黎明

いちご好き

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黎明

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 瞳から、何か温いものが頬を伝っていく。
 この、灰色でしかなかった世界が、優しく、激しく、崩れていく。
 そして、失っていた沢山の物が自分に返ってくる……







 両親に捨てられ、兄2人に嫌われ、施設の子達にも、クラスの子達にも。
 嫌われている。
 嫌われすぎて、味方が1人もいない。
 そんな毎日を過ごしていると、見えるもの全てから色が消えていき灰色になっていった。
 そして、嬉しいや楽しい、辛い、悲しいなどの、感情も次第に消えていき、愛想笑いすら出来なくなった。
  辛いや悲しいの感情が無くなったのは日常生活に支障をきたさなかった。
 想笑いが出来ないのは、学校での集合写真の時や小さい子供と会った時に困った。
 それに大人からは、もっと笑ってとか顔強ばってるよとか言われてきた。その言葉自体には傷つく事は無かった。
 でも、言葉では説明出来ない何かが、少しずつ、少しずつ、既に死んでしまった心に蓄積されていく。
 ある日、クラスの子に死ねと言われた。
 施設に帰ると、兄2人にお前なんて居なくなればいいんだって言われた。
 だから消えて塵になろうと思い、自殺の名所だという建物に行くことにした。
 自殺の名所なだけに、人が多いのだと思っていたが想像に反して誰も居なかった。
 1人だったので、早々に屋上に行った。
 いざ屋上に行くと、死に確実に吸いこまれていくのを実感できた。
 そんなこんなしてるうちに、誰かが来たらしい。聲をかけられた。
 「あの……貴方は終わらせに来たんですか?」 
 「はい。貴方も終わらせに?」
 「はい、息をするのも辛いんです。そんな毎日を終わらせるために来
  ました。貴方は何故?」
 「親に捨てられ、兄2人に嫌われ、施設の子、クラスの子に嫌われ、
   見えるもの全てが灰色になって、感情が無くなって、愛想笑いすら
   出来無くなったんです。だから、そんな毎日を終わらせ様と思っ
   て。」
 「…………貴方は、本当に辛い思いをしてきたんですね。自分は貴方に幸
   せになって欲しいです。」
 え?この人、今幸せになって欲しいって言った…?
 「じ、自分は幸せになっていいんでしょうか?誰かに幸せを願って貰 
   っていいんでしょうか?許されるんででしょうか?」
 「いいんです!貴方は幸せになって、幸せを願われて!もしも許され
  ないのなら自分が許します…!だから、貴方は僕が幸せになること
  を許して、願ってください。」
 もっと早く出会いたかった。
 「貴方は生きていていいんです。理不尽で行き詰まる事の多い世界だ
  けど、貴方が生きているこの世界には色がついてるんです!辛い時  
  や悲しい時は泣いて、嬉しい時や楽しい時は笑っていいんです!」
 色のない世界が壊されていく。
 瞳から、何か温いものが頬を伝っていく。
 この、灰色でしかなかった世界が、優しく、激しく、崩れていく。
 そして、失っていた沢山の物が自分に返ってくる……
 張り詰めていた物が解き放たれていく、世界が色づいていく。
 「さぁ、僕と一緒に柵から抜け出しましょう…!僕の名は、雨楼って
  言います。君は?」
 自分……嫌。
 私は、私は……
 「私は、結苺。結苺って言います!私は、雨楼君の幸せを許します、
  願います…!」
 雨楼君のお陰で私の説明は少しずつ壊れていく。
 嫌、雨楼君の手によって壊されていく。 
 今まで辛い思いをしたのも、あるはずのものが消えてしまったのも、雨楼君に出会う為だったのかもしれない。
 今、どこかで私みたいな思いをしている人に教えてあげたいな。
 こんな私でも、救いようのない生涯になるんだと思っていたけど、1人の人間に出会っただけで、世界が変わるんだって……!
 私は、ほんの何十分か前は死のうとしていたのに、今じゃこんなに幸せだ。
 


 今、辛い思いをしている、誰も味方が1人もいないと思っている貴方、怖いかもしれないけど周りをよく見てみて?
 そうしたら、貴方を助けてくれる誰かがいる。
 近くじゃなくて遠いかもしれない。
 目には見えないかもしれないけど、誰かがいる。
 ネットでも、誹謗中傷する人もいるけど、貴方を助けてくれる人もいるから。
 どうか死なないで、頑張って、なんて私には言う資格は無い。
 でも、これだけは伝えたい。
 『疲れた時は泣いてもいいよ?』って、『幸せを願ってもいいんだよ?』って、『いつもお疲れ様』って。
 私は雨楼君に出会って、幸せだ。
 これからは前を向いて、疲れた時は休んで、雨楼君と一緒に歩いていこう。
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