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昼、ゾンビの知能、救助隊、民家の攻防戦6
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一体のゾンビの知能は、そのゾンビの年齢や損傷具合によって、多少の違いはあるが、それほど高いものではない。ただし、ゾンビの知能は、集まった数によって上がると言われている。
三年ほど前、イギリスの大学がある実験を行った。人間がいる透明な部屋のドアをゾンビが開けるまでの時間をを調べた。ゾンビ一体の場合は、平均すると、およそ二十分だった。だが二体だと、ドアを開けるまでの時間は十五分、三体だと、八分、四体だと五分まで縮んだ。
また、ゾンビは集団行動を好んだ。迷路を作って、その中に四体のゾンビを距離を離れた場所から入れたところ、自然と合流し、そのあと四体は共に移動し、ゴールまでたどり着いた。迷路を解く時間も、一体より、四体の方がはるかに成績が良かった。
ゾンビには、独自の意思疎通方法があり、集合知のようなものがあるのでは無いかと推測されている。
そのゾンビの一団は奇妙なポーズをとっていた。
まるで万歳するかのように、両の腕を高く上げていた。そのまま近づいてくる。
「なんだ」
小宮は戸惑った。
小宮達が竹棒を垂直に構えると、ゾンビ達は、腕を頭の上で交差させた。
「頭を、守っているのか」
この程度で、防げるものではない。ゾンビの腕ごと、竹棒で頭をたたき割れば良いだけのことなのだ。だが、小宮達は、そこに、人の意思のようなものを感じた。
「う、打て!」
小宮達は竹棒を振り下ろした。交差された腕ごと頭を砕いた。粘度の高い血しぶきが飛び、頭は割れ、ゾンビ達は倒れていく。
それは、死体だった。
民家
栗山と道明寺の作業員二人が、屋根裏から、太陽光パネル近くの、下地の板を一部壊し、屋根瓦を外し屋根に穴をあけた。そこから、パネルの回収を行っていた。
屋根にあけた穴から、おそるおそるゾンビに見つからぬように、パネルを回収した。
屋根の上に登らなければ回収できない箇所があり、護衛の輪子を呼んだ。
「た、高い」
輪子は、屋根の上で弓矢を持ちながら言った。落ちたら無事では済まない高さだ。しかも、ゾンビまでいる。立ち上がることができず、膝をついた。
「おい、しっかり見張っててくれよ」
栗山はパネルの金具を外しながら言った。
「わかってるわよ」
屋根の一番高いところに這うようにして登り、下を見た。
辺りが一望できる。道、あるいは庭に、多数のゾンビ達がいるのが見えた。それがこちらを見ている。
「やばいかも」
輪子の指先が震えた。
ふわふわと、太ったゾンビが屋根に向かって跳ねている。見ようによっては、かわいらしい。
木の上に登り、あるいは隣の屋根、あるいは壁を這い、ガス膨張したゾンビが、輪子達がいる二階の屋根に向かってくる。
人の姿を見たことにより、ゾンビ達の動きに明確な意図が足される。
屋根、人、上、いけ。
輪子が、近くの、庭の木に登っているゾンビに狙いを付ける。集中すると高さに吸い込まれそうになる。狙いがぶれる。矢が外れる。木の幹に刺さる。
慌てて矢をつがえる。息が荒くなる。呼吸を整える。枝が邪魔だ。葉も邪魔だ。クスノキだろうか。頭を狙う。コンパウンドボウの弦を引き、息を止める。放つ。顔、ゾンビの頬に刺さる。耳の後ろ辺りに鏃が飛び出る。外れだ。脳か延髄にでも、当たらなければ意味はない。
もう一度だ。息を整える。矢の数も心許ない。つがえる。
「おい! 登ってきてるぞ!」
いつの間にか、屋根の雨樋を掴み、上半身を持ち上げようとしているゾンビがいた。慌てて、そちらに狙いを付ける。
落ち着け、頭だ。狙いを付ける。
当たれ。
当たれ。当たれ。
放つ。
矢は、ゾンビのふくれあがった肩口に当たる。ガスが漏れ出る。
どうして!
