79 / 129
第七節 〜遷(うつり)・初茜(はつあかね)〜
079 初茜(はつあかね)3
しおりを挟む
77 78 79 80 は“遷”の初日、その朝の一コマとしての“ひと綴りの物語”です。
《その3》
それにしてもあの“ヤンキー”が……最初はただの一回コッキリのモブだったのに……。
ご笑覧いただければ幸いです。
◆ (引き続き『槍使い《ジンク》』の視点です)
―――――――――
「……良くわからないんだよ。頭が良さそうな時もあるけど基本はバカだしね」
しばらく思案する様な顔を態と晒し、言葉を続けた。
「知っていると思うけど僕ら兵站班は、盾使いの兵站もだけど一緒にハムさんの指揮下に入っている。指揮下って言うより指導だけどね。その指導の方法は『考える』に尽きるね。指示がなくても次を自分で正しく動けるようにね。
たぶんだけど、……今回をどうやって超えるかだけじゃなく、次の二年、その次と、あとに続く“遷”の超え方を考えているんじゃないかな。誰一人、今回のだって、本当に乗り超えられるのか、半信半疑なのにね。
噂だけど、昨日君にも“羽竜落とし”の槍を含めた装備一式が付与されたと思うけど、盾やその他も含めて、全てハムさんが用意したらしい。どうやったのか皆目わからないけどね」
「眉唾だな」とオレ。
「そうだね。でも君は僕の話しを聞いてほとんど全部信じてる。違う?」
オレはベットから勢いをつけてよっこらしょと起き上がると、部屋付きの洗面台まで歩き顔を洗う。ついでに鏡を覗き込み、頭の真ん中のトサカをなんとか撫で付けようと苦慮する。皆はワザと“立たせている”と囃し立てるが、違う。唯の生まれつきだ。特異体質だ。オレのコンプレックスだ。オレは撫で付けを何時ものように諦める。一纏めにに後ろで縛ってやろうと、今は髪を伸ばしている最中だ。早く伸びればいいのに。
「君はわかりやすくて凄くいいね。ねえ、僕の質問も答えてくれるかな。君は『フラグが立つ』って迷信を知っているかな。知っていたらそれにつてどう思ってるか教えてほしいんだ。僕らエルフには無い迷信でね。いやね、さっき僕が」
「今日は随分と饒舌なんだな。珍しいじゃないか」
「むう、……なるほど。実に君の指摘通りだ。今日の僕は饒舌らしい。
こんな僕でもやはり平常心を保つことはむずかしいか。興味深い。
それはソレとして、僕の質問に答えてほしいな」
答えてやる義務はなかったが、何だかヤツと話すのが楽しくなってきていたのも確かだった。ワザと肩を竦めるポーズを決める。だって自分で迷信って言ってたじゃないか。
ちなみに、今までの一連の会話も、一度だけ外してやったヤツの視線は今は再び本に戻され、字面を追いながらだ。もう一度、やつの視線をコチラに向かせたいと思った。
「否定はしないよ。人それぞれさ、好きにすればいい。でもオレのオヤジは験がいいと言って、必ず靴下は左から穿いていたが、博打に勝ったところは一度も見たことはないな」
「でもさ、最後の博打は見事に勝ったじゃないか。君のお父さん達のお陰で僕も君も、この街も生き残ることが出来た。この街はイイ街だよ。何百もの街を見てきた僕が言うのだから間違いないよ……そうか」
と、そこでヤツは一旦言葉を止め、目線を本から外すと再びその碧色の瞳を僕に真っ直ぐに向け。
「僕が饒舌になった理由はこれか、君に伝えたかったんだね。最後になるかもしれない前に。
……ありがとう救ってくれて」
それだけ言うと再び本に視線を戻し。
「自分から話しを振っておいてなんだけど、そろそろ本に集中したいから暫くは話し掛けないでくれると嬉しいかな、それか、部屋を出て行ってくれると尚良い」
本当に体外だな。オレは色んな意味を込めて肩を竦めてやる。
テレるならそんな事、面と向かって言うなよエルフ。
こっちもどんな顔していいか判らないだろが。
そのままオレは“作った”顔のままドアのノブを回し押し開ける。顔が崩れる前に。
「出かけるなら、街を見てきたらいいよ。明日から君が守る事になる。君のお父さんが守った街を。もう一度。……そしたら、いいことがあるかもよ」
バカエルフ、自分から黙ってろって言ってたくせに。オレは顔を背けて廊下に出る。誰も居ない妙に静かな廊下をペタペタとサンダルの音をさせて歩く。ペタペタと、音だけがただ響いていた。
