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【5】清々しい思い
アストリー伯爵家に戻ったリネットは、ワンピースドレスを侍女に脱がせてもらうと、湯浴みを拒否してベッドに入った。
部屋に誰が来ても掛け物を頭からかぶって、寝たふりをした。
汚れてモジャモジャな毛の年老いた犬のようと言った友人の言葉を、クレイグは肯定するように受けて話を続けた。
もう涙は出尽くしたと思ったのに、鼻の奥がツンとして痛くなった。
母の髪は真っ直ぐでハチミツ色、父はサラサラの金色で、父も母もリネットのようにくるくるの巻き髪ではない。
誰に似たのか分からない赤髪の強くカールした巻き毛を、リネットはいつもサイドで二つに結んでから背中で一つに編んでもらっている。
でも、今日はパーティだからと、侍女が可愛らしく二つ結びにしてワンピースドレスとお揃いのリボンを結んでくれた。
全体のボリュームを押さえるために、細い三つ編みをいくつか垂らしていたのに、巻き毛はクレイグの袖のボタンに引っかかってしまった。
あの時のことを思い出すと、胸が潰れたような痛みを感じた。
リネットはのろのろとベッドから下りた。
鏡に映った自分が目に入る。
三つ編みや二つ結びを全部ほどくと巻き毛が広がって、空き地の剪定されていない木のようだ。
クレイグから発せられた言葉を思い出す。
『姉上とは質が違いすぎる』
淡い金色のまっすぐで長い髪のジョディーと、くるくるでボサボサの老犬の汚い毛のような赤髪のリネット。
言われなくてもジョディーの美しい髪とはまったく違うことくらい、リネットは分かっている。
クレイグの冷たい目とジョディーの美しい髪が、リネットの頭の中を占領していた。
母から強く掴まれた肩に痛みもある。
リネットは、醜い赤い巻き毛が映った鏡を叩いた。
何度も何度も鏡を叩き、ふらふらとドレッサーの引き出しを開ける。
その中から侍女がリボンを切るのに使っている裁ち鋏を取り出して、掴んだ髪をジョキジョキと切り始めた。
全部切ってしまえば、くるくるの巻き毛ではなくまっすぐな髪が生えてくるだろう。
リネットは何でこんな簡単なことに、今まで気づかなかったのだろうと思った。
ジャキジャキと耳のすぐそばで小気味よい音を立てながら、どんどん髪を切っていく。
耳の上まで切って、さらに頭の天辺の毛も横にザクザクと切る。
リネットの足元に、ふわふわでくるくるの赤髪が溜まっていった。
それを両手で掬って天井に向かって放ると、ゆっくりと巻き毛が落ちてくる。
リネットはなんだか楽しくなってきた。
ずっと苦しめられた赤髪の巻き毛を、はしたなくも足で蹴散らした。
鏡の中のリネットは、この家の料理長の坊主頭にそっくりだった。
「あまり上手に切れなかったけれど、きっとしばらくすれば真っ直ぐな髪が生えてくるわ……そうしたら、ジョディーやクレイグやお母さまのようなサラサラの髪に、私もなれるかもしれない!」
リネットは頭の軽さと涼しさに少し驚いたが、どこか清々しい思いもした。
シャンプーを嫌がる老犬の毛も、きれいに洗って乾かして鋏を入れたら、きっとこれくらいスッキリするはずだ。
リネットが鏡に向かって満足気に微笑んでいると、温めたミルクを持って部屋に入ってきた侍女の悲鳴がアストリー伯爵家に響いた。
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