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10)戻った二人と戻った記憶:フィンリー
しおりを挟む急に腕を掴まれ、エレノアはちからが抜けたのか俺に身体を預けたようになった。
「エレノア、どうした大丈夫か!? エレノア!」
咄嗟に抱きとめたがこの身体の腕力では支え切れず、エレノアを抱えたままその場に倒れ込んでしまった。
一瞬目の前が真っ暗になった。
それは一秒も二秒もなく、すぐに目を開ける。
大階段の下の平らな場所でただ転んだだけだが、足にも腕にも痛みが走った。
なんとか上半身を起こしてエレノアを抱き起そうとした時だった。
「……エレノア?」
フィンリーの腕の中にいるのは、正真正銘のエレノアだった。
金色の髪が顔にひとすじかかり、長いまつ毛を伏せている。
顔色が真っ白で紙のようだが、エレノアの姿に間違いない。
自分の身体を見ると、白いシャツに紺色のベスト、先ほどまでエレノアが着ていた自分の服を身に着けていた。
「エレノア! 目を開けてくれ、僕たちは元に戻っている!」
フィンリーはここが学園の階段の下だということも忘れ、エレノアを強く抱きしめる。
誰かに見られているかもしれないという意識はフィンリーの頭から消えていた。
そうか、身体が自分に戻ったから、足と手がこんなに痛いのだ。
痛みこそがこの身体が自分のものだと言っているように感じる。
「エレノア……大丈夫か、エレノア」
ゆっくりとエレノアが目を開ける。
フィンリーはそれだけで泣きそうになるほどの安心と喜びが湧き上がった。
「エレノア、気がついた? 僕たちは元に戻ったようだ」
「フィンリーさま……」
「エレノア、大丈夫か。どこか痛むところはある?」
「あの、フィンリーさま……」
「僕たちは自分の姿を取り戻したんだ、やっと僕たちの願いが叶った」
できるだけ優しく、入れ替わりから戻ったことをエレノアに伝えた。
エレノアの姿でエレノアの嬉しそうなほほえみが見られるはずだった。
「フィンリーさま……婚約を白紙にと、それが僕の願いだと、そうおっしゃいました……」
「エレノア……」
喜びは一瞬で驚きに変わり、驚きは悲しみに変わる。
なんということだ……エレノアが思い出してしまった。
この大階段で婚約を白紙にしてほしいと言ってしまことを。
でもそれは当然のことだった……二人の入れ替わりが戻れば、その時に失った記憶も戻る、あたりまえではないか。
それは、二人でビスケットを食べながらお茶を飲んだり、互いの服を選んだり、何よりたくさん話をしたり笑い合ったりしたことが全部、まぼろしのように消えてしまうことだった。
婚約を白紙にと伝えたことをエレノアが思い出せば、そんな相手と笑いながらお茶を楽しむこともない。
あの日大階段から落ちて入れ替わったところから、今ここに来て転ぶ前のすべての時間はエレノアの記憶の一部が消えていたから存在していた。
そのことに打ちのめされた。
入れ替わりで得たエレノアとのぬくもりの場所から、真冬の深夜に放り出されたようだった。
「……違うんだ、エレノア……」
「家に帰りたいです……」
「そ、そうだな、ゆっくり身体を休めるのが先だな。僕も同じ馬車で一緒にローレンス家に戻ることを許してくれるだろうか……」
「はい……それはかまいません」
エレノアはゆらりと立ち上がった。
フィンリーも立ち上がろうとして、地面に転がっている杖がなければ立てないと気づく。
エレノアがかがんで杖を拾って渡してくれた。
「フィンリーさまの身体の痛みは大丈夫ですか」
「ああ、痛みはあるがエレノアがこれにずっと耐えてくれていたんだ、僕も大丈夫だ」
手を貸したいのに、この身体では自分が歩くのがやっとであることが情けない。
エレノアはずっとこの痛みに耐えて歩きにくい身体で過ごしていたのだ……。
馬車の中で、エレノアは静かに窓の外を見ていた。
そんな姿に話しかけることもできず、フィンリーはローレンス家までの道のりをこんなに長く感じたのは初めてだった。
ローレンス家に着き二人で迎えの執事に挨拶を済ませると、まっすぐエレノアの部屋に向かう。
入れ替わりが戻った報告をローレンス公にしなければならないが、エレノアはもちろん、自分も少し気持ちの整理をしたかった。
「少しだけ奥の部屋で休みたいのです……」
「もちろん、ここは君の家の君の部屋だ、好きなところで休んでほしい」
今朝までは奥のクローゼット部屋でエレノアの姿の自分が過ごしていた。
エレノアは小さな声でごめんなさいとつぶやくと、奥の部屋に入り扉を閉めた。
ざっと片付けてから部屋を出たとは思うが、なんとなく申し訳ないようないたたまれない気持ちになる。
フィンリーは重たく感じる身体をソファに投げ出して目をつむった。
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