慌てて矢をつがえる。手が滑り、弦を離してしまう。矢が飛び出し転がり落ちる。
ゾンビが近づいてくる。
瓦も高さも苦にせず歩いてくる。
腐敗臭がする。
輪子は恐怖に背を丸めた。
「危ねぇぞ!」
栗山の声がする。
輪子は這うように逃げる。
ゾンビは、瓦の上でこけた。
屋根に空けた穴から堀田が上半身を出し、ゾンビの足を掴んだのだ。
堀田は、屋根の上に、はいだし、倒れているゾンビの後頭部目がけアルミ製の無反動ハンマーを打ちつけた。ハンマーのヘッドがゾンビの頭にめり込む。ハンマーの中の重りが働き、跳ね返りを減らし、効率よく力を伝える。二、三度叩くと、動かなくなり、ゾンビは、ころころと屋根から落ちていった。
「大丈夫か」
堀田は、輪子に声をかけた。
「う、うん、ありがとう」
輪子は恥ずかしそうに顔を伏せながら答えた。
「なんか、あついねぇ!」
栗山が作業をしながらいった。
三年ほど前、イギリスの大学がある実験を行った。人間がいる透明な部屋のドアをゾンビが開けるまでの時間をを調べた。ゾンビ一体の場合は、平均すると、およそ二十分だった。だが二体だと、ドアを開けるまでの時間は十五分、三体だと、八分、四体だと五分まで縮んだ。
また、ゾンビは集団行動を好んだ。迷路を作って、その中に四体のゾンビを距離を離れた場所から入れたところ、自然と合流し、そのあと四体は共に移動し、ゴールまでたどり着いた。迷路を解く時間も、一体より、四体の方がはるかに成績が良かった。
ゾンビには、独自の意思疎通方法があり、集合知のようなものがあるのでは無いかと推測されている。
そのゾンビの一団は奇妙なポーズをとっていた。
まるで万歳するかのように、両の腕を高く上げていた。そのまま近づいてくる。
「なんだ」
小宮は戸惑った。
小宮達が竹棒を垂直に構えると、ゾンビ達は、腕を頭の上で交差させた。
「頭を、守っているのか」
この程度で、防げるものではない。ゾンビの腕ごと、竹棒で頭をたたき割れば良いだけのことなのだ。だが、小宮達は、そこに、人の意思のようなものを感じた。
「う、打て!」
小宮達は竹棒を振り下ろした。交差された腕ごと頭を砕いた。粘度の高い血しぶきが飛び、頭は割れ、ゾンビ達は倒れていく。
それは、死体だった。
民家
栗山と道明寺の作業員二人が、屋根裏から、太陽光パネル近くの、下地の板を一部壊し、屋根瓦を外し屋根に穴をあけた。そこから、パネルの回収を行っていた。
屋根にあけた穴から、おそるおそるゾンビに見つからぬように、パネルを回収した。
屋根の上に登らなければ回収できない箇所があり、護衛の輪子を呼んだ。
「た、高い」
輪子は、屋根の上で弓矢を持ちながら言った。落ちたら無事では済まない高さだ。しかも、ゾンビまでいる。立ち上がることができず、膝をついた。
「おい、しっかり見張っててくれよ」
栗山はパネルの金具を外しながら言った。
「わかってるわよ」
屋根の一番高いところに這うようにして登り、下を見た。
辺りが一望できる。道、あるいは庭に、多数のゾンビ達がいるのが見えた。それがこちらを見ている。
「やばいかも」
輪子の指先が震えた。
ふわふわと、太ったゾンビが屋根に向かって跳ねている。見ようによっては、かわいらしい。
木の上に登り、あるいは隣の屋根、あるいは壁を這い、ガス膨張したゾンビが、輪子達がいる二階の屋根に向かってくる。
人の姿を見たことにより、ゾンビ達の動きに明確な意図が足される。
屋根、人、上、いけ。
輪子が、近くの、庭の木に登っているゾンビに狙いを付ける。集中すると高さに吸い込まれそうになる。狙いがぶれる。矢が外れる。木の幹に刺さる。
慌てて矢をつがえる。息が荒くなる。呼吸を整える。枝が邪魔だ。葉も邪魔だ。クスノキだろうか。頭を狙う。コンパウンドボウの弦を引き、息を止める。放つ。顔、ゾンビの頬に刺さる。耳の後ろ辺りに鏃が飛び出る。外れだ。脳か延髄にでも、当たらなければ意味はない。
もう一度だ。息を整える。矢の数も心許ない。つがえる。
「おい! 登ってきてるぞ!」
いつの間にか、屋根の雨樋を掴み、上半身を持ち上げようとしているゾンビがいた。慌てて、そちらに狙いを付ける。
落ち着け、頭だ。狙いを付ける。
当たれ。
当たれ。当たれ。
放つ。
矢は、ゾンビのふくれあがった肩口に当たる。ガスが漏れ出る。
どうして!
慌てて矢をつがえる。手が滑り、弦を離してしまう。矢が飛び出し転がり落ちる。
ゾンビが近づいてくる。
瓦も高さも苦にせず歩いてくる。
腐敗臭がする。
輪子は恐怖に背を丸めた。
「危ねぇぞ!」
栗山の声がする。
輪子は這うように逃げる。
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屋根に空けた穴から堀田が上半身を出し、ゾンビの足を掴んだのだ。
堀田は、屋根の上に、はいだし、倒れているゾンビの後頭部目がけアルミ製の無反動ハンマーを打ちつけた。ハンマーのヘッドがゾンビの頭にめり込む。ハンマーの中の重りが働き、跳ね返りを減らし、効率よく力を伝える。二、三度叩くと、動かなくなり、ゾンビは、ころころと屋根から落ちていった。
「大丈夫か」
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「う、うん、ありがとう」
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