食堂に向けた足を途中で曲げ、エルフの言う通り街に出ることにした。昨日の夜から魔物じゃない普通の飯にやっと変わったが、昼は相変わらずだ。変わらずじゃないな、より酷くなって。防臭処理もされていない、ダイレクトかつ生で大皿に山盛りで積まれ、各自が好きな量を取っていく。
飯なんて腹が膨れればなんでもいいんだが、折角だしとの思いもある。決してエルフの口車に乗った訳じゃない。ここに至って改めて街を見たからって。なにより、オレはこの街で育ったんだ。今更だ。
ギルドの厳つい門をくぐり、大通りを街の中心地に向かう。
ペタペタとサンダルを引きずり歩くオレの足は何時の間にか細い路地に入り込んでいた。そこは奥の一角で蜘蛛の糸を紡ぐ工房が集まった、その職人達とその家族の腹を満たすだけの店が並ぶ、細い蛇行した通りだった。ゆるく隔離された俺たち一族の場所。オレがガキの頃の大半を過ごした通りだ。
ここを離れて二年、一度も戻っていなかったが、正直な感想で、こんなに狭いとは思わなかった。通りの最初の入口で間違えたかと引き返りそうになった程だ。そして二年前とは明らかに違うところがあった。其処此処に縁台を出し、昼間から酒を飲んで管を巻いていたアラクネのバカオヤジ共が居なかった。
かわりにアラクネのバカ娘四人組と、オレのイトコだかハトコの同い年の幼馴染が縁台に並んでアイスクリームを喰っていた。
瞬間的に不味い奴らと会ったと思った。オレはコイツラが苦手だ。見つかる前に踵を返そうと身構えた処で声を掛けられ掴まってしまった。
遅かった。イトコだか、ハトコだかの、まあ同じアラクネなのだから誰とでもどっかで血は繋がっているのだが、その幼馴染に笑顔で。
コイツはバカ四人と比べて苦手ではないのだけれど、小さい頃から妙にオレに懐いていた妹的な存在だったのが、長じるにつれコイツほうが遥かに優秀であることが解り、つまりはガキでバカなオレのコンプレックスだ。
「お、クソジンク。相変わらず湿気たツラしてんな」
お前に言われたくない。
「お前も来たのか。珍しいな。でもこのアイスはやらんぞ」
いらねーよ。
「………………」
………………。
「トサカ頭が私達をナンパするですって? 冗談でしょ、もっと男を磨きなさい。特に下の方を」
誰だよ、この子をこんなんにしたの。
「オ、オレは飯を食いに出てきただけだよ。じゃあな」そう言って今度は本当に踵を返すが。ハタと足を止めて振り返ったオレ。
「ワリぃシヅキ、カネ貸してくんない」
金を持ってくるのを忘れていた。出かけにエルフが話し掛けてきたせいだ。
「うん、いいよ」
「お、クソジンクは早くも女にタカるヒモ気質のアラクネ男の本領発揮か? そしてそれを許すダメ男好きのアラクネ女のシヅキと。終わってるな」
まったく、条件反射のようにタカっていたオレ。間違いなくオヤジの血を引いてるな。嫌だな。そしてシヅキ、なにニコニコ笑ってんだよ。オマエのことでもあるんだぞ。治してこっ。な。
でもオレは今奢って貰って飯を食っている。そのヒモ蔓であるシヅキはニコニコと笑いながらオレが丼飯を掻っ込んでいるのを眺めている。自らも自分の顔ほどの大きさの蒸しあんまんをバクバクと喰っている。たしかに終わってるな。
間違えた! 奢ってもらってない。金を借りるただけだ。オレは改めて自分に流れる血の呪いを嫌悪した。
それにしても。コイツはバカ娘四人組と一緒に飯食ったんじゃねーのか。よくそんなに腹に入るな。大丈夫か? バカ娘四人組は何時の間にか消えており、今は二人だ。
今いるところは酒場兼飯屋のゼベラばーさんの店だ。昼は子供や女たちの、夜はオヤジたちの怪しい社交場だ。特に旨くもないし自慢の逸品がある訳でも無い、有り触れたどこの街のどこの通りにもある普通の店だ。
丼飯も蒸しあんまんもガキの頃から喰っている旨くも不味くもないありきたりな、不味い方に若干傾いた普通の飯だったはずが、箸が止まらない。
「それにしても珍しいね、ジンクが街に出てくるなんて。なにかあったの?」
「何もねーよ。ただ、同室のエルフに折角だから街を見てこいって言われたんだよ、まあ、飯を喰うついでだ」いい事があると言われたことは黙っていた。なんとなく。
