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ささやかで壮大な謀議

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「なんだ、君ら従姉妹同士だったのか」
最初に出会った少女フリストと憲兵士官のスルーズの事だ。
「お姉様がこちらに異動なさった時は複雑でしたけど、一つ屋根の下で暮らせる事は嬉しいんです。」
そう言うフリストと、その母親ヒルダの家。
そこにとりあえずの宿の恩恵にあずかる事にしたが、その食事の席。
「私も…。こうして毎日3人で居られるのは感謝だ。」
すこしだけ任務中よりは表情が緩むスルーズ。
「それにしても、改めて娘を助けて頂いてありがとうございます。
マサヒコ様。オットーも数日休めば治癒できるようでして。」
「あっ、いえ、そんな大層なものでは…。
私自身にもまだ制御しきれない力といいますか。
どのような経緯で得たのかも…
いずれにせよ、お嬢さんたちの助けになれて何よりです。」
ここの家主であるヒルダは頷きつつも、少し背筋を正して言った。
「娘からも聞いておられるとは思いますが、私どもは細々ながら魔導士学校…教場を経営しておりまして。
やはりそう言う立場で、あなた様を見るとあまりにも眩し過ぎるといいますか…。」
「は、はあ、いえそんな…。」
聞くところによるとこの国での魔術は病気や怪我に対する治癒(それも限定的な)目的と、戦闘目的にしても護身術に毛が生えた程度の存在。
つまりは国を動かすレベル…軍事的にはほとんど意味をなさない、俺が元いた世界でのほとんどの古武術のような、誰かが継承、鍛錬していかないとあっという間に形骸化してしまうものだと言うことらしい。
異世界と言ってもそれじゃあまりに…。
「ですが、少なくとも3000年前には確かにいたのです。
あなた様のような。超絶的な地位を振るい、国を作り、あるいは守る様な方々。
もはや神話でしかない真の魔導士様たちが。
元々はこの国も…」
「なるほど…少しでも魔術を継承していくのは、いつかそれが蘇ることに望みを託して、と言うことだったんですね。」
「仰る通りです。
もっともアラカスの監視もありますので、あくまでも伝統芸能の継承という建前にはなりますが…」
「そう…ならざるを得ませんよねえ。」

その「いつか復活すると膨大な年月を費やし希望を連綿と託したチート魔導士にして救世主になりうる存在」
の有力候補が唐突に異世界から横入りして来た。
これはなんだか皮肉というのか微妙な感じだよなぁ…。
まあ俺が「ホンモノ」と決まった訳ではないにせよ。
思い浮かべつつ、目の前の美味しいシチューを掻き込む俺…。
「ごちそうさまでした」
いつ以来か、手料理なんてものは…
手を合わせる俺に一瞬奇異な目を向けるが、ニッコリと笑顔を返してくれるヒルダ母娘。
そこにスルーズが割って入る。
「人心地ついたら、錬成場に来てくれるか?
マサヒコ。」
「了解した。」
紅茶?に似たようなものをすすり、俺もそれなりに表情を引き締める。

「明朝、私が元居た皇都防衛軍時代からの子飼いの直属兵32名と共に、向こうからの召喚を待たずに進発する。
例の自動小銃とやらは、実体化できたのか?」
「ああ、なんとか揃ったぜ?
君自身が使う分含め33丁。
全員に装填含め、即席だが使い方を仕込んでおいてくれ。
予備弾倉確認は忘れずに。
もっとも俺の能力で都合よく生成したものだから、(ゲームに登場する銃火器と同じく)メンテナンス等にそれほど細かい配慮はいらないだろうが。」
「わかった、ふふ…昼間のアレを集団で一斉に…想像するだけで壮観だな」
一瞬雌虎のような表情を浮かべるスルーズ。
元は女千人長…女騎士でもなんでも良いが、ある意味変態だな…。
まあ俺も今や人の事は言えないけど。

「明朝4時、日の出前に一同を集めこれを配る。
実際に撃つのは郊外に出るまで出来ないが。
しかし手ほどきはその時改めて頼む。」
「わかった。」
「ところで、お前自身のその他の、というより他の能力について知りたい。」
うむ…
「くりかえしての通り、まだまだ自分の能力を自身で把握しきれてない状況だ。
武器の実体化は、今のところその銃くらいで限界だろう。
しかし。
『時間限定での召喚』ならば、鉱山での一件におけるそれを遥かに上回る。
それは自身を持って言える。
あとは実体化を含めた能力の絶対値も。」
「よし…それを確約してくれるなら心強い。
正に百万の味方に勝る」
互いに笑みを浮かべ握手を交わした。
その後30分程言葉を交わし、あてがってもらった寝所に向かう。

フリスト…
「ど、どうしたの?」
「私も一緒に…連れて行ってください!」
は!?
「いやーダメダメダメ、わかってるとは思うけど、俺でも姉さんでもどうなるかわからない戦場ですよ?
護りきれずに何らかの事があったらお母様にも申し訳が立たない。」
言いながらも、この世界に来て以来の疲労が一気に来て、よそ様のベッドで申し訳ないが無遠慮に最短距離で潜り込んでしまう俺。

ふわっ。
ん?
手に柔らかい感触。
そして、明らかに心理的なものでない癒しの感覚。
なんだこれは…「疲れすぎて反面眠りづらい」
浅い睡眠になりがちな感覚が消えて安らぎが…
そうか、この少女も。
その能力、才能の一端…。
ありがとう…と言えたかどうか。
俺は深く眠りに落ちた。

そして、夜明けが近づく。
凄いな。
面構えが違う。
錬成場に集まった、スルーズを慕う精強な兵たち。
その兵士たちに20式小銃を見せる。
軽いどよめき。
流石に、この奇妙な鉄のギミックに秘められた恐るべき戦闘力に気付いたのだろう。
実際に撃たずとも。
レクチャーが終わった後、スルーズが声を張る。
「では、所定の手順に沿って状況を開始する。
最終目標は皇都元老院の掌握!
遮るものは全て制圧排除する!」
「御意!!」
皇都進軍の開始であった。


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