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三章 初めての喧嘩と仲直りのクッキー
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第3章『初めての喧嘩と、仲直りのクッキー』
朝、目覚めたユイが小屋の外に出ると、畑が――めちゃくちゃだった。
芽吹いたばかりのリーフ草が踏み荒らされ、ピリトマの苗は折れ、肥料袋が散乱している。
「……えっ、何これ……」
呆然としたその場に、泥だらけの足を引きずって戻ってきたのは――ミアだった。
白髪の長髪、左右違う赤と青の瞳。眠たげな目をこすりながら、小さくつぶやく。
「……ごめんなさい、お姉ちゃん……ちがうの私、草にじゃれちゃって、そしたら転んで……」
ユイは声を失った。
数日前まで、人の顔も見ず「ご主人様」とだけ呼んでいた猫耳少女。
最近ようやく「お姉ちゃん」と言ってくれるようになり、笑顔も見せてくれた。そんなミアが、、、
「ミア、、、これはさすがに、怒るよ?」
ピタリと動きを止めたミアが、しゅんと綺麗にツヤがでた猫耳がたれた。
「ごめんなさい……でも、ほんとに、わざとじゃ……なくて……」
「知ってる。わざとじゃないのは、見ればわかる。でも……言ったよね? 畑には入らないようにって」
「……っ」
ミアの耳がぴくりと震えた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……」
そう言って、ミアはばたんとその場に座り込んだ。涙はこぼれていないけど、表情がまた、あの“檻の中の子”に戻った気がして――ユイの胸が、締めつけられた。
「……ちょっと、おいで」
ミアを抱き起こし、小屋の中へ連れていく。
火を入れたストーブのそばで、そっと毛布をかけた。
ユイは一度、深く深く息をついた。
「じゃあ、罰として今日はおやつなしね。代わりに、クッキー作るの手伝って」
「……え?」
「今度はミアが“精製”覚える番。チートじゃなくても、人って色々作れるんだから」
ミアの目が、ほんの少しだけ見開かれた。
ユイが手を伸ばし、木のボウルと粉を置く。
「粉はここ、砂糖はこれ、卵はこっち。混ぜてこねて、形を作って……」
「……お姉ちゃん……」
ミアの声は小さかったけれど、はっきり震えていた。
「……あたし、また怒られるかと思ってた。どっか捨てられるって……」
「バカだな、そんなわけないでしょ。怒るけど、それで終わり。謝ったら、許す。だって家族なんだから」
「……家族?」
「そう。“お姉ちゃん”って呼んだんでしょ?」
ミアは口を開いて、閉じて、また開いて。やがてぽろりと涙をこぼした。
「……うん。ごめんなさい。ありがとう、お姉ちゃん」
「よし、じゃあまずはクッキーの生地、ちゃんとこねよっか」
「一緒にクッキー食べて、これで仲直りね」
部屋中に甘い香りがふわりと立ちのぼり、幸せな空気が広がった。
朝、目覚めたユイが小屋の外に出ると、畑が――めちゃくちゃだった。
芽吹いたばかりのリーフ草が踏み荒らされ、ピリトマの苗は折れ、肥料袋が散乱している。
「……えっ、何これ……」
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白髪の長髪、左右違う赤と青の瞳。眠たげな目をこすりながら、小さくつぶやく。
「……ごめんなさい、お姉ちゃん……ちがうの私、草にじゃれちゃって、そしたら転んで……」
ユイは声を失った。
数日前まで、人の顔も見ず「ご主人様」とだけ呼んでいた猫耳少女。
最近ようやく「お姉ちゃん」と言ってくれるようになり、笑顔も見せてくれた。そんなミアが、、、
「ミア、、、これはさすがに、怒るよ?」
ピタリと動きを止めたミアが、しゅんと綺麗にツヤがでた猫耳がたれた。
「ごめんなさい……でも、ほんとに、わざとじゃ……なくて……」
「知ってる。わざとじゃないのは、見ればわかる。でも……言ったよね? 畑には入らないようにって」
「……っ」
ミアの耳がぴくりと震えた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……」
そう言って、ミアはばたんとその場に座り込んだ。涙はこぼれていないけど、表情がまた、あの“檻の中の子”に戻った気がして――ユイの胸が、締めつけられた。
「……ちょっと、おいで」
ミアを抱き起こし、小屋の中へ連れていく。
火を入れたストーブのそばで、そっと毛布をかけた。
ユイは一度、深く深く息をついた。
「じゃあ、罰として今日はおやつなしね。代わりに、クッキー作るの手伝って」
「……え?」
「今度はミアが“精製”覚える番。チートじゃなくても、人って色々作れるんだから」
ミアの目が、ほんの少しだけ見開かれた。
ユイが手を伸ばし、木のボウルと粉を置く。
「粉はここ、砂糖はこれ、卵はこっち。混ぜてこねて、形を作って……」
「……お姉ちゃん……」
ミアの声は小さかったけれど、はっきり震えていた。
「……あたし、また怒られるかと思ってた。どっか捨てられるって……」
「バカだな、そんなわけないでしょ。怒るけど、それで終わり。謝ったら、許す。だって家族なんだから」
「……家族?」
「そう。“お姉ちゃん”って呼んだんでしょ?」
ミアは口を開いて、閉じて、また開いて。やがてぽろりと涙をこぼした。
「……うん。ごめんなさい。ありがとう、お姉ちゃん」
「よし、じゃあまずはクッキーの生地、ちゃんとこねよっか」
「一緒にクッキー食べて、これで仲直りね」
部屋中に甘い香りがふわりと立ちのぼり、幸せな空気が広がった。
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