友達の領分 幼馴染の番犬は、僕を守って逃さない

都々

文字の大きさ
11 / 62
第二章『友達の領分』

11.友達の領分

 四限、法学英語入門。
 未那は席につき、ノートを開くふりをした。窓の外は白く、雨が降りそうな匂いが先に来ている。

「……隣、いい?」

 上から声が落ちてきた。律だった。小さく頷いて荷物を寄せる。
 椅子の脚が鳴って、律が座る。

「LINE……見た。授業終わったら話そう」

 笑わない。口元がきれいに結ばれている。
 未那はひと呼吸おいて、「うん……」と応えた。

 *

 語学棟の渡り廊下。屋根の下のベンチは、半分外にあった。雨はまだ落ちてこないのに、風が湿っている。遠くで空が鳴る気配がする。
 人の流れから外れると、音が変わった。足音が薄くなり、代わりに空気の匂いが濃くなる。

 並んで座るまでが、静かだった。
 未那は膝の上で手を組み、ほどく。指先が冷たい。

「ごめん……返信、ずっとできなかったのは、謝る」
 未那はそう言って、待った。
 返事がない。湿った風が、先に頬を撫でた。

 やっと、律は口を開いた。
「俺もごめん。……今めちゃくちゃ緊張してる。ちゃんと話すの、久しぶりで」

 未那は頷いた。この人が緊張とか、と思う。でも耳の先がほんのり赤くて、ああ本当なんだと分かった瞬間、胸の奥が不意にゆるんだ。
 押しつける強さじゃなくて、本気で失敗したくない顔をしているとき、その顔の律が未那は好きだった。自分だけが知ってる律のようで。

「何が間違ってたのか、ずっと考えてた。……いや、結構前からわかってた。雪村先輩に言われた。新歓の後すぐ。なのに」

 律が唇を噛む。

「修正できなかった。一緒にいるのが嬉しくて」

 未那は何も言えなかった。
 律の声が続く。

「サークルのあと。“点数つけてるみたい”って言われて、やっと刺さった……俺がバカだった。ずっと圧かけて」

 律は小さく息を吐く。雨の匂いが濃くなる。

「最初は、楽しかったよ。律くんと同じ学校ってだけで。なのに、実際はなんか違って」

篠宮しのみやはどうしたい。……おうといるほうが、楽しい?」

「は?」
 未那は思わず顔を上げる。
「なんでそうなるの。龍寧くん。今、関係……ある?」

「……見えたから」

 律は、自分で自分の言葉に気づいたように、眉を寄せた。

「ごめん。また変なこと言ってる自覚ある」

「そういうところだよ……。あの人は、話せって言っただけ。アドバイス」

 律の瞳が揺れて、それ以上は何も言わなかった。

「そっか」

 律が引いたのがわかった。未那は息を吸った。

「ねえ。僕が翠陵すいりょうに戻ってきた理由、覚えてる?」

「法学部が強いから」

 即答に笑いそうになる。

「……それもあるけど。律くんと大学生したかったからだよ」