「あの年齢不詳性別不詳の超美形で目麗しいエルフさんと同室だったんだ。異種BLだね」
「BL? ってなんだ」
「ナンドモナイヨ」
「?、だいたい目麗しいってなんだよ。年齢不詳はその通りだが性別は男だぞ、見たからな。凄く長かった」
「何が長いの?」
「……」
自分で振っておいて何だけど、マジか? 天然か? 天才的な返しか? わからん。
エルフの話題が出たから聞いてみる事にした。
「おまえタンク組で兵站してんだろ、あのハムって何者なんだ?」
「ハム? ああ、ジンクを瞬殺したマスターのことか」
「……瞬殺は、その通りだけど。……マスターってなんだ?」
「ネエサン達の“表象印契”の師匠だから」
「“表象印契”って、顕現したのか? それじゃあの噂も本当なのか? 全ての装備を造ったって」
「本当だよ。全てのアラクネの女たちの“表象印契”を顕現させ、自ら魔法陣章も設計して、工房を指揮して蘇らせたって。それだけじゃないよ、今回の作戦? 戦術立案指揮もマスターだそうだよ。主立ってるのは“女王様”や“黒の副官”さんだけど、後ろで糸引いてるのはマスターだって。黒幕だね。蜘蛛だけに。
それだけじゃないよ、私達兵站班はマスターに指導してもらってるんだけど、その教え方が凄いの。もう感動って」
「自ら考える戦い方か?」
「そうそれ、でもそれだけじゃないよ。マスターは強いよ。物凄く。兵站班てさ、優秀だけど、だからこそなんだけど、みんな我が強いからさ、自分より強い人の事しか聞かないんだよね。今は違うけど……」
「何を急に遠い目になってんだよ」
「……イロイロあったんだよ。ほら、マスターってあんな見た目だし、基本的に性格破綻してるし、っていうか人の皮を被ったキチクだし」
そこまでコイツがいうほどか? そう言えば、普段は悪口を口にしないエルフも散々だったな。
「それにチョット困ったことがあって……。マスターって悪い人じゃないんだけど……基本悪い人だけど、アラクネの女の人に酷い事したんだって。“表象印契”を顕現させる儀式があって、それがね、女の尊厳を傷つけるっていうか。女の深い大事な処を酷く損なわせるんだって」
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
《その3》
それにしてもあの“ヤンキー”が……最初はただの一回コッキリのモブだったのに……。
ご笑覧いただければ幸いです。
◆ (引き続き『槍使い《ジンク》』の視点です)
―――――――――
「……良くわからないんだよ。頭が良さそうな時もあるけど基本はバカだしね」
しばらく思案する様な顔を態と晒し、言葉を続けた。
「知っていると思うけど僕ら兵站班は、盾使いの兵站もだけど一緒にハムさんの指揮下に入っている。指揮下って言うより指導だけどね。その指導の方法は『考える』に尽きるね。指示がなくても次を自分で正しく動けるようにね。
たぶんだけど、……今回をどうやって超えるかだけじゃなく、次の二年、その次と、あとに続く“遷”の超え方を考えているんじゃないかな。誰一人、今回のだって、本当に乗り超えられるのか、半信半疑なのにね。
噂だけど、昨日君にも“羽竜落とし”の槍を含めた装備一式が付与されたと思うけど、盾やその他も含めて、全てハムさんが用意したらしい。どうやったのか皆目わからないけどね」
「眉唾だな」とオレ。
「そうだね。でも君は僕の話しを聞いてほとんど全部信じてる。違う?」
オレはベットから勢いをつけてよっこらしょと起き上がると、部屋付きの洗面台まで歩き顔を洗う。ついでに鏡を覗き込み、頭の真ん中のトサカをなんとか撫で付けようと苦慮する。皆はワザと“立たせている”と囃し立てるが、違う。唯の生まれつきだ。特異体質だ。オレのコンプレックスだ。オレは撫で付けを何時ものように諦める。一纏めにに後ろで縛ってやろうと、今は髪を伸ばしている最中だ。早く伸びればいいのに。
「君はわかりやすくて凄くいいね。ねえ、僕の質問も答えてくれるかな。君は『フラグが立つ』って迷信を知っているかな。知っていたらそれにつてどう思ってるか教えてほしいんだ。僕らエルフには無い迷信でね。いやね、さっき僕が」
「今日は随分と饒舌なんだな。珍しいじゃないか」
「むう、……なるほど。実に君の指摘通りだ。今日の僕は饒舌らしい。
