25 / 42
Epilogue1(広瀬✕森川)
店を出ると、冬の夜の清冽な空気が気持ち良かった。
相原くんが最初に、じゃあお疲れっした、と言って玩具みたいな自転車に乗ってさっさと帰って行き、そのあと北澤が中途半端に、俺ちょっとあれなんで、とか何とか言って駅じゃない方向にふらふら歩いて行って、俺と森川は二人になった。
あのさあ、と森川が言った。「斉藤くんが休憩室に呼びに来た時、僕なんで大丈夫ですよって言ってたけど、よく考えたらあれ、全然大丈夫じゃないよね」
「直後のスピーチでもうあれだったしね。まあ、だだ漏れの斉藤くんに知られたってことは、隠し通すのは無理だと思っといた方がいい」
森川が、そうだよね、と言って、大袈裟にため息を吐いたわりに平気そうな顔をしているのが可笑しかった。
「どこか寄る? それとも帰る?」
そう訊かれて、今日は帰る、と答えた。明日からも忙しいだろうし、と。
本音を言うと、あまり先を急ぎたくなかった。これまでずっと触れたい抱きたい俺のものにしたい、と思い続けてきたはずの俺は今、既に満たされ切って溢れていた。俺のキスに驚いて固まった森川が、ふっと力を抜いて俺に全部をゆだねてきた、あの瞬間の余韻で。
歩き始めると森川が急に手をつないできた。振り払って、恋人繋ぎにしてやった。
楽しくて顔がにやつくのが解った。隣を見ると森川も緩い感じに笑ってて、俺の視線に気づいてこっちを見るとその笑いが何となく、バツの悪そうな苦笑いに変わった。
ずっと待たせて悪かった、と言って、森川は前を向いた。
ずっと待ってた甲斐はあったよ、と俺は答えた。
森川は息だけで笑った。
それからしばらく、二人とも黙って歩いた。
「関係ないけど、鏑木くんが彼女と食事に来た時、何でお姉さんだと思った?」
それぞれの家に向かう分岐点が見えてきた時、ふと俺は訊いてみた。森川は意外な顔もせず、名前がしおんだったから、と答えた。
「シオンもルカも、どっちも聖書から取った感じの名前だからさ。なんかそういう、ミッション系の家庭なのかなと思って」
ふうん、と答えた。それ以上の会話はしなかった。今はつないだ手の温かさに集中したかったから。
あと少し。
別れ際、深夜の誰もいない路地で、森川は実に森川らしいキスをしてきた。
静かで丁寧で情熱的な、長い長いキス。
俺の胸にはこの上なく甘い疼痛が走った。
相原くんが最初に、じゃあお疲れっした、と言って玩具みたいな自転車に乗ってさっさと帰って行き、そのあと北澤が中途半端に、俺ちょっとあれなんで、とか何とか言って駅じゃない方向にふらふら歩いて行って、俺と森川は二人になった。
あのさあ、と森川が言った。「斉藤くんが休憩室に呼びに来た時、僕なんで大丈夫ですよって言ってたけど、よく考えたらあれ、全然大丈夫じゃないよね」
「直後のスピーチでもうあれだったしね。まあ、だだ漏れの斉藤くんに知られたってことは、隠し通すのは無理だと思っといた方がいい」
森川が、そうだよね、と言って、大袈裟にため息を吐いたわりに平気そうな顔をしているのが可笑しかった。
「どこか寄る? それとも帰る?」
そう訊かれて、今日は帰る、と答えた。明日からも忙しいだろうし、と。
本音を言うと、あまり先を急ぎたくなかった。これまでずっと触れたい抱きたい俺のものにしたい、と思い続けてきたはずの俺は今、既に満たされ切って溢れていた。俺のキスに驚いて固まった森川が、ふっと力を抜いて俺に全部をゆだねてきた、あの瞬間の余韻で。
歩き始めると森川が急に手をつないできた。振り払って、恋人繋ぎにしてやった。
楽しくて顔がにやつくのが解った。隣を見ると森川も緩い感じに笑ってて、俺の視線に気づいてこっちを見るとその笑いが何となく、バツの悪そうな苦笑いに変わった。
ずっと待たせて悪かった、と言って、森川は前を向いた。
ずっと待ってた甲斐はあったよ、と俺は答えた。
森川は息だけで笑った。
それからしばらく、二人とも黙って歩いた。
「関係ないけど、鏑木くんが彼女と食事に来た時、何でお姉さんだと思った?」
それぞれの家に向かう分岐点が見えてきた時、ふと俺は訊いてみた。森川は意外な顔もせず、名前がしおんだったから、と答えた。
「シオンもルカも、どっちも聖書から取った感じの名前だからさ。なんかそういう、ミッション系の家庭なのかなと思って」
ふうん、と答えた。それ以上の会話はしなかった。今はつないだ手の温かさに集中したかったから。
あと少し。
別れ際、深夜の誰もいない路地で、森川は実に森川らしいキスをしてきた。
静かで丁寧で情熱的な、長い長いキス。
俺の胸にはこの上なく甘い疼痛が走った。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
キスの仕方がわかりません
慶野るちる
BL
全寮制男子校に入学した市原はクラス委員長になったため書類を提出しに生徒会室に行くと、そこに一人いた、初対面の副会長の近藤に襲われてしまう。
混乱するも相部屋の同級生・松川に助けられて元気を取り戻したある日、生徒会長の桜野から仕事を手伝って欲しいと依頼される。
最初は近藤に無視されていたが手伝う中で近藤から告白され、近藤への印象が少しずつ変わっていく市原だが。
表紙:Photo by Markus Spiske on Unsplash / powered by かんたん表紙メーカー様
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。