悪役過ぎない気まぐれ財閥令嬢が野球と言うスポーツで無双します!?

俊也

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彗星の魔女

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「ハイッ!」
「しゃあ!こっからだ!」
半分は空元気だが、芙蓉高からしたらまだ希望が消えたわけではない。
女の子、とはもう言わないにせよ同じ高校生、人間だ。
ここまで88球の完全試合一回しか完投していない。
だが5回を前に俺たちは彩奈に60球以上投げさせている。
5、6回で未体験の100球付近に達した時どうなるか?
いつ崩壊するかわからないのは向こうも同じ。
エース明智洸太郎を引き摺り出せば、いつもの芙蓉戦法に徹していけばいい。どんな好投手でもこちらの土俵に誘い込めば!逆転のチャンスは…。
「よし!中田!引き続き粘ろう!」
ストライーク!

あれ?
明らかにこれ以上ないコンパクトで鋭いスイング。
それがインハイやや高めの真っ直ぐに対応できない。
球速は従来と変わらぬ151キロ。
それをいままでと同じタイミングで振って当たらない…?
たまたまだ、と思って2球目を当てにいくがまたも空振り。
「なん…だと?」
馬原監督は身を乗り出す。
ありえない事が起きていた。
「打球がどこに行ってもいい、かすってでも当てる事に集中!」
そう主将の野村が声を張る。

が…。
「ストライク、バッターアウト!」
何だ、何が起きている。
下位打線だから、ではない。
全スタメンここまでの通算打率.225から.255くらい。
つまり偏差のない打線。
ことミート力に関しては全選手同等になるように鍛えて来た。
7番葉山…。
あれ?
「ストライーク!」

「バカな!何故ことごとく空振る!」
馬原の目に、選手達が不必要に力んだり、フォームが崩れているわけでないことは明らかだ。
見た目にも球速は変わらない。
と言うより160キロ台でもカットして粘れる練習をしてきた。
では何故当たらない…。
葉山も三球三振。

「スピンレートだ…。」
!??
北尾がつぶやいた。
「あの女、同じ球速帯でボールの回転数を上げて来た。
それも多分一気に+300回転/分くらい!」
「なん…だと。」
監督以下芙蓉高校ベンチが凍りつく。
そんなんやられたら…いや、そもそも可能なのか!?
マウンド上の彩奈はイタズラっぽい笑み。
「あっ気づいた?
遅いけどね。もうここからはずっと私のターンだから🎵」
……………!!?

(なんともはや、恐ろしいお嬢様だ。
時々アンチがビ○チとヤジってるが違う。
総見寺彩奈は魔女ウィッチだ!)
もう明智も内心呟きつつ苦笑するしかない。

高校野球なんて枠をとっくに超えて、新しい光を世界にもたらす彗星が、目の前にいる。
果たして、この物語は…。

ストライクバッターアウト!
9番音重も三振。
ボールが、まさに例えでなく、スプリットを逆にしたように上昇する。
もう打ち方だの動体視力だのの問題ではない。

5回裏の守り。
北尾の球速もコントロールの精度もガタ落ちであった。
ファラリス学園の1番海藤は何とか痛烈なライナーだがショート正面。
しかし続く立浪にはセンター前に綺麗に弾き返される。
(ぐうっ、北尾の心技体が、一気に崩れてしまったかっ。
何という恐ろしい女だ…。
いや、それ以前に、北尾含め選手達を高校野球の世界でのみ勝ち進めるように個性を削いで画一化した…俺の責任…でもあるのか…。
北尾も信仰のようにしがみつき完成させすぎたピッチングを一撃で砕かれて自我が…)

歩かせないのですか?
マネージャーや伝令役部員に問われるも、かぶりをふる馬原監督。
「歩かせても、次は成川明智とスラッガーが続く。
ならば、北尾の納得がいくような形にした方がよい」
いつもの監督の論理とは明らかに違う考えを聞かされ、何かを悟った表情の部員達。

「北尾先輩集中で!」
「2人連続で切っていきましょう!」
「北尾ー!」
ベンチに呼応して芙蓉高校側スタンドも声援を送るが…。

『3番ピッチャー、総見寺さん』
彩奈キター!
「トドメ刺せ彩奈ー」
「かっこいいー」
「もう一発来いやー」
彩奈!彩奈!!彩奈!!!

