ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

文字の大きさ
29 / 106
Season1

剣聖ーGrandfatherー

しおりを挟む
「あんた……本当にアンデットに成り果てちまったんだな……」

 カヲルの死体を見てシリウスが語りかける。答えは期待しなかった。
 
 シリウスはムサシのことを思い出した。自分が剣を覚えてすぐの頃、がむしゃらな自分に剣技と剣を持つものの心構えを教えてくれた。その教えは勇者とも呼ばれるようになったシリウスを今も形作っている。
 見た目からは堅物と思われがちだが、話して見るととても気さくで孫娘であるカヲルの自慢話を始められると朝まで逃げられなかった。

 恐らくそんな祖父をカヲルは自分で止めたかったのだろう。しかし怪物に成り果てた彼にはそんな彼女の思いは届かなかった。

 ……俺が解放してやる。

 目蓋を一瞬だけ閉じ、決意する。

 目を開けるのと同時にムサシに踏み込んだ。


「……我流……十字一筆……」

 ムサシは目にも止まらぬ速さで長い刀を振ると、まるで同時に切りつけたように十字に斬撃が浮かぶ。

「!?」

 何とか剣を盾にその斬撃を防ぐもシリウスは内心驚いた。

(なんだ……この精密な技は……まるで生前そのままだ)

 通常、アンデットになった時点で知能のほとんどは失われる。高度な術であれば生前の記憶をある程度引き出すことも可能であるが、ムサシの場合は訳が違う。体が覚えている、というレベルではないのだ。その計算され尽くされた体の動きはアンデットに再現できていいものではない。

「……黄泉送り…」

 一歩でシリウスまでの距離を詰めると袈裟斬りを狙うように剣を振り下ろす。

「!?」

 宙に切り落とされた腕が舞った。




 それはムサシの腕であった。

「……我流横一文字……あんたから教わった技だ。もう終わりにしよう」

 ムサシは刀を持つ腕を切り落とされており、武器はもう何も持っていなかった。
 シリウスは剣聖の首を切り落とすため剣を突き立てようとする。
 しかし、ムサシは片手でそれをいなし、シリウスを背負い投げして吹き飛ばす。

「何っ!!」

 アンデットの意外な攻撃に面食らう。ムサシに向き直すとさらに驚くことになる。
 何とムサシが切り落とされた腕を拾いあげそのまま切断面に抑えつけた。治癒魔法のような淡い光が発せられたと思うと完全にくっついていた。

「……これは思ったより長丁場になりそうだ……」

 シリウスは苦戦を覚悟した。


「……おかしい、シリウス殿はこの程度の実力だったか?」

 シリウスの動きを見ながらビルが疑問に思う。

 この世界の剣士は強い体を作ったり剣技を覚えるだけでは半人前である。自身に流れる魔力マナを制御し身体能力を向上させることで初めて一人前と呼ばれる。一流の剣士は魔力操作であれば魔術師以上であるとも言われる。
 勇者アルタイルの再来とも呼ばれるシリウスは魔力量も膨大でありそれを完璧に制御することで超人的な身体能力を得ていた。
 そのはずが剣聖とは言え全盛期を過ぎた老人…しかもアンデットにここまで苦戦するとはシリウス自身想像していなかった。
 それほどシリウスの精神的な疲労が彼の身体だけでなく魔力量や魔力操作を妨害していた。

「“荒れ狂う獅子ブーツ・ルーヴェ”!!」

 魔力を帯びた剣がまるで獅子のようにムサシに襲いかかる。しかしムサシはそれを最小限の動きで避ける。
 それでもシリウスは果敢に攻め立てる。どれだけ不調でも関係ない。
勇者の子孫として生まれた自分には敗北は許されないのだ。

 しかしそんなシリウスの気負いが彼らしからぬミスを招いた。

「……我流……振り逃げ……」
「!!」

 ムサシの長刀の死角でもある懐に飛び込んだシリウスをムサシは距離を取りながらの一振りで撃退した。
 攻撃に意識を向けていたシリウスは防御が間に合わず腹を切られてしまった。

「!!シリウス殿!!」
「はぁはぁ……大丈夫だ……」

 幸い傷は浅かった。しかしシリウスは久方ぶりの負傷、久方ぶりの痛みに少し怯んでしまった。

「!!……もう終わらせる気か……」

 ムサシはシリウスに向けて刀を構え、魔力を刀に貯めていた。

「……あんたの最後の果し合い、付き合おう……」

 シリウスもムサシと同じ構えを取ると魔力を剣に貯める。この技は最後にムサシに教えてもらった技であった。

「……我流……奥義……」

「「万象一閃!!」」

 二人が互いに駆け出し、剣が交差する刹那、激しい光が辺りを包んだ。


 光が消えると二人とも技を出し終えたのだろう、背を向けて立っていた。

「ぐふっ!!」

 シリウスが身体中から血を噴き出し、膝をつく。

「……み……ご…と……」

 ムサシの首元から血が勢い良く吹き出る。左手と右足は細かく切り刻まれ、まるで灰になったよう消えて行った。

「……!?」

 最後の力を振り絞っているのだろうか。ムサシは残った手足で這うようにカヲルの亡骸に近づくとその存在を確かめるように右手を彼女の頬に優しく添えるとそのまま動かなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...