こんな僕でもやはり平常心を保つことはむずかしいか。興味深い。
それはソレとして、僕の質問に答えてほしいな」
答えてやる義務はなかったが、何だかヤツと話すのが楽しくなってきていたのも確かだった。ワザと肩を竦めるポーズを決める。だって自分で迷信って言ってたじゃないか。
ちなみに、今までの一連の会話も、一度だけ外してやったヤツの視線は今は再び本に戻され、字面を追いながらだ。もう一度、やつの視線をコチラに向かせたいと思った。
「否定はしないよ。人それぞれさ、好きにすればいい。でもオレのオヤジは験がいいと言って、必ず靴下は左から穿いていたが、博打に勝ったところは一度も見たことはないな」
「でもさ、最後の博打は見事に勝ったじゃないか。君のお父さん達のお陰で僕も君も、この街も生き残ることが出来た。この街はイイ街だよ。何百もの街を見てきた僕が言うのだから間違いないよ……そうか」
と、そこでヤツは一旦言葉を止め、目線を本から外すと再びその碧色の瞳を僕に真っ直ぐに向け。
「僕が饒舌になった理由はこれか、君に伝えたかったんだね。最後になるかもしれない前に。
……ありがとう救ってくれて」
それだけ言うと再び本に視線を戻し。
「自分から話しを振っておいてなんだけど、そろそろ本に集中したいから暫くは話し掛けないでくれると嬉しいかな、それか、部屋を出て行ってくれると尚良い」
本当に体外だな。オレは色んな意味を込めて肩を竦めてやる。
テレるならそんな事、面と向かって言うなよエルフ。
こっちもどんな顔していいか判らないだろが。
そのままオレは“作った”顔のままドアのノブを回し押し開ける。顔が崩れる前に。
「出かけるなら、街を見てきたらいいよ。明日から君が守る事になる。君のお父さんが守った街を。もう一度。……そしたら、いいことがあるかもよ」
バカエルフ、自分から黙ってろって言ってたくせに。オレは顔を背けて廊下に出る。誰も居ない妙に静かな廊下をペタペタとサンダルの音をさせて歩く。ペタペタと、音だけがただ響いていた。
食堂に向けた足を途中で曲げ、エルフの言う通り街に出ることにした。昨日の夜から魔物じゃない普通の飯にやっと変わったが、昼は相変わらずだ。変わらずじゃないな、より酷くなって。防臭処理もされていない、ダイレクトかつ生で大皿に山盛りで積まれ、各自が好きな量を取っていく。
飯なんて腹が膨れればなんでもいいんだが、折角だしとの思いもある。決してエルフの口車に乗った訳じゃない。ここに至って改めて街を見たからって。なにより、オレはこの街で育ったんだ。今更だ。
ギルドの厳つい門をくぐり、大通りを街の中心地に向かう。
ペタペタとサンダルを引きずり歩くオレの足は何時の間にか細い路地に入り込んでいた。そこは奥の一角で蜘蛛の糸を紡ぐ工房が集まった、その職人達とその家族の腹を満たすだけの店が並ぶ、細い蛇行した通りだった。ゆるく隔離された俺たち一族の場所。オレがガキの頃の大半を過ごした通りだ。
ここを離れて二年、一度も戻っていなかったが、正直な感想で、こんなに狭いとは思わなかった。通りの最初の入口で間違えたかと引き返りそうになった程だ。そして二年前とは明らかに違うところがあった。其処此処に縁台を出し、昼間から酒を飲んで管を巻いていたアラクネのバカオヤジ共が居なかった。
かわりにアラクネのバカ娘四人組と、オレのイトコだかハトコの同い年の幼馴染が縁台に並んでアイスクリームを喰っていた。
瞬間的に不味い奴らと会ったと思った。オレはコイツラが苦手だ。見つかる前に踵を返そうと身構えた処で声を掛けられ掴まってしまった。
遅かった。イトコだか、ハトコだかの、まあ同じアラクネなのだから誰とでもどっかで血は繋がっているのだが、その幼馴染に笑顔で。
コイツはバカ四人と比べて苦手ではないのだけれど、小さい頃から妙にオレに懐いていた妹的な存在だったのが、長じるにつれコイツほうが遥かに優秀であることが解り、つまりはガキでバカなオレのコンプレックスだ。
「お、クソジンク。相変わらず湿気たツラしてんな」
お前に言われたくない。
「お前も来たのか。珍しいな。でもこのアイスはやらんぞ」
いらねーよ。
「………………」
………………。
