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【3】ジョディーの誕生日パーティ
しおりを挟むリネットはジョディーの誕生日パーティに、母と共に招かれていた。
ボルトン伯爵家の広いサロンの窓が開け放され、庭にもテーブルが置かれている。
大人はサロンの中のテーブルに着き、子供たちには庭のテーブルに子供用の料理の皿がいくつも置かれた。
「ジョディー、お誕生日おめでとう。ジョディーの好きなものをいっぱい思い浮かべて選んだの。気に入ってもらえたら嬉しいわ」
リネットは、ジョディーの好きな水色のハンドバッグを差し出した。
小さなバッグには淡いグレーのワンハンドルの持ち手があり、かぶせの蓋はゆるやかなスカラップになっていて、透明なガラスボタンの装飾がついていた。
ジョディーの誕生日プレゼントは、侍女と一緒に出かけて探した。
大人っぽい物が好きなジョディーは、ウサギやネコの絵のついた物やピンクのリボンがついたものより、色も形も落ち着いていて、あまり飾りのないものを喜ぶだろうと考えて選んだ。
「なんて素敵なの! リネットは私のことを何でも知っているのね、本当に嬉しい、ありがとう!」
「こちらこそ喜んでもらえて嬉しいわ。バッグを持ったジョディーはとても素敵なレディね!」
ジョディーはバッグを持ってくるりと回り、デイドレスの裾を少しつまんでレディの挨拶の真似をすると、近くにいた大人たちがパチパチと手を叩いた。
『ジョディー嬢の愛らしいこと』
『ボルトン伯爵は目に入れても痛くないというが、あの可愛らしさならうなずける』
そんな大人たちの声がリネットの耳にも届く。
ジョディーはとても幸せそうだ。
リネットはそんなジョディーの笑顔が大好きなのだ。
自分の贈り物がジョディーを笑顔にしたことが、リネットには何よりも嬉しい。
ジョディーはバッグを持ったまま反対の手でリネットの手を取って、庭にいる招待客の間を縫うように歩き、たくさんの人たちに挨拶をして回り、たくさんのおめでとうを集めた。
すると、友人たちといるクレイグに出くわした。
「姉上、そんなに歩き回ったら疲れてしまうよ。飲み物を取ってくるから二人で座って待っていて」
クレイグに椅子を勧められて、ジョディーと並んで座る。
たしかに、ジョディーの息が少し乱れているような気がした。
「クレイグ、私も行くわ。ジョディーがさっきチーズのカナッペを食べたいと言っていたの。さすがにクレイグもそんなに持てないでしょう?」
「大丈夫だからリネットも座っていなよ。姉上が一人になってしまうし」
それでもリネットが椅子から立ち上がろうとしたとき、クレイグの袖のボタンにリネットの髪が絡んでしまった。
慌てたクレイグが腕を振ると、リネットは引っ張られるように倒れ込んだ。
ジョディーが思わず悲鳴を上げる。
クレイグの腕の先にリネットが括り付けられたようになってしまい、クレイグはリネットを見下ろす形で立ち尽くしていた。
「僕がほどくから、二人は動かないで」
近くにいた、リネットより三つ四つ年上に見える少年がリネットを立たせてくれて、絡んだ髪を器用にほどいていった。
クレイグはリネットのふわふわの髪から顔を背けるように、髪にボタンが絡んでいる腕を伸ばして身体をねじっている。
「はい、もういいよ。ほどくためとは言え髪を引っ張ってしまってごめんね。痛くはなかった? それからクレイグ、君はもう少しレディに優しいほうがいいよ」
年上の男子にそう言われてしまったクレイグは、恥ずかしさなのか怒りなのか顔を真っ赤にしながらも、「ユーイン様、ありがとうございました」ときちんと礼を言った。
ユーインという名を聞いて、ボルトン伯爵家やアストリー伯爵家が属する一門を束ねるコートネイ侯爵家の令息なのだと気づいた。
リネットもユーインに頭を下げて礼と謝罪をし、クレイグにも謝ろうとしたが彼は友人たちと行ってしまった。
「リネット大丈夫?」
「ええ、私の髪が巻き毛なのがいけなかったわ。騒ぎになってしまってごめんなさい。ジョディー、今度こそカナッペを取ってくるから待っていてね」
リネットはジョディーを残してサロンに向かう。
ジョディーの隣にいると何故だか涙が出てしまいそうで、リネットは早歩きになった。
すると、左手の木立の向こうに、クレイグが友人たちといるのが見えた。
クレイグにきちんと謝ろうとして近づくと、彼らの会話が聞こえてリネットは立ち止まった。
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