ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

文字の大きさ
39 / 106
Season2

朝ーBeginningー

しおりを挟む
 ガラクシアに朝日が昇った。普段ならばこの時刻は朝市の準備をする商人たちで賑わっているのだが市場は不気味なまでに静まり返り、そこにはただ死者の群れが闊歩するだけであった。

 ポラリスは普段の習慣から朝日が昇るよりも前に起き、庭園で槍の素振りをしていた。こんな状況だからこそ日々の訓練を反復し不測の事態に備える。また、槍を一振りするごとに彼は自分の緊張が解れていくのを感じた。

「……!おはようございます!!」

 辺りが明るくなり始めるのと同時に管理人小屋から出てきた人物に挨拶をする。

「………熱心だな……」

 シリウスはポラリスの挨拶に目線だけで返すと城壁の見張り窓に向かった。

「はい!こんな時だからこそ鍛錬を怠ってはいけません!……いついかなる時も鍛錬を忘れるな……それが必ず自分を助ける……リック隊長によく言われたものです!!」
「……朝はやけに元気なんだな…」

 熱く話すポラリスを冷たくあしらうと街の様子を伺う。街には人の気配な一切なく、代わりに邪悪な気が満ち溢れていることを彼は感じ取った。
 シリウスは目に魔力を集中し視力を向上させると街のずっと先の貧民街を見た。そこには今日向かう、ネクロマンシー研究会が存在する。
 貧民街までの道にいるアンデットはそれでも数十体しか見られなかった。それはこの街の人口を考えると少なすぎる。恐らく屋内や物陰に潜んでいるのだろう。

(……やはり正面突破は得策ではないか……。時間はかかるだろうが裏道から行ったほうが良さそうだな)

 目的地までのルートを確認しているとポラリスも街の様子を覗き込んで来た。

「……いつもなら商人たちでうるさいぐらい賑わっているのに……やっぱり夢じゃなかったんですね」
「……現実逃避する暇があったら生き延びる方法を考えろ。ただでさえお前は俺やエストレアとは比べられない程、力不足だ。……やはり今日は彼女と二人だけで向かう。お前はここで待機していろ」
「……それは嫌です!!……確かに自分は弱いです……でももう待っているだけは嫌なんです!!……それに……シリウスさんが心配なんです…」
「……俺が!?」

 予想外の言葉に驚く。

「はい。……シリウスさんは剣を覚えてから一度も傷を負ったことがないと聞きます。それが昨日はあんなに傷だらけで帰ってきて……どこか体の調子でも悪いのでしょうか」
「……いや、少し不覚を取っただけだ」

 言いながらも腕の傷を見る。体の魔力を操作することで体の芯の傷はきれいに治ったが末端は治りが遅かった。普段の彼ならば考えられないことである。

「……それに……なんというか……自分たちを避けているというか……一緒にいるのを怖がっているというか……あっ!すいません!!余計なことを!!」
「……いや、こちらこそ心配をかけてすまない。……別に避けているつもりはなかった。……ただ前の仲間を思い出してな…」

 心配そうな顔をするポラリスを見た。七英傑に数えられる自分が若い兵士に心配されている。その力関係の逆転にシリウスは自分を嘲笑した。

「……ついて来るつもりなら訓練は控えろ。奴らは視力が悪い代わりに他の感覚が研ぎ澄まされているようだ。汗の匂いで気付かれるぞ」
「!?す、すいません……」

 シリウスの指摘はもっともであった。水が有限であるこの状況では汗を流すために使ってはいられない。

「ふっ……冗談だよ。どうせ今日、黒幕を倒して脱出できるんだ。気が落ち着くまでやればいい。……そうだ、俺が相手してやろう」
「!?こ、光栄です!!」

 予想外の提案に驚く。シリウスはそこらへんに落ちていた棒切れを拾い上げると剣の様に手に持った。

「お前はその槍でいい。殺す気でかかってこい」
「!!よろしくお願いします!!」

 一礼するとポラリスも構える。
 じりじりとポラリスは間合いを詰めていく。がっちりと構えるポラリスとは対照的にシリウスは脱力し、自分から見ても隙だらけである。しかしその目線は突き刺す様に自分の挙動ひとつひとつを追っていた。

 槍の届く距離に近付くとシリウスに向けて一気に突き刺す。確かに当たるはずだった。シリウスが槍の軌道からなかなか離れなかったので自分自身焦ったほどであった。しかし槍の穂先はシリウスをすり抜ける様に空を切る。

「どうした、殺す気で来いと言ったはずだぞ」

 寸前で避けたシリウスの挑発に触発される様に次々と攻撃を繰り返す。突き、横薙ぎ、振り下ろし、足払い……。これまで教わったことを全て注ぎ込んだ。しかし目の前の七英傑にはその全てがまるで霧の様に当たらない。

「ほう、型はなかなか綺麗だな……だが、それだけだ。圧倒的に実戦経験が足りない。もっと相手をよく見ろ!柔軟な攻撃をしろ!人を切るのを恐れるな!」
「はあ……はあ……」
「どうした!もう息切れか……最近の兵士は生温いのだな」

 その挑発を聞き、疲れ切っていたポラリスは再び自分を奮い立たせる。再び同じ技を繰り返す。ずっと城での訓練をしてきた自分にはこれしかできない。しかし今度はシリウスの言う通り相手の動きをよく観察して時には攻撃に緩急をつけ、時にはフェイントをかけ、相手を翻弄しようとする。

 最初は余裕だったシリウスの顔つきが次第に変わっていく。段々とポラリスの攻撃に危機感を覚える自分に気がついた。

「!!」
 
 その時であった。初めてシリウスはポラリスの攻撃を持っていた棒で防いだ。ポラリスの動きに隙ができると持っていた棒をポラリスに振り下ろした。

(!!しまった!!)

 その攻撃はシリウス自身の意思とは関係なく行われた。シリウスの本能が目の前の若い兵士を少なからず脅威と認めたのである。

 しかしその攻撃は横から割り込んだ何者かに止められた。

「……何をしている……。」
「…エストレアか。……そんな怖い顔をするな。ただの組手だ」

 エストレアは怒った様な顔でシリウスを睨み棒を持った右手を強く掴む。シリウスはその腕を振り解くとポラリスに向いた。彼は息を切らせもう動けそうになかった。

「……大丈夫か?」
「は、はい……急に動いたもんで息が切れただけです。ちょっと休めば大丈夫です」

 息を切らしながら言う。

「今の感覚を忘れるな。……それと今回の相手は複数だ。体力が保たないならば無理するな。俺と彼女も居る。」
「は、はい!!ありがとうございました!!」
「……朝食の用意ができた。……食べたら出発しよう。」

 エストレアとポラリスは管理人小屋に戻った。一人残ったシリウスは右手に持った棒を眺める。

これは使うつもりはなかったんだが……!?)

 腕の傷が僅かに治っていることに気がついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...