とあるクラスの勇者30人

倉箸なーこ

文字の大きさ
30 / 34

懐かしい声、懐かしい光景

しおりを挟む
「じゃあ、また後で!」

赤目は手を振ると笑顔で穴に飛び込んでいった。絆は飛び込むことなく立ち止まった。

「絆?」

坂木先生はそう尋ねると、絆は笑って叫んだ。

「先生!!大好きでーーす!!」

絆は恥ずかしそうに、嬉しそうに笑っていた。
(芽依先輩の言ったこと、守ったよ!)
誇らしく絆はそう思うと、穴に飛び込んでいった。

「ふふ、なんだそれ」

坂木先生は照れ隠しのように笑った。


この場には坂木先生と林道先生が残った。どうしようもない空虚感と、全てが終わっても尚残る緊張感がまとわりついている。

「…はあ、全てが終わった」

坂木先生はそう呟くと、後ろから林道先生がひょっこりと顔を出した。

「先生、お疲れ様でした。結構長い物語でしたね。」

「そうですね、長かった。でも、俺も、皆も成長出来た良い経験だったかもしれません。」

坂木先生は凝り固まった体を伸ばしながら言った。その目は、何処か満足気だった。

「…先生、覚えてます?あの日死ぬ前に言った事。」

「えぇ、覚えてますよ。全てが終わったら、屋上でサイダーを飲もうって話でしょう?」

「…ふふ、良かった。じゃあ、行きましょう!皆が待ってる」

林道先生が坂木先生の手を引っ張ると、
真っ黒な穴の前に立つ。坂木先生は1度景色を見つめ「ありがとう。」と1つ礼をした。

「いっせーのでで、飛んでみようぜ?」

坂木先生は、あの時よりも幸せそうに笑った。___俺が見たかった、先生の本当の笑顔。

「いいですね、いきますよ!」

最後ぐらいはあの時以上の最高な笑顔で

『いっせーのーで!』


*

ぱちっ。

目が覚めるとそこは、見慣れた天井に、見慣れた部屋、自分の家だった。
なんか、長い夢を見ていた気がする。
花火は重い体を起こして立ち上がった。
カレンダーは3月14日水曜日。
ずっと身につけていたロケットペンダントは

「おはよう、早く行かないと遅刻するよ」

母が居た。朝食をテーブルに綺麗に並べて、懐かしい顔で笑っている。そう言えば着ていたパジャマも、あの時のだ。この部屋の壁紙も、テレビも、まだ寝ている父も、あの時のままだ。
そうか、
強烈で、本能的な喜びが体を包んだ。
早く朝ごはんをかきこんで、すぐ様服を着替え、身支度し、家を出た。

「ああああああ、懐かしい、凄い…」

周りの景色が、世に言うファンタジーじゃない、ただの普通の景色だ。
木々が揺れ動いて、心地よい風が頬をくすぐる。いつもならどうとも思わない景色が全て輝いて見えた。興奮を抑えきれず走り出すと、アスファルトの硬い感触がまた帰ってきたと思わせる。いつもの待ち合わせ場所に行くと、遠くに夏目の姿が見えた。

「あ、夏目!夏目~~!」

うるさいぐらいに叫んで手を振った。
そんな私に夏目は気づいたのか、走ってこちらまで来てくれた。

「は、花火!久しぶり!久しぶり!」

興奮していたのは夏目も同じようで、
顔が赤くしてハイタッチをした。高鳴る鼓動を抑えながら、2人で学校へと向かった。


*

私達は学校に入ると懐かしい光景に涙ぐんだ。低学年の子は元気に先生に挨拶をしたり、ホールに飾られている生徒の作品も何処が懐かしい。階段を登り、6年2組の教室の前に私達は立った。少し、中がざわついていた。

「はよーございまー」

私は緊張を隠すように小さく挨拶をして入っていく。夏目もそれについていくと、他の皆と目が合った。
目を白黒とさせている皆の言いたいことは、何となく分かる。

「…覚えてる?」

友樹は恐る恐る私達に聞いた。
私達は顔を見合わせて

「「もちろん!!」」

と答えた。皆顔を真っ赤に染まらせて
「わあああああ!」と迷惑にならない程度に叫んだ。帰ってきたんだ。本当に帰ってきたんだ!と皆嬉しそうにハイタッチしている。

そんな事をしているうちに、朝自習の時間も終わりが近づいた。そろそろ、先生がやってくる。高鳴る鼓動を紛らわすかのように皆顔を見合わせた。
ガラッと扉の開く音が聞こえた。

『…!先生!!』

瞬時に皆がそう叫ぶと、坂木先生はきょとんとしながらも、笑った。

「ただいま。そして、おかえり」

坂木先生はそう言うと、皆感情を高ぶらせて叫んだ。「うるさい、うるさいよ」と注意しながら笑う先生も、何処か嬉しそうだった。

あのRPGの世界での事は私達以外覚えていないらしい。それでも、このクラスだけの秘密が出来て、嬉しかった。
その日、坂木先生は卒業までの2日間の中で思い出を沢山作ろう!と、色々な話をしてくれた。笑いあり、涙ありの先生の無駄話はやはり面白かった。

その後、林道先生も理科の授業にやってきた。「うわあ、久しぶりに見たなあこの感じ」と嬉しそうに話をしてくれた。
その後、林道先生からの提案で坂木先生に向けてビデオメッセージを撮ることにした。まだ不慣れな英語ででのメッセージを坂木先生に向けてカメラの前で言っていく。

「よし、後で先生が編集して、先生に見せよう!」

林道先生はそう言うとそそくさとカメラを確認していた。

そうして、私達の一日が終わった。

*

次の日、まだ昨日のほとぼりが冷めない私達は、RPGの世界の話でいっぱいだった。
今日は6年生最後の日ということで短学活が多い。そんな中、林道先生がパソコンを抱えてやってきた。

「坂木先生、見せたいものがあります」

何かを企む子供のように無邪気に林道先生は笑った。テレビを颯爽と剛は運んでくると、手早にパソコンをテレビに繋げた。

「生徒達から先生へのメッセージです!」

ぴっ、とリモコンをテレビに向けて発信した。一人一人、個性の表れる登場をし、メッセージを言っていく。坂木先生は嬉しそうに笑いながら、眺めていた。
ビデオが綺麗に終わると、教室は拍手で溢れかえった。

「わあ、嬉しいなあ。ありがとう皆さん」

坂木先生は嬉しそうに礼をした。
そのビデオメッセージが入ったDVDは坂木先生に渡された。
そのあとは、最後の日という事もあって、ビンゴ大会や色々な遊びをして楽しんだ。
小学校最後の給食も、噛み締めるようにして味わった。でもやっぱり卒業式の準備をしていると、どうも心寂しくなるものだった。

「…もう、卒業かあ」

絆がそう呟くと赤目はすかざず言葉を発した。

「そーんな、気に病むなって!もう会えない訳じゃ無いんだしさぁ!」

明るく笑う赤目の姿は眩しかった。
その言葉に、絆は背中を押された気がした。

「…ふふ、そうだね。」

そうして、6年生最後の一日は終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...