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失格聖女編

11お茶ですか?自分でどうぞ。

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 凍りつく様な瞳が、激情を揺らし私を捕らえている。

 ———違う
 そう唇を動かそうとした瞬間。

 ひゅ、という風が起こったかと思うと、私の両サイドから旋風の様に飛び出したのは、ランティスとアーチだ。

 ガチンッガキンッ
 と金属のぶつかり合う音が響く。

 相手が動き出す気配はあった。
 しかしそれよりも早く、私の優秀な護衛である二人は飛び出したのだ。
 それはあまりにも早く、瞬きをした瞬間には、ウレックスが剣を鞘から抜く、その前に彼の目の前に辿り着いていた。

 抜いた双剣は剣先を私に向けるその前に、二本の剣が押し戻す。

 ギギギ、と刃先同士が擦れて耳障りな音が鳴った。


「くぅっ……っ」

「どうしたんです聖剣、鈍ってますよ」
「剣が軽くなってるぜ、押し負けるぞ」



 ウレックスの強みは、両方の腰に差された刀を自在に操る身体能力にある。
 軽い身のこなしは国一番の速さを持ち、誰よりも強く、速く相手が刀を抜く前に、魔法が発動する前に元を断つ。
 それがこの国の『聖剣』という名前が持つ意味。

 この国の砦たる能力———のはずだった。
 
 私が聞いた話ではそうだったのだが、どうも様子がおかしい。
 完全にランティスとアーチが押しているではないか。

 以前ランティス達が聖剣になれるかも、なれなれ!なんて軽口を叩いていたが、それが現に目の前に示されている。信じられないという様にウレックス、そしてすぐ後ろで聖女ユナを支えるダトーとハウが目を見開いてその様子を見ていた。

「貴様等っ! 自分達がした事が何かわかっているのか!?」
「そうだ! ウレックスの言う通りだ! 聖女であるユナを階段から突き落とし、我らにまで切先を向けるとはっ……! これは国家に対する反逆罪に当たる重罪だ!」

 普段の澄ました顔が嘘の様だ。
 眼球が飛び出しそうなほどに見開かれた目は赤く血走り、顔は怒りや苛立ちから歪んで顔がくしゃくしゃになっている。大きな声を上げる様子も、聞いていた話とは全く違う。


「ハウ、貴方頭でもおかしくなったんですか?」

「な、なんだと!? 貴様のようなコネだけの奴に言われたくない」

「は、……んだとコラ」


「ちょ、ストップ! ストップ!」

 私からじゃアーチの表情は何一つ見えないが、ハウの言葉で急に言葉遣いが荒くなったアーチに、異常事態だと気がついて思わずストップをかけた。とはいえかけたのは声だけだが。

 いつもニコニコしてる子ほど、起こると怖いぞパターンなので、早く止めないと本格的に亀裂が入ってしまう。

 新入社員のいつでもニコニコイエスマンだった男の子も触れられたくないワードが出た瞬間に豹変して般若のごとき表情で押し付けられた仕事しっかり差し戻ししてたもんな。やった定時で帰って合コンだーってはしゃいでた上司はお陰様で残業だもんな。いや、自分でやるべき仕事だから当たり前だけどね。やらないとね?人に押し付けちゃいかんのよね。脳死?あれも脳死だったのかな?

 現状武器まで取り出しちゃってる状況だから、もっと危ない。

「ほら、離れて離れて———聖女ユナを治して———」

 祈りを込めて、力が流れるようにイメージをすれば、聖女ユナの頭上に光のカーテンのようなものが現れて、風に揺られるようにユラユラとはためくとやがて溶けるように消えていった。


「あ、あれ……」
「大丈夫か、ユナ」
「ええ、大丈夫。ありがとうダトー様……」
「ユナ」
「ハウ様も」

 むくりと自力で起き上がったユナは傷ひとつなく、顔色も良い状態だった。健康そのもの。頬もピンクに色づき可愛らしい。うんよかった。引き攣った笑みで「もう一人の聖女、様、ありがとう~、もう大丈夫みたいですぅ。じゃ、じゃあ」なんて口早に喋ると、蝶のようにひらりと身を翻してサッとその場から去っていってしまった。うちの護衛二人と剣を交えていたウレックスも、「チ、ユナがそういうのならば……」と、剣を降ろし、他の二人と一緒にその身を翻して去って行った。


 アーチからぼそっと「チ、あいつ真っ二つにしてやればよかった」なんて聞こえてきたもんだから、ギリギリセーフで血を見ずに済んだらしい。ほっ。

「あいつ等、とんだ腑抜けになったもんだぜ」

「なんだったの……私、あの子に触れてもないんだけど……?」

「はぁ? どういう事だよ」

「……つまりあの餓鬼、自分で階段から落ちたのか?」

「いやぁ、わっかんないんだけどね」

「おいおいそれって……さっきの状況的に事故だったよな、あちらさん的にはやたら敵意剥き出しだったしトキが落とした様に見せたくてやったんじゃ」

「うわうわ、てことはあわよくばあそこでトキを敵にして怪我ちらつかせてトキを始末しようとしたって事? 自分がわざわざ怪我して戦う様に仕向けるとかどんなだよ」

「こっわ。ドロドロじゃん。昼ドラじゃん。いやいやいや。私あの子に恨まれる様な事何もしてませんけど。むしろあの子の出来てない分の補填で巻き込まれた可哀想なお姉さんなんですけど!?」


 発想怖すぎるんだけど。冤罪で後ろから刺されるのだけはごめん被りたいわ。
 
 
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