん。今祝福を受けている精霊王はシルフィード様とウンディーネ様のお二人ですか?」
「はい、そうです」
「シルフィード様に、レイヴンさんにサラマンダー様と話してみるように伝えて欲しいと頼まれまして。先日突然のことだったので、里長がちょうど留守の時でしたからご連絡手段がなかったのです」
「なるほど。レイヴンは確か耳飾りを通じて会話できると言っていたけど、それはあくまでクレインさんとだけか」

 確かに俺と父さんはいつでも会話できる耳飾りがある。
 他のエルフさんと連絡が取れるのは、陛下に渡した魔道具だけだ。

「すぐに連絡をさしあげたのですが、お二人が旅立たれたあとだったので。王から話を聞いて、たぶんこちらに立ち寄るのではないかと思いお待ちしてました」
「しかし、なんで急にサラマンダー様とお話を……」
「内容は私たちにも分からないのです。シルフィード様も内容は知らず、伝言を頼まれたとおっしゃっていました」
「なんにせよ、話してみれば分かるってことだな。レイヴン、サラマンダー様と話す方法は分かるのか?」

 ウルガーに問われたけど、俺は確実に会える場所を知っている訳じゃない。
 でも、エルフのレクシェルさんだったら知っているのだろうか?
 俺が言う前にレクシェルさんが頷く。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...