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2章 最高に推せる騎士との出会い
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しおりを挟む翌日、フィレリアは早めに図書館に向かった。しかし時間になっても、ゼファルドの姿はなかった。
(あれ?もしかして来ないの…?これってフラグ立て失敗系?冷や汗モノじゃん…)
不安になり始めた時、図書館の入り口でざわめきが起こった。見ると、数人の貴族の子息たちが誰かを取り囲み、嘲笑っている。
「ほら見ろよ、この筋肉!気持ち悪いぜ」
「騎士様はどこへ行くつもりだ?貴族の子女が勉強する場所に、その醜い顔を持ち込むなよ」
フィレリアは立ち上がり、声の方へ向かった。そこには、制服の上に軽装の鎧を身につけたゼファルドが立っていた。彼は無表情を装っていたが、その瞳には苦痛の色が浮かんでいた。
(…いじめられてるイケメン騎士とか、ここで助けたら間違いなく恋愛フラグじゃん!でもそんな事言ってる場合じゃなくて、こいつらなんなの!ひどい…)
「やめなさい!」
フィレリアは怒りに任せて叫んだ。場は一瞬で静まり返り、全ての視線が彼女に集まった。
「…ベルナデット嬢?」
年下だろう貴族の少年の一人が驚いた表情で彼女を見る。
「彼は私が頼んで呼んだ騎士様です。私の行いに何かご不満でも?」
フィレリアはきっぱりと言い放った。少年たちは驚きと困惑の表情を浮かべ、互いに顔を見合わせた。
(今の私からは推しを守るためのオタク女の威厳が迸ってるわよ!)
「呼んだ…?あの不細工を?」
「失礼な言い方はやめてください。彼は王国騎士団の一員です」
内心は別として側から見ればフィレリアの毅然とした態度に、少年たちは渋々その場を離れていった。
ゼファルドはまだ信じられない様子で彼女を見つめていた。
「フィレリア様…なぜ」
「約束したでしょう?今日もお話を聞かせてほしいんです」
フィレリアは微笑み、先ほどのテーブルへと案内した。ゼファルドは戸惑いながらも彼女についていった。
「あの、先ほどは…ありがとうございました」
ゼファルドが低い声で言った。フィレリアは首を振る。
「当然のことです。あなたが嫌な思いをするのを見過ごせませんでした」
(というか、私の推しキャラをいじめるやつは許さないってこと!)
「しかし、フィレリア様のようなお方が、私のような者のために…」
「『私のような者』って言わないでください。あなたは立派な騎士団の一員じゃないですか」
フィレリアは真剣な表情で言った。内心では別の思いも渦巻いていた。
(「私のような者」って言うその自虐的な感じ、めっちゃ萌えるんだけど!でもそれは口に出せないよね…この世界では"不細工"扱いされてる人に「素敵です」とか言ったらセクハラになるのかな?)
ゼファルドは彼女の瞳をまっすぐ見つめ返し、やがて小さく息をついた。
「あなたは不思議な方ですね」
その言葉は非難めいたものではなく、純粋な驚きと…わずかな希望を含んでいた。
この日から、二人は図書館で密かに会うようになった。最初は騎士団の話から始まったが、次第に互いの考えや夢について語り合うようになっていった。
フィレリアにとって意外だったのは、ゼファルドとの交流は前世のアニメやゲームよりもずっと心躍るものだった。彼の真摯な物腰、誠実さ、そして何より他者への思いやりに、彼女は日に日に惹かれていった。
(これって完全にガチ恋だよね…二次元のキャラには恋しても届かなかったけど、今回はリアルな人…しかも私の好みドンピシャの筋肉イケメン!しかも騎士団!しかも真面目系!神様ありがとう!)
「フィレリア様、明日から私は国境警備の任務で一週間ほど不在になります」
ある日、ゼファルドが告げた。フィレリアの表情が曇る。
「危険な任務なの?」
「いいえ、定期的な遠征です。しかし…」
「何か不安なことがあるの?」
フィレリアは心配そうに訊ねた。ゼファルドはしばらく黙っていたが、やがて重い口調で言った。
「実は、国境付近で魔物の出現が報告されています。通常の遠征よりは危険度が高い可能性があります」
フィレリアの胸に不安が広がった。
(ええっ!危険な任務って…これって『結界のヴァルハラ』第35話みたいな展開?主人公が危険な任務に行く前にヒロインが心配する的な…)
「でも、きちんと治療師の派遣とかはあるんでしょう?」
「…騎士団への治癒師の治癒魔法の使用は制限されています。特に私たち平民には…」
(マジか…よく考えたら、これ完全に第35話の展開だ!ヒロインが手作りの回復アイテムを渡すイベントフラグだ!)
フィレリアは決意を固めた。
「私が回復の薬を用意します」
「え…?」
「私、基礎治癒魔法は学んでいます。貴族としての魔力はありますから回復薬も作れます。明日、出発前に渡します」
「そんな…それはあまりにも…」
「受け取ってください。私にできることはそれくらいしかないから…」
(うっわ、私って今めっちゃ乙女ゲーのヒロインみたいなこと言ってる!でも心配なのは本当だから…!)
フィレリアの真剣な眼差しに、ゼファルドは言葉を失った。やがて彼は柔らかな表情を浮かべ、頭を深く下げた。
「恐縮です…ありがとうございます、フィレリア様」
その日の夜、フィレリアは必死に回復薬の調合に励んだ。前世のゲーム知識も役立ち、翌朝には数本の回復薬が完成した。
(これが前世のMMOで覚えた錬金術の知識が役立つ時か!転生チート発動!)
翌朝早朝、城壁近くの騎士団の集合場所で、フィレリアは完徹を物ともせずゼファルドを探した。彼は仲間たちと鎧を身につけ、出発の準備をしていた。
「ゼファルド様!」
フィレリアが声をかけると、彼は驚いたように振り返った。周囲の騎士たちも驚きの表情で彼女を見つめる。
「フィレリア様…なぜここに?」
「これ、約束した薬です」
フィレリアは小さな袋を差し出した。ゼファルドは戸惑いながらも受け取る。
「必ず無事に帰ってきてください。約束です」
(うわぁ…私、今超乙女ゲーヒロインしてる…!モブ顔のくせに図々しいけど!)
フィレリアはそう言って颯爽と立ち去った。後ろには呆然とするゼファルドと、彼を羨ましそうに見つめる騎士団の仲間たちが残されたのだった。
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