22 / 46
夜と昼、民家の防衛戦3
しおりを挟む田島浩二は自分という存在を、うまく認識できなかった。時々走る断片的な記憶と外部の情報、自分という自由意思がうまく認識できなかった。自分の周りには同じようなものがあった。それは、どこかつながりがあるような気がした。時々発生する衝動、それが、何なのかわからないまま、ただ体が勝手に動き、意識がそれにつられていくようだった。
人、いる。
肉、噛む。
今、田島浩二の頭の中には、そんな言葉が広がっていた。それが自分の意思だとは思えなかったが、それ以外のことを考えることは困難だった。
時々入っている外部の情報によると、自分が両手を挙げていること、自分は何度もジャンプをしていること、自分はとても高く飛べること、ベランダに向かってジャンプをしていること、ベランダの先の窓に隙間が空いていて、そこに人が。
「いーるー」
矢が放たれた。その矢は田島浩二の額に刺さり、田島浩二の意識は消えた。
弓を下ろし姫路輪子は息を吐いた。
暗闇の中、月明かりを頼りに、時々ベランダに登ってくるゾンビを矢でいって殺していた。ベランダ側の窓にも、雨戸は、あるが、壊そうと思えば人の力で壊せる。張り付かれないように矢で射ころしていた。
「全然減らないわね」
夜になってもゾンビの数は減らず、増えている感じすらした。
「下はもっとひどい」
冷えた干し芋を囓りながら、堀田はいった。下の階からは雨戸を叩く音がしていた。ベランダにゾンビが来ると言うことは、庭にはもっとたくさんのゾンビがいると言うことだ。
「大丈夫なの」
「まだ大丈夫だ。雨戸はいずれ破られるだろうが、食器棚でふたをしている。そう簡単には入れない」
「うるさくて眠れないわ」
交代交代で休んではいるが、疲労は蓄積していた。
「そのうち慣れるだろ」
「慣れるかしら」
雨戸を叩く音とゾンビのうなり声がした。その中に、何を言っているのかわからないが、ぺちゃぺちゃと人の話し声のようなものが混じっていた。
「全然眠れねぇ」
堀田は疲れた顔でいった。
朝になった。
交代交代で休憩をしているが、ゾンビのうなり声と出す音でろくに眠れなかった。里山は頭から布団をかぶって眠っている。
「でも、まぁ、何とかしのげそうだな。雨戸も、まだ持ちそうだし」
野口は比較的に元気そうな顔をしていた。消防士と言うこともあり、仮眠をとったり、急に起こされることにも慣れていた。
「風呂場の格子がちょっとやばいぜ。ひん曲がっている。時々窓を開けてゾンビどもを突っついてはいるが、あそこはもうだめだな」
「じゃあ、完全に板で閉めちまうか」
「その方が良い。入られたとしても、風呂場のドアと洗面所のドアがあるからな」
窓を破られてもゾンビが進入しないように、板である程度ふさいでいる。
「暗くなっちまうが、雨戸のない窓は、もう全部、板で閉じた方がいいんじゃないか」
「そうだな」
「板は余っているの?」
姫路輪子が聞いた。
「いや、ちょっと、きびしいかな。ベットや家具を解体して使っているけど、まぁ、足りるんじゃないか」
「押し入れの板とか、切り出して使えるんじゃないか。ちょっとしんどいけど」
「そうだな、足りなくなったらそうしてみよう」
「家の持ち主に後で怒られそうね」
「謝れば済む話さ」
「そうね」
「それで俺たちの救出作戦の方はどうなっているんだ。何か進展はあったのか」
「救出部隊を編成してくれるそうだ。拠点を作りながら、徐々に脱出ルートを作っていく予定だそうだ」
「道路は厳しいから、民家を通っていくのかな」
「どうだろうな、民家は民家で危ないんだよな。不意打ちを食らうからな。奴ら上から来るんだよ。フロム・ソフトウェアのゲームみたいによ」
堀田は何かに、ぶら下がっているようなジェスチャーをした。
