吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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「ぅいー」
 小山は足を止めた。酔っぱらいのうなり声のようなものが聞こえた気がしたからだ。民家の薄暗い廊下の木の床には、ほこりが積もっていた。よく見ると小山以外の足跡、廊下のホコリの中に足を引きずりながら歩いたような跡があった。
 すぐそこの扉から、かすかな音が聞こえる。小山は息を殺し耳をすませた。なにかをひっかくような音、人のうなり声のようなものがした。顔の高さ辺に小さな曇りガラスの窓がある。おそろくトイレだろう。
 小山の足はすくんだ。思考もだ。こういうとき何をすればいいのか、どうすればいいのか何度も頭の中で繰り返し考えていた。それがすっぽり抜けていた。
 不意にドアノブが回った。小山は驚き飛び退いた。扉にぶつかる音がした。
 ドアノブが二度三度回り、中にいる何かがドアに体当たりをした。小山の頭辺りにある曇りガラスに黒いものが左右に動いているのが見える。
 小山は両手で金属バットを握りしめた。肩の重さに気がつき、リュックサックをおろした。金属バットを握りしめると少し冷静になった。頭だ。頭を殴れば良い。
 再びドアノブが回り始めた。今度はゆっくりと、ドアの開け方を思い出すかのように。小さな隙間が開いた。大量のピーナツがバラバラと落ちるような音が聞こえた。なんの音だろうとよく見ると、ドアの隙間から、数匹のゴキブリが、もみ合うように出てきた。それと同時に薄い光と臭気が漏れ出た。ドアノブの隙間から赤黒い人の指が見えた。ゾンビだ。

 小山は悲鳴を上げ逃げた。戦うという選択肢は、現実の脅威を前にすっぽり抜けた。残ったのは恐怖、逃げることしか頭になかった。金属バットを握りしめ、外に、外に、心の中で唱えながら、壁にぶつかり、もがくように走った。寝室に大きなガラス戸があることを思い出し、ベットを踏みつけ、鍵を開け、ガラス戸を開き、外へ飛び出た。物干し台にぶつかり、生け垣をまたぎ、とにかく走った。
 雑草の生えた道を走り、竹林を抜け、池が見えた。息が切れ、足の重みと沈み込むような疲れを感じ立ち止まった。振り返っても誰もいなかった。 
 荒い息をつき、額の汗をぬぐい、小山は辺りを見渡した。一面、胴の辺りまである草で覆われた広けた場所だった。どうやら、あのゾンビは追いかけてきていないようだ。
 服に笹の葉がついていたので、それを抜きとり、袖で汗をぬぐい息を整えた。音がしてあわてて池を見ると小さな魚影が目で追いきれないほど泳いでいた。ため池だったのだろうか。人の余分な営みがないせいか、ずいぶんきれいに見える。こんなにきれいな水なら飲めるんじゃないだろうか、小山はのどの渇きを感じた。両手で水をすくい顎をぬらしながら水を飲み、頭からざぶりと池に飛び込み体を洗う。そんなことを考えたが、すぐに頭から追い出した。ため池の水がゾンビに汚染されている可能性がある。小山は名残惜しそうにしばらく池を眺め、家に帰ろうと歩き出し、それから、食糧の入ったリュックサックを、あの家に置いてきたことを思い出した。
 リュックに入れておいた米は三キロあった。他にもスパゲティーやトマトの缶詰など、現金も入れてあった。それらをすべて置いてきたのだ。手元に残ったのは一度も使ったことのない新品の金属バットだけ。
「なんのために、ここまで来たんだ」
 小山は顔をゆがめ、自らを責めた。
 小山は家族三人で自宅に隠れ住んでいる。幸い、家がゾンビに襲撃されたことは一度も無かった。付近の家で人が住んでいるような気配はなく。ほとんど外にも出ず。時々通りかかる人影に家族三人怯えて暮らしていた。屋根に太陽光発電機を設置していたため、電気も、ある程度確保できた。水は、屋根からの雨が雨樋から庭のタンクに流れるように改造し、浄水器に水を通して使っている。食料は、事態が悪化する前、周囲の非難の目も気にせずため込んでおいた。いくらため込んだといっても、食べていれば減る。二階のベランダに野菜を植えてみたりしているが、食料は着実に減っていった。
 市の避難所に移り住むことも考えたが、今更、避難所に移り住むのも抵抗がある。食糧事情も向こうだって同じようなものだろうし、ずいぶんたくさん人がいる。寝るところやトイレだって、いろいろ不便だろう。生活環境はあまりよくないと聞く。それに比べれば、小山の自宅は快適に暮らせるといっていいだろう。問題は食べ物だけなのだ。
 もちろん、それらの問題を家族全員が承知していて、当然ながら、その責任は一家の大黒柱である小山にのしかかることになる。妻の何となく催促するような視線に、ちょっといってくるよと、小山は食料を探しに出かけることになった。

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