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第六節 〜似非魔王と魔物、女王と兵隊〜

074 可笑しくて泣いてしまう程に

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お話しは『ギルド長』◆視点から始まりますが、途中で『一般ギルド兵』の◆視点へと変わります。絶望的な“戦い”の中で、その真っ只中の兵隊さんの気持ちが知りたくなってしまって……。
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ご笑覧いただければ幸いです。
※注1
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。

 ◆ (引き続き『ギルド長』の視点です)
―――――――――

(謝りたくてギルド長を探していた赤鬼が聞いていた。ガグぶっていた。)


 それにしてもと思う。瞬く間に小僧はアラクネの女性たちを把握し、信頼を得て(やり方はいただけないが。はなはだ公序良俗に反する鬼畜の所業と言わざるえない魔法を使用し……でもあれは“魅了”ではなかった。では小僧は何をしたのだろうか?……まあ、身体的になにかあった訳でもなく、彼女たちも妙に上気して喜んで? いたし……)その指導のもとで遺憾なく能力を発揮し、戦いの為の大事な礎を創り上げようとしている。


 それにしても驚愕なのはお嬢さんの方だ。本当に瞬く間に兵隊全員を虜にし、女神のように君臨していた。チョット見は魔法をバカスカ撃ち込んで虐めているようにしか見えなかったが。……それをバカな男どもは喜んでる風もあり。女神と言うより“女王様”か? あの年で。恐ろしい。
 ただなぜか小僧のみは兵隊たちに忌み嫌われている。蛇蝎だかつの如く。いいザマだ。そしてその気持ちに大賛成。

 お嬢本人はただ君臨しているだけで、それを支え実質的に兵隊を指揮指導し、廻しているのはサマンサだ。私が知る彼女はそんなタイプでは決してなかったはずだが……。陰では“黒の副官”殿と呼ばれ、大いに慕われているようで……オマエもかサマンサ、以前と変わったのは“目覚めた”からか?
 驚いたことに赤鬼さえ従えている風で……それはチョット困るが。

 ……ゲートに関しては、感謝している。本当に。
 あの赤鬼が親身に部下へ“武魔装技操”の指導しているのを見た時は本当にビックリして二度見してしまった程だ。そしてそのあまりにも下手くそな指導能力の無さにも。それでも諦めずに必死に言葉を尽くし、手とり足とり、でも全てがトンチンカンで、可笑しくて泣いてしまう程に。あの、直ぐに諦めるだけのゲートが。私の幼馴染。本当に、もうダメなのだと、昨日見せた地面に寝っ転がり何時ものように不貞腐れていたゲートを、もう、その手を離すしかないと半分諦めていたのに。
 感謝している。


 しかしながら、彼らがこの街に流れ着いて数日しか経っていないはずなのに、そもそも私が無理やり引き込んだものだが、二年間いくらやっても動かない事態が切羽詰まったドン詰りの此処ここに至って動き出した気がする。まだまだゆっくりで、本当にたどり着けるか分からないけれど、それでも。
 ギルド長としてこの街に赴任して一年チョット、私は何をしていたんだろうとの忸怩じぐじたる思いはあるが、それが何だ。悩んだり後悔したり悲観にくれるのは未だ先でいい。今は流れに乗る。それだけだ。

 そういえば、今日は私に仕事を押し付けて三人は忙しくして出かけていった。すぐに戻ると言っていたが。何をしに行ったのか。そんなの決まっている。悪巧みだろう。被害に合うヤツに一言、迷惑を掛けられた先輩として言ってやりたい。『気をしっかり保て』以上。

 赤鬼は変わったと私は言うが、私も大概だ。
 今も立ち止まれば叫び声を上げ、悲鳴を上げ蹲りそうになる。恐怖で。“うつり”で私達全員が死んでしまう。それは幻想ではなくほぼ決まりのリアルだから。胸が苦しい。死にそうになるぐらいに、それでも、未だやれる、やれることが有る。そう思えるだけで一歩踏み込める。多分赤鬼も。アラクネも、兵隊たちも。そして『黒の副官』ことサマンサも。
 絶対に小僧とお嬢のお陰だとは思いたくないけど。


 そう言えば、最後に小僧から頼まれた仕事がひとつ有る。今日中までではなく、“うつり”が始まる前日までに整えろと言っていた。
「いいか、時間が有るから後回しは無しだ。常に頭の隅にとどめ置き、何時でも取り出し検討しこねくり回し再度検討し重ねろ。冗談ではなく、これが今回の作戦の大切なパーツのひとつになると俺は確信している。全てはアンタの双肩に掛かっている。頼むぞ、俺を失望させるな」

 私は壮絶な“空手チョップ“を小僧の脳天にお見舞いした。「ヒデブ」とのある意味伝統的な一言を残して血吹雪と共に地に伏せる小僧。
「何様のつもりだ小僧。なにが“失望させるな”だ! 殺すぞ。殺すのは既成事実だがな」
  

