とあるクラスの消失

倉箸🥢

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微かな段差

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早速図書室にやってきた私達は、久しぶりに見た光景に目を輝かせた。
生徒だったとはいえ、もう12年前。
ほかの先生に付き添って頂きながら雄星小学校の歴史を保管する部屋へ行く。

「いやぁ、光栄です…雄星小学校に取材だなんて」

「そんなそんな…こちらこそありがとうございます」

彼女は嬉しそうに部屋の鍵を開けた。
ずらりと並ぶ卒業アルバムや本が雄星小学校の歴史を物語っていた。
興味深く辺りを見渡していると、ふとあるものが目に映った。

「…私が描いたやつだ」

「…うぇ?本当だ懐かしい」

端っこにあったダンボールからはみ出した紙を手に取る。私が昔、それこそ6の2の時に描いたものだ。卒業式の日まで勝手に教室に貼っていた。そのあとは確か……先生に渡したような気がする。

「…あら、昔から絵を描いてらっしゃったんですか…!その絵、確か坂木先生が残していった絵で…」

「…坂木先生が?」

「そうなんですよ、突然教師を辞めるって言って姿を消したんです。もう2年ぐらい姿を見ていません」

「どうしちゃったんですかね」と彼女は話を続けた。けれど、これで少しは私達の記憶は確かなものだとわかった。坂木先生は確かにここにいたし、そしてこの絵は確かに私が描いたものだ。

「…2年ということは…2年前に教師を辞められたんですか?」

夏目は彼女に訊ねた。

「いや、辞めたというよりは…居なくなったって感じで…いきなり辞めると言ってからそれきり連絡も繋がらないし、家も空き家になっていて…どこに居るのか…」

彼女は顔を曇らせて答えた。
何処か寂しげな表情をわざとらしく
偽るように彼女は笑うと、「仕事がある」と言って足早にこの場を立ち去っ  ていった。

「…行方不明ってこと?」

「…そういうことになるよね」

私達は目を合わせた。多分、彼女は何かを隠してる。そんな事を夏目も思っているだろう。

「…しっかし…どうしたもんか…」

独り言を呟きながら卒業アルバムを手に取る。私達が卒業してから11年後ののアルバムだ。教員の並ぶ写真に、坂木先生は居なかった。

「花火見て、私達の卒業からそのアルバムまでの先生方の写真なんだけど…どこにも坂木先生がいない…」

並べられた卒業アルバムを見ると、何処にも坂木先生の姿は無かった

「…うわ、本当だ…手がかりがないなぁ…………あれ」

沢山棚から出したせいですっからかんになった棚の隅っこに、紙がくしゃくしゃに丸まって落ちていたのにふと気づき、その紙を広げて見ると、それは先生方の集合写真だった。

「…あ、坂木先生がいる!」

「え!?本当だ!」

くしゃくしゃになった写真の中に、
坂木先生がいた。他の先生達を見る限り、どうやら私達が卒業した年の写真だろう。

「とりあえずスキャンしとこ、後々の資料になる」

私は写真のシワを綺麗に伸ばし、スマホに取り込む。そしてとりあえず、手に持っていたクリアファイルの中にしまっておいた。

「もっと他にも無いか!?意外に挟まってるかもしれん!探せ夏目先生!」

「…お、おう!」

夏目はとりあえず一つ一つ卒業アルバムに何か挟まっていないか、確認を始めた。私もとりあえず、奥の方を見に行く。やっぱりどこもかしこも本に埋め尽くされている。

「…あ!」

夏目がいきなり大きい声を上げた。
勢い良く夏目の所に戻ると、夏目の手には、小さい切り抜かれた写真があった。

「…これ、あの6の4の担任の写真の人じゃない?」

「…本当だ…」

上手に切り抜かれたその写真は、あのにこやかな笑みを浮かべていた男性だった。

「…でさ、このアルバムにも同じポーズのこの人がいてさ…」

夏目はページをめくり、私に差し出した。そこに何処か不自然さを感じさせながら、切り抜かれた写真と同じ人が映っていた。写真を重ねてみると、一寸の狂いもなくピッタリと重なった。

「…重なった」

「本当…!?」

とりあえず切り抜かれた写真もクリアファイルにしまい込んで、アルバムの写真を見つめた。やはり、何かがおかしい気がする。
そう思いながら写真を指で触ると
微かに写真に段差がある事に気付いた。

「…!」

爪で段差を捲りあげてみると、その男性の写真は剥がれていく。写真自体を傷付けないようにゆっくりと剥がしてみると、そこには思いもしないものが現れた。

「あれ、坂木先生だ!」

貼られていた写真の下に、同じ格好をした坂木先生が映っていた。

    
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