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聖女追放編
23企画はクロージングが大事
しおりを挟む証言者は数人いる。
時刻にして、深夜の二時。
女性の部屋の中を覗く行為は言わずもがな禁じられた行為であるものの、それは罪人には適応されない。
語弊があるが、覗き見るのではなく、監視は必ず目視で行わなければならない。魔法を使える騎士であれば、その力を持って間接的に鳥の目を借り盗み見る方が心穏やかではあるが、それは許されない。
塔にはあらゆる結界が張られ、不用意な力はすぐに国王陛下に知らされるようになっている。
騎士達は、あの塔の部屋の扉の前に二人、室内に透明の魔法の壁を隔てて二人、さらに塔の外に二人、計6人の騎士が警備している。
私の騎士達も数人駆り出され、警備をしているが、彼らは清い心の持ち主なので文句はないようだ。頑張るぞ!と曇りなきまなこで出勤していきましたとさ。聖女ユナが筋肉質な騎士が居るとボヤいていたそうだが、好みじゃ無かったのだろう。そんなこと言っちゃって。いつか気がつくぞ。筋肉は裏切らない。女も男も筋肉は多少無いとダメなんだぞ。
そんな中、ぼんやりと外を眺めていた聖女ユナが突然何かを思い出したように立ち上がると、大きな声を上げたそうだ。あの儚げな顔から出たとは到底思えないような、とんでもなく大きな声だったそうだ。
どんなだ。
見張りだった騎士が言うには、彼女が言い残した言葉はこうだ。
『あーーー!! 思い出した、そうだそうだ隠しキャラ!———魔王!』
この一言だけ言い残し、忽然と姿を消したのだという。
瞬きの間に、瞬く間に、すっかり跡形もなく、元々そこに居なかったかのように消えたのだという。
もちろんここでみんな思うだろう。あれ、魔法の壁は?騎士達何やってんの?
私も思った。
というかそんな事できんの?じゃあ私だってそれ教えて欲しかったんですけど。一人でとんずらとか羨ましいんですけど。なんて奥義それ?教えてくれへんか?
ランティスとアーチの視線が刺さった。
くっ、さすが見張り兼護衛。私の心が読めるんだ。ううう。
「ごほん……えーっと、魔法の壁はどうなったんです?聖女ユナの行方は?」
「それが……掴めていない。どうやって魔法を抜けたのかも不明だ。姿を消してその後の足取りも分からん。魔王という言葉だけを残して消え去ったのだ、何も残っていない……追うものが何も無いのだ」
「何も?」
「そうだ。魔王という言葉だけが手がかりではあるが……聖女殿は何か知っておられるか?」
「何も」
関わったのは時間にしてほんの短い間だったが、聖女ユナ、彼女の性格を考えると攻略対象を変更したと考えるのがまぁ妥当かなと思う。
魔王という存在がいるのは知っているが、聞いた話では魔の国という小さな国の王様だから魔王!くらいのもので、今のところ敵対はしていないようなのだ。そこから逸れた魔物が国内に入り込んだら討伐対象となるわけだが。外来種みたいなもんかな。
隠しキャラという言葉から察するに、そこにユナが向かったと考えるのが通常だろう。
問題はどうやって消えたのか。
聖女パワーならなんでも有りな世界だし、うん多分聖女パワーだな。望んでこの国?世界?に来たみたいだし、私には見当もつかないミラクルパワーなんだろうな、で落ち着いた。国王様も「聖女殿がそう言うのならそうなのだろうな」と、おそらく標的を魔の国の王に変えたという全くもって尻軽な女みたいな不名誉極まりない理由で納得したようで、とりあえずこれにて早朝会議は終わりを告げた。
つまり追いかけるまではしない。
この国に再び足を踏み入れれば罪人となる可能性は大いにあるが、ひとまずはこの国主要の騎士メンバーたらし込んで大ダメージもたらしたユナの行方よりも国の兵力と信用の回復に努めるべき、という判断と相なった。
私も同意見である。
強くうなづいた。
なんせ、摩訶不思議聖女パワーに頼らずとも己の足で立ち上がる国を目指して色々やってんだからな。
なんでもかんでもセイジョサマナントカシテー、なんて言わせねぇぜ。このまま放っておいたら雨が降っても聖女様、曇っても聖女様、お金がないのは聖女様パワーが無いせいとか言い出しかねない。国がある程度自立すれば燃費の悪い聖女なんて必要なし!見張りも無くなり晴れて私は自分の世界への帰り道を探す旅にでも出れるだろう。うんうん。
独り言に近い形でそう言えば、シェリルちゃんがはい!と元気よく手をあげた。
「はい、シェリルちゃん」
「その時は私はトキ様について行っても良いですか?」
「えー、どうしようかな」
「ついて行きますね!!」
「よーし、シェリルちゃんと女子旅!」
わーいと喜ぶシェリルちゃんの隣からズイと大きな図体が呼んでもないのに割り込んで来た。やめろ私を挟むな。
「はーい! 僕もついて行っちゃう」
「仕方ねーな、俺もついて行ってやるよ」
「ちょっと待ってよ! それ今と変わんないじゃん!見張られてんじゃん」
お行儀よく挙げられたゴツいお手手をはたき落としてやる。パシンと良い音が鳴って手がジーンとなる。
痺れた手の平が痛くて思わず涙が出そうになる。そのまま二人を睨んでやると、なぜか少し頬を赤らめた二人が目に入った。
「な、なに!?」
「いや、トキのそういうとこ可愛いよな」
「うん、ちょっと、いやかなりグッときたな~」
「え! どこ!? なにこわい!」
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