(赤鬼は無事見つからずに姿をくらます事に成功した。“うつり”を前にその生命いのちを落とす愚をおかさずに済んだことに感謝した。……謝るのはソッコーで諦めた)


 ◆ (『或る、盾使い《タンク》』の視点)

 訓練メニューは変わらない。盾を持った肉壁と、ソコに魔法を撃ち込む射手とで分かれる。盾使いタンクのすることは変わらない。ただ守る。射手はそれを許さない。が、奴らの『許さない』加減の練度が桁違いに上がりやがった。撃ち出される弾の速度と連射回転数、何より重さがパネェ。

 一発目を今まで通りにマトモに受けるとその衝撃で後ろに持っていかれる。負けないように身体に力を入れ衝撃に耐える。筋肉の硬直は思った程には僅かな遅延を生むに留まるが、それが次弾、三発目、四発目、五発目には積み重なったスキは決定的なミスとなり、盾を立てる事も叶わず最後、バンザイ状態の脇腹に狙いすました“女王様”のありがたい魔弾が抉る『ありがとうございます』

 ありがたいが、連続で受けると本当に死ぬ。そこで”なし”を“黒の副官”殿から直接的に手取り足取り、別の言い方だと鉄拳足蹴りで伝授された『身に余る光栄です』特に黒エナメルコートのスリットから繰り出されるお御足でのトドメのスタンピングは『大変結構でございます』おかわりを所望します。

 “なし”とは飛んで来る弾に対して真正面から受けるのではなく、入射角をつけて盾に当て、弾を斜め後方に柔らかく流し逸らす技だ。
 ただ“なし”を連続で使用できる様に成るには“先読み”が必須と成る。迫りくる弾丸の正確な軌道を図る必要が求められ、それが単発ではなく回転が早い連撃の中で単に目で追ってから体を動かす、では対応できない。文字通り“先読み”し、次弾が射出される前、敵の僅かな動きから弾道を察知する。

 普通では至極困難なその技を既に隊ではほぼ全員が習得している。自分で言うのも何だが、異常過ぎるスピードで俺らは強くなっている。
 チョット前まではグランドを周回走するだけでヘロヘロ、軽いはずのこのペラッペラの盾を前に構えるだけで腕がプルプル。射手だって他人事ではなく、射出されたソレを三メトルもあれば手でハタキ落とせてた。それが……。

 “盾使い”も“なし”も“武魔装技操”の一形態らしい。魔技になる前の基本動作の特化的な。そんな事を“黒の副官”殿がおっしゃっておられた。
『アザース』
 もちろん俺も隊の中では早い時期に習得し、今は次の技に取り掛かっている。その名は“シールドバッシュ”。カッコイイ。もう名前だけでイイ。本物の、正真正銘の“武魔装技操”だ。

 “黒の副官”殿によれば習得できれば王都の近衛兵相手でも盾一枚で勝負できるとのこと。決まれば相手を五~六メトルは吹っ飛ばせるとのことだ『ありがとうございます』胸アツではないか。

 “シールドバッシュ”は言ってみれば拳闘のカウンターの盾バーションだ。ただ盾を構え弾が来るのを待つのでなく、自ら前に出て積極的に当てに行く。鋭く当てに行く勢いと弾の勢いとが相殺されると動きに少しの遅延も生まれず尚且、弾く力が増す。魔法的攻撃に昇華するらしい。

 これを極めると“武魔装”の最高グレードである“連技”に昇華する。胸熱アツアツ過ぎる。
 自ら動くことでその場の“流れ“を支配し相手を圧制する。撃たれてから守るのではなく、逆に相手に撃たせて自分の有利な状況で守る“超攻撃的な盾”、それが“シールドバッシュ連技”、盾の究極。
 習得出来れば、俺らの生き残る確立は、たとえ少しだけだとしても上がる気がする。

 と、周りから歓声が上がる。後ろを振り返ると俺と背中合わせで俺の背中を守っていたタンクの相棒ツレが“黒の副官”殿の薄い胸にいだかれ頭を撫でられいた。なんだとー! 奴は隊の中で二番目に“シールドバッシュ”を習得したと言うのか? その証拠に。

「今のは良かったぞ、もう“武魔装技操・連技”と言っていいな。この短い時間でよくやった」

「あ、ありがとうございます。お姉さま!」

 奴は俺より二つ下で、この隊でも落ちこぼれの部類だった。いつも俺の前ではモジモジしてハッキリしない半端者だったはずが、それがこの特別訓練から急速にその存在感を高めていっての、今日の結果なのだろうか。でも、

 あの究極の薄い胸に顔を半分埋め、片目で俺を見やったその眼が俺に勝ち誇ったように、見下すように。半笑いしていた。先輩、マダ出来ないンでスかぁ。
 ころす。瞬殺だ。その前に離れろ。究極で高位なその薄く淡白な至宝のお胸は俺のものだ。おれだけのぉ! その瞬間、俺の後頭部に激しい衝撃、“女王様”の狙撃が決まる『ありがとうございます』お替わりをお願いします。



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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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