その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき

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4. 学校の七不思議

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『二宮金次郎の増える木』
 旧校舎にある二宮金次郎の銅像は、背中にマキ——ではなく、シバを背負っている。そのシバは毎日、なぜか数がちがう。夜中に歩き回る二宮金次郎が、シバを落としたり拾ったりするせいらしい。
 
「二宮金次郎の怪談は、どうやって解いたのかな?」
「それは……数え間違いしないように、横から見えるシバの一本一本に番号シールをはって……」
「……シール……?」
「じょうぶな透明の防水ステッカーをネットで買いました。そこに黒い油性ペンで数字を書いて、三十九本、全部にペタペタ番号をはっていきました。それを毎日、ニコたちと一緒に『ほら、三十九まで全部あるでしょ』って確認して……四日目くらいから、ニコしか来なくなっちゃって……どうしてか、私が二宮金次郎の霊を祓ったから数が変わらなくなったことになってました」
「それ、用務員さんに気づかれなかったの?」
「シールも番号も、近づいてよく見ないと分からないし……」
「……それなら『泣くピアノ』は?」
 
 
『泣くピアノ』
 音楽室のグランドピアノが泣く。ひとりで音楽室にいると、かぼそい声で「アァ――……アァア――」と泣く声がピアノから聞こえてくる。
 これは昔、ピアノのふたに指を挟んでピアノが弾けなくなってしまった女の子の霊が取りついていて、ひとりでいる子供に「危ないよ」と知らせているらしい。
 
「『泣くピアノ』は換気口のせいですね」
「換気口って……ああ、壁の上にあったね?」
「あの換気口は外の柳の木のところにつながっていて、風の強い日は柳の枝が少し掛かって換気口から音がするみたいです」
「へえ……」
「ふつうは小さすぎて聞こえないんですけど、耳をすませると聞こえてくるんです。ひとりでいると静かだから、ひとりのときに気づきやすいんだと思います」
「その怪談はとくに音楽クラブの子たちがウワサしていたから……なるほど、ひとりで練習していて、音に集中していることが多そうだね。それで、どうやって解いたんだろう?」
「……柳の枝を、切りました」
「ええっ?」
 
 冬也は目を大きく開いてイチカを見た。イチカは一段と小さな声で、ぼそぼそと話した。
 
「お休みの日に……サッカークラブが練習してるから……そのとき、門から入りました。……こっそり柳の木にのぼって、換気口に当たるところを少し切ったら……音は、ぴたっと止まりました」

 イチカの答えに、冬也は笑い声をあげた。
 
「イチカくん、きみ、すごいことしてるね? そんなことまでしてたなんて……あはははっ」
 
 肩をふるわせて笑う冬也。
 
(そこまで笑わなくてもいいのに)
 
 イチカはそう言いたかったけれど、木にのぼろうとして何度もすべり落ちたことを思い出し、恥ずかしくなったので黙っておいた。手にたくさんキズができて、しばらくはえんぴつを持つのも痛かったのだ。

 冬也は階段を一階まで下りてもまだ笑い続けていた。イチカはじろりと目を向ける。
 
「話したとおり、私には霊感なんてないんです。だから、私はもう必要ないですよね?」
 
 イチカは冷たく言った。
 冬也はくちびるに人差し指を当てると、笑い声をおさえ、足を止めてイチカの方を向く。
 
「きみに霊感がなくても関係ないね。怪談を解いてきたその力を、僕は貸してほしいんだよ」
「この三つが解けたからって、冬也先輩が言う……その『学校の七不思議』というのが解けるわけじゃ……」
「いや、きみはすでに『学校の七不思議』を解いているよ」
「え?」
「知らないようだから、僕が教えよう」
 
 冬也はイチカの前に人差し指を立ててみせる。
 
「夢見坂小の七不思議——つまり、七つの怪談をまとめてそう呼ぶんだ。一、二宮金次郎の増える木」
 
 次に中指を立て、
 
「二、まばたきするモナリザ」
 
 その次は薬指。
 
「三、泣くピアノ」
 
 小指。
 
「四、走る呪いのカゲ」
 
 親指。
 
「五、死者からのメッセージ」
 
 冬也は反対の手も上げると、もう一本の人差し指を立てた。
 
「六、願いをかなえるマチコ先生」
 
 そうして、最後に冬也は目を細めてほほえんだ。
 
「六つのすべての不思議を体験すると、死者の国につながるドアが現れ、そこに吸いこまれてしまう——これが、七」
  
 冬也の静かな声が、氷みたいに背すじをなでていった。ぞくりとした。

「……ほらね。きみは、すでに三つも不思議を解いているんだ」
 
 
 
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