「犠牲が出るような救出作戦は、やめてほしいわね」
「その辺は、署長はわかっているさ。あの人は現実主義者だよ」
「電線を伝ってくれば良いじゃないか」
作業員の栗山が言った。
「好きだねそれ」
「一番安全だろ」
「まぁ、どうしようもなくなったらな」
「びびってやがるな」
笑った。
「うん?」
野口が上を見た。
「どうした?」
「いや、何か音がしたような」
耳を澄ませる。金属がこすれるような音がした。
「屋根か」
かちゃかちゃと、瓦屋根を歩く音がした。
「ゾンビが二階の屋根に登ったのか」
野口は顔をしかめた。
「身軽なこった」
「どうする?」
「どうするっていったって、どうしようもないだろ。屋根の上だし、入れないんだから、ほっておけば良いんじゃないのか」
「いや、ちょっと、まずいかもな」
作業員の栗山が言った。
「なんでだ?」
「太陽光パネルがあるだろ」
「ああ、それを取りに来たんだ」
堀田は、いやそうな顔をした。太陽光パネルを取りにこさえしなければ、こんな目には遭わなかった。ついそう思ってしまった。
「太陽光パネルってのは、電気を発電してんだよ。ゾンビが屋根の上を動き回り、踏んで壊れて感電でもすればアウトだぜ」
「燃えるって言うのか」
「燃えるって言うか、爆発するんじゃねぇか。屋根に登れるぐらいなんだから、ガスが、ぱんぱんなんだろ。爆弾に電流をながすようなもんだね」
「そいつは、まずいな」
「それから、パネルが落下してもアウトだな。作業を途中で切り上げたからな、一応固定されているとはいえ、落ちやすくなっている。落ちた衝撃で火花が散って、ドカンだ」
周辺にはガスを発生しているゾンビ達がいる。
「ますます、まずいじゃねぇか」
堀田は頭を抱えた。
「どうする。屋根に上がって落とすか」
「危なすぎるだろう。登るのだって難しい」
二階の屋根に登るためには、どこかに脚立を立て、そこから登らなければならない。
「どっか矢で狙えないのか」
「むつかしいわね。外に出て狙えばできるけど、ちょっと今の状況では難しいわ」
「屋根裏から、屋根をぶち抜いて何とかならないのか」
「できるが、時間がかかるぞ。構造はわからんが、おそらく瓦の下に板を敷いているからな。それをごりごり壊さなきゃならない」
「おい、何か落ちたぞ。パネルか?」
石が屋根を転がり落ちるような音がした。
「いや、漆喰だろ。瓦を止めてる奴だ」
「そうか」
「ベランダからならどうかしら、ベランダの上のトタン屋根を外して、脚立に乗って矢で仕留めるのはどうかしら」
ベランダの上には雨よけの半透明の波板がはられている。
「波板なら簡単に外せるぜ」
栗山が言った。
「それは、それで、結構危ないぞ」
堀田は顔をしかめた。
屋根から、響くような音が、何度かした。
「ジャンプしてやがるな」
「何か気に入ったんだろうな」
「早くしないと、燃えたら辺り一面火の海になるわ」
「しかたない、ベランダでいこう。俺と野口でベランダの安全を確保するから、栗山さんと道明寺さんは、脚立を設置して、ベランダの屋根をどかしてくれ。あとは姫路頼んだぞ」
もう一人の作業員である道明寺は脚立を取りに行った。
「かわいそうだけど里山も起こそう」
堀田は里山を起こしに行った。
屋根の上からは相変わらず、屋根瓦を軽快に歩く音がする。
「こういう、いつ爆発するか、わかんねぇ状況も悪くないねぇ。なんかこう、ひりひりするぜ」
といいながら、栗山はパチンコを打つ仕草をした。
「そんなのあんただけだよ」
あきれた表情で見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
もちもちほっぺ
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
