あの汽車で

闇之一夜

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あの汽車で

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 ぼくを顔で殺し、声で殺し、胸で殺したあなたは、あの汽車へ乗った。夢はここから始まり、ここで気絶した。

 いくら叫んでも、ぼくは眠っている。踊っても眠っている。届くのはUSBも抜き差しならない、竜宮城のような場所で、あなたにもらった、あの玉手箱。

 これで何千年たっても歳をとれず、数秒で白骨爺になった。これはマジックか、現実か。
 そして宇宙は遠ざかる。

だから未来へタイムスリップしかしないはずなのに、あなたは過去に戻って「こんにちは」
 やたらすっきりした顔で「明日のあなたへ、斜めのごきげんよう」

 刺してしまった。だって、そりゃないぜセニョニータ。こっちはもう骨しかないんだよ。そんで、ぜんぶあんたのせいなんだよ。恨んでもお釣りが来るだろ。メディアもこぞって同情するだろ。ただ「犯人の生い立ちは――」はやめてくれ。なんの不幸もないから。俺は両親を愛してる。だから同情の余地はプーチンの前頭葉だ。糞食らえってこと。

 なのに、運命は生まれ直さない。かたちばかりを形作る。幽霊かよ。

 はい、人食いはゾンビで人間だけをドラキュラですけど、こんなにも、こうも切なく響く風の音は、なんなのでしょう。
 字あまらず、季語もなく、まるでアメーバのうめき声。口はしまってる、いつまでも。
 だってアメーバだもの、ポケットくらいは付いてるさ。なんせ全人類の大先輩だ。

 タワゴトやめ。



 ぼくを顔で殺し、声で殺し、胸で殺したあなたは、あの汽車へ乗った。夢はここから始まり、ここで気絶した。

 飛び込んで死んだ君の、飛び降りて潰れた君の、突っ込んで裂けた君の、あの汽車は今日も、夢のように走る。
 だからぼくは、飛び散ったあなたの血でメイク。美しくも面白くもないが、ここで
落雷みたいなお手玉をする。

 見上げれば、警官隊の垂れ込むような青い雲。空みたいな、海みたいな、深くて、遠くて、足が着く。


 ここは運命。ここは刑場。手かせ足かせ、首輪、猿ぐつわ。たやすく罪人なのだ。最期というのは、かなりいきなり。安直であっけなく、キグルイピエロ。

 だが見ろ。
 運命のギロチンの刃を。
 よく見ろ。
 隙間だ。
 それは、走り抜けるための。

 ラクダ這い入る針の穴に、突き刺さる言葉をぜんぶ連れて、今すぐホットでいただきます。
 あの汽車で。あなたの乗った、今も乗ってる、あの汽車で。
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