バッターボックスに入り、すうっといつもの構えに入る天才令嬢。

あまりにも眩しすぎる…。
そう北尾には映った。
もう全ての投球術は対策され、しかも頼みの精度を失ってしまった。
もともと…猛練習、連投、投げ込みであちこちに痛みがあるのを強引に耐えてやってきたのが、前の回に打ち崩されたことで一気にダメージとなって表面化したのだ。
監督、みんな、すみません。
この打席は。俺は俺として投げます。

!?
ん?
いつもより足上げが高い。

何故かニコリとする彩奈。
ストライーク!
何とど真ん中!
しかも、152キロ!彩奈でなく北尾の球速である。
歓声が別な方向に捩れる。

「な、何だこいつ、隠してたのか!?」
成川は驚きの声。
後ろの明智や他のナインも声が出ない。

(よかった!たとえボロボロでも、わが芙蓉野球部の猛練習に耐えて、あれから成長した俺ならば…とぶっつけで投げたが。
150を超えた!)
一球で息が上がりつつ、北尾は満足げに笑みを浮かべた。
野村はサインも出さず、インハイに構える。
「やるじゃない」
彩奈の一言が刺激となり、残り少ないエネルギーをチャージする。
(ありがとよ、総見寺彩奈さん。だけど…)
再びモーションに入る北尾。
2,3球、絞り出せばたまたま出ると言うだけのレベルだ。
同じ150キロ台でも俺のストレートは…。
回転数、そしてなによりコントロールも…。
ストレートにもし、入部した時からこだわっていれば…いや、やめよう。
今の全力を…
153キロ!
しかしインハイやや高め、しかもシュート回転気味に真ん中高めの…。
本日1番の快音!

ボールは…。
あの芙蓉高守備陣が一歩も動けない。
がん、と音がしてバックスクリーン上部を直撃した。

弾丸フライ…圧倒的一撃の2ランホームラン。
さらに狂ったような大歓声。
これで8ー0。
勝敗はおろかこれでは…。
だが、爽やかだった。北尾の表情は。
肩、肘、右脚ふくらはぎに痛みはあるが…。
出し切っての負けだ。悔いはない。
彩奈はガッツポーズはせずダイヤモンドを一周。
ホームベースを踏んだとき、こちらを見て愉しげな笑み。
羨ましい…彩奈…さんが。
しかし試合は最後まで完遂しないといけない。
「毎回見せつけてくれるなお嬢は。
まあ、後は俺と明智で決めちまうわ。」
成川は有言実行とばかりに右中間真っ二つ。
145キロは出ていたがど真ん中をジャストミート。
しかし手応え程には飛ばず、ワンバウンドでスタンドイン。
ツーベースである。
そして明智洸太郎である。
他校の女子高生からも声援が飛ぶ。
(明智いけ、決めちまえ。)
成川の思いはファラリスナイン全員のそれだった。
そして北尾。
(ここまでだな…明智なら納得できる。
俺の全てをぶつけて、その上で何て言うんだっけな…)
ボロボロの身体に鞭打ち、全力を指先にこめる。

そう、介錯だ、そうしてくれれば。
キイイン!
スイング一閃!
綺麗な弧を描き、明智洸太郎の打球はスタンド中段へ。
10ー0
サヨナラコールドを決めるホームラン!
やったー!
ベンチを真っ先に飛び出す彩奈に皆が続く。
対して、芙蓉高校ナインは、その場に座り込んで立ち上がれないものもいる。

ありがとうございました!

北尾に握手を求められて、照れながら応じる彩奈。
「君は凄いな。わざと『舐めプ』しているだけと思いきや、俺やチームの全力以上の力を引きださせて、最後はそれでも勝ってしまう。」
「あははは、よくわかんないけど、楽しかったよー。」

打ちのめされたな…。
芙蓉高の馬原監督は内心の敗北感を隠しつつ、部員達をねぎらう。
(しかし、俺自身は今までのやり方を変えない。
ダウンスイング、コンパクト打ち。
投手の技巧派重視!
守備陣の鍛錬。
さらにさらに徹底させて、甲子園制覇を目指す!)

それに総見寺やファラリス学園も、絶対に破れない。
いまの帝王学園の牙城は…



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