久しぶりにばあちゃんちに行ったら先生がいた話。

彼女は昨日、ブリッジをした

「あ、千春、おはよう」

「…おはようございます」

次の日、学校のドアを開けようとした時に、ばったりと渡辺先生と出会った。渡辺先生の口元はにやりとして、笑いをこらえているようだった。

「…ふ、ふふっ、昨日のあのブリッジ何？可愛かったけど」

「ちょっと！学校前でそんな事言わないでくださいよ！恥ずかしい！色々と！」

「あはは、ごめんって、あっじゃまた授業で！」

渡辺先生は眉を下げて笑い、足早に学校へと入っていった。私も追いかけるように学校に入っていった。


*

あーー、眠い。
給食を食べた後の、体育をした後の国語はやばい。6時間目という時点で眠いのに
体育で疲れた後なんて本当に眠い。

「文を文節で区切るにはね、区切れる所に
『ね』や『さ』を付けると区切りやすいんだ」

ゆっくりとした渡辺先生の声がまた心地よく、眠気を呼び起こす。あっもう耐えきれない。隣の席も寝てるし、もう寝よう。
五分くらい…

「じゃあ例文作るから誰か文節にわけてみて、うーーん…」

「彼女は昨日ブリッジをした！これで行こう」

「はああああああああああ！？！？」

意識が落ちる寸前に聞こえた「ブリッジ」という単語が、私の意識をぐん、と引っ張り戻した。いきなり叫び声を上げた私に
沢山の目が向かれていた。え、恥ずかしい。ブリッジしたという事がまず恥ずかしいが、どうしたんだと怪訝な目で見られてるのがなにより恥ずかしい。

「…どうした？千春」

「えぁ！？は？え、知らんぷり！？は、いや、なんでもないです…えへへへ…」

渡辺先生はきょとんと私を見ていた。
それ無意識だったの！？無意識にしては
ブリッジって！例文にブリッジなんて見たことないよ！まずしてどんな人もブリッジはしない！！私を除いて！
このまま口を開いていると、自ら墓穴を掘ってしまいそうだから、寝ぼけたフリをして、とりあえず笑っとく。よし、皆も机に向かった。よし、板書をノートに写そう！
少し板書が進んだだけだったから早く写し終えた。顔を上げると渡辺先生はじっと黒板を見ていた。ちらりと私を見て、また黒板を見る。

「…あっ、あはは！そういう事ね！完全に無意識だった！」

渡辺先生は明るく笑った。
いやいやいやいや時間差！！
無意識に例文にブリッジが出てくるのも不思議だしなにより気づかなかった渡辺先生もまた不思議！天然かよ可愛いな！

「じゃあ、ふふ、千春、文節で区切ってください、ふふふ」

「えぇぇっ、なに笑ってんすかぶち転がしますよ」

渡辺先生は笑いを堪えながら私を指名した。完全に狙ってる。絶対狙ってる。
ツボにはまったのか、いつのまにか倒れ込んでいた。クラスメイト達も異様な渡辺先生のツボのはまりように大爆笑していた。

「…彼女はね！昨日ね！ブリッジをね！したねｪ！どうですか！！」

大爆笑が包む教室の中で私は叫んだ。
渡辺先生は倒れたまま

「あはは、うん、ふふっ多分正解…！っふふふ」

と笑いながら答えた。授業もままならなくなるほどの渡辺先生の笑いは、授業終了のチャイムが鳴り響くまで続いた。
いや授業してくれよ！