「トサカ頭が私達をナンパするですって? 冗談でしょ、もっと男を磨きなさい。特に下の方を」
誰だよ、この子をこんなんにしたの。
「オ、オレは飯を食いに出てきただけだよ。じゃあな」そう言って今度は本当に踵を返すが。ハタと足を止めて振り返ったオレ。
「ワリぃシヅキ、カネ貸してくんない」
金を持ってくるのを忘れていた。出かけにエルフが話し掛けてきたせいだ。
「うん、いいよ」
「お、クソジンクは早くも女にタカるヒモ気質のアラクネ男の本領発揮か? そしてそれを許すダメ男好きのアラクネ女のシヅキと。終わってるな」
まったく、条件反射のようにタカっていたオレ。間違いなくオヤジの血を引いてるな。嫌だな。そしてシヅキ、なにニコニコ笑ってんだよ。オマエのことでもあるんだぞ。治してこっ。な。
でもオレは今奢って貰って飯を食っている。そのヒモ蔓であるシヅキはニコニコと笑いながらオレが丼飯を掻っ込んでいるのを眺めている。自らも自分の顔ほどの大きさの蒸しあんまんをバクバクと喰っている。たしかに終わってるな。
間違えた! 奢ってもらってない。金を借りるただけだ。オレは改めて自分に流れる血の呪いを嫌悪した。
それにしても。コイツはバカ娘四人組と一緒に飯食ったんじゃねーのか。よくそんなに腹に入るな。大丈夫か? バカ娘四人組は何時の間にか消えており、今は二人だ。
今いるところは酒場兼飯屋のゼベラばーさんの店だ。昼は子供や女たちの、夜はオヤジたちの怪しい社交場だ。特に旨くもないし自慢の逸品がある訳でも無い、有り触れたどこの街のどこの通りにもある普通の店だ。
丼飯も蒸しあんまんもガキの頃から喰っている旨くも不味くもないありきたりな、不味い方に若干傾いた普通の飯だったはずが、箸が止まらない。
「それにしても珍しいね、ジンクが街に出てくるなんて。なにかあったの?」
「何もねーよ。ただ、同室のエルフに折角だから街を見てこいって言われたんだよ、まあ、飯を喰うついでだ」いい事があると言われたことは黙っていた。なんとなく。
「あの年齢不詳性別不詳の超美形で目麗しいエルフさんと同室だったんだ。異種BLだね」
「BL? ってなんだ」
「ナンドモナイヨ」
「?、だいたい目麗しいってなんだよ。年齢不詳はその通りだが性別は男だぞ、見たからな。凄く長かった」
「何が長いの?」
「……」
自分で振っておいて何だけど、マジか? 天然か? 天才的な返しか? わからん。
エルフの話題が出たから聞いてみる事にした。
「おまえタンク組で兵站してんだろ、あのハムって何者なんだ?」
「ハム? ああ、ジンクを瞬殺したマスターのことか」
「……瞬殺は、その通りだけど。……マスターってなんだ?」
「ネエサン達の“表象印契”の師匠だから」
「“表象印契”って、顕現したのか? それじゃあの噂も本当なのか? 全ての装備を造ったって」
「本当だよ。全てのアラクネの女たちの“表象印契”を顕現させ、自ら魔法陣章も設計して、工房を指揮して蘇らせたって。それだけじゃないよ、今回の作戦? 戦術立案指揮もマスターだそうだよ。主立ってるのは“女王様”や“黒の副官”さんだけど、後ろで糸引いてるのはマスターだって。黒幕だね。蜘蛛だけに。
それだけじゃないよ、私達兵站班はマスターに指導してもらってるんだけど、その教え方が凄いの。もう感動って」
「自ら考える戦い方か?」
「そうそれ、でもそれだけじゃないよ。マスターは強いよ。物凄く。兵站班てさ、優秀だけど、だからこそなんだけど、みんな我が強いからさ、自分より強い人の事しか聞かないんだよね。今は違うけど……」
「何を急に遠い目になってんだよ」
「……イロイロあったんだよ。ほら、マスターってあんな見た目だし、基本的に性格破綻してるし、っていうか人の皮を被ったキチクだし」
そこまでコイツがいうほどか? そう言えば、普段は悪口を口にしないエルフも散々だったな。
「それにチョット困ったことがあって……。マスターって悪い人じゃないんだけど……基本悪い人だけど、アラクネの女の人に酷い事したんだって。“表象印契”を顕現させる儀式があって、それがね、女の尊厳を傷つけるっていうか。女の深い大事な処を酷く損なわせるんだって」
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる