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1章 この世界の価値観
2.
しおりを挟むそれから数日、壬生子はこの世界の常識を少しずつ蘇る謎の記憶から理解していった。ここはリーシェンタール王国。『結界のヴァルハラ』の舞台となる国と同じ名前だった。
この体の持ち主はベルナデット伯爵家の一人娘フィレリア・ベルナデットであり、教養、芸術、魔法の基礎を学ぶ王立学院に通う十七歳の少女だということだった。
そして最も驚いたのは、この世界の「美醜」の価値観だった。
「フィレリア様は本当に美しいお嬢様ですわ」
着替えを手伝うメイドのノーニャが言った。
「美しい…?」
フィレリアは鏡を見つめ、前世と変わらない平面的な顔を観察した。
(まじか?私のこの地味顔が美人扱い?)
「ええ!王都でも指折りの美しいお顔立ち。特にその平らなお顔と細い体は女性の理想そのもの。王太子様ですら、一度はフィレリア様に目をとめられたと噂ですわ」
ノーニャの言葉に、フィレリアは驚愕した。
(…いや、待て待て。この世界の美の基準、完全に逆転してる!?『結界のヴァルハラ』にそんな設定なかったはずだけど!?…つまり前世で美人扱いされてた立体的な顔や曲線美のある体型は、この世界じゃダメってこと?)
この世界では、顔の平面さ、体型の貧相さこそが「美」の象徴だったのだ。逆に、前世で美人とされる立体的な顔立ちや曲線的な体型は「不細工」とされ、蔑まれる対象だということを知った。
(ってことは…前世でイケメン扱いされてた筋肉質な男性は…この世界じゃブサイク扱い?ラウル様はどうなるの!?)
フィレリアの中で、不安めいたものが膨らみ始めた。
「今日はこの伯爵家が主催する夜会がございます。フィレリア様の体調次第でしたが問題なさそうだとのお医者様の判断でしたので予定通り開催されます。多くの貴族が参加します、どのドレスをお召しになりますか?」
ノーニャが衣装部屋へと案内し、数々のドレスを見せた。フィレリアは呆然としながらも、薄いブルーのドレスを選んだ。
(夜会か…この世界の「イケメン」たちに会えるのかな。って、この世界の美的基準だと、私からしたら「モブ顔」だらけなのでは…)
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