王子、私を好きになってはいけません

たおたお

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32.侯爵の言い分

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 ディクス領の盗賊討伐が終わってしばらくして、ディクス侯爵とエガートン子爵が威張りながら城にやってくる。対応した執事に怒鳴り散らし、お陰でジェイミーは仕事を中断して対応することに。もっとも、こうなることは想定済みだった。

「待たせたな、侯爵。それで? 今日はどういった用件だ?」
「フンッ! あなたならご存知でしょう殿下。我が領地で盗賊討伐が行われたのです!」
「ああ、そのことか。もちろん知っているとも。盗賊が討伐されたんだ、むしろ喜ぶべきではないのか?」
「これが喜んでいられますか!」

 バシン! と机を叩いて見せた侯爵は、演技なのかどうか顔を真っ赤にして怒っている。あまりの分かり易さが滑稽で、思わず笑ってしまいそうになるのを必死でこらえるジェイミー。

「それで? 私にどうしろと言うんだ?」
「レッドモンド伯爵を呼んで頂きましょうか。この件はきっちり方を付けてもらわねば、こちらの気が治まらない!」
「分かった、分かった。少し落ち着け、侯爵」

 大方、イヴリンを呼び出してあれこれ難癖をつけて、あわ良くば領土の一部でも奪取してやろうと考えているのだろう。執事にイヴリンを呼ぶように伝え、しばし侯爵たちと同じ空間で居心地の悪い時間を過ごす。相手を少し焦らすためか、一時間以上経ってからイヴリンがやってきた。

「お待たせしました、ジェイミー殿下」
「レッドモンド伯爵、良く来てくれたな。こちらの方々が君をご指名だ」

 お互いにわざと余所余所しい雰囲気を出しつつ挨拶。ふんぞり返っているディクス侯爵の前にイヴリンが静かに座る。

「私に何か御用があるとお聞きしましたが、侯爵様」
「遅い! 何時間待たせるつもりだ!」
「女性は準備に時間がかかるものですのよ」

 そういうイヴリンはいつも通りの、目を隠して地味なドレス。侯爵の怒りに対して焦る様子もなく、淡々としている。

「まあいい、貴様、私の領土に無断で立ち入って盗賊を討伐したな?」
「私は討伐などしておりませんよ」
「嘘を吐くな! 討伐の現場に赤い鎧の騎士がいたそうじゃないか。見た者がいるんだぞ!」

と、得意げに割って入ったエガートン子爵。

「それはつまり、盗賊と侯爵様が通じていた、と解釈してよろしいですか?」

 イヴリンが静かに指摘すると、一瞬二人の顔色が変わって焦り始める。必死で言い訳を考えているのがジェイミーにまで伝わってきて痛々しい。

「た、たまたま通りかかって身を隠していた者がおったのだ!」
「そうでございますか。それで? その赤い鎧の騎士が私だと?」
「お前、王都に戻った際に赤い鎧を着ていただろう!」
「夫の形見である赤い鎧は着ておりましたが、それとその騎士が着けていたのは同じ鎧なのですか?」
「グッ……」
 
 間髪を容れずにイヴリンの理路整然とした返答があるので、エガートン子爵はすぐに追い詰められて言葉に詰まっていた。

「真っ赤な鎧などと言う下品なもの、貴様以外に持っているものか!」
「だ、そうですよ、殿下」
「下品で済まなかったな、伯爵所有のあの鎧は、彼女の夫パトリックに私が贈ったものだ、侯爵」
「……」

 薄っすら微笑んでいるイヴリンは、二人が空回りしてどんどん追い詰められていくのを楽しんでいるのだろう。イヴリンの返答に対して面白い様に引っかかって駄目な台詞を吐いてくれる。

「と、とにかく! レッドモンドの商人の馬車から兵士が降りてきたそうじゃないか! そんなことができるのは貴様だけだろうが!」
「だから、私はやっていないと……」
「ならば証拠を見せろ! 証拠がないなら、私は貴様が領土を侵犯したとして、国に申し出る準備がある! 今日はそのためにここに来た!」
「証拠、ですか。仕方ありませんね……入ってちょうだい!」

 イヴリンがそう言うと扉が開き、そしてそこに現れたのは赤い鎧の騎士だった。騎士は、至る所に包帯が巻かれたガラルを連れていて、侯爵たちの側までいくとガラルを突き飛ばす。後ろで手を縛られた状態で、ドサっと床に倒れるガラル。

「ガラ……」
「侯爵、話が違うじゃねえか! 投獄されたらすぐに解放してくれるって言っただろう!」
「あらあら、その盗賊と侯爵はお知り合いですか?」
「ヒッ!」

 イヴリンに気が付いたガラルは短い悲鳴を上げると、倒れた状態からなんとか胡座をかく様に座り、そして後ずさる。

「こ、この女は異常だ! 俺の部下を簡単に殺して、俺の手首まで斬りやがった!」
「盗賊の皆さんが素直に喋ってくだされば、死ぬこともなかったでしょうに」

 いや、喋ったところで下っ端の三人は助からなかっただろうと思いつつ、完全に追い込まれた侯爵たちにジェイミーが種明かしをする。

「これが証拠だ、侯爵? お前との関係はそいつが喋ったよ。もういいぞ、ラルフ」
「はい、兄さん」

 ジェイミーの言葉で騎士が兜を取ると、中にはラルフが。侯爵たちはこの状況が全く理解できていない様子。

「あの日、この鎧を着て討伐の指揮を取ったのは僕だ、侯爵」
「なぜラルフ王子が……いや、なぜ王族が!?」
「まだ分からないのか? お前がその盗賊に命令して襲わせていたレッドモンドの荷馬車には、王都の商人の荷物も積まれていたんだよ。王都の商人が被害に遭っているんだ、王都の兵が動くのは当然だろう?」
「き、貴様の企みか、伯爵!!」
「企み……そうですね」

 ゆっくりと立ち上がるイヴリン。そのままスーっと侯爵の横までいくとおもむろに侯爵の首根っこを掴み、そのまま持ち上げたかと思うと床に叩きつけるように組み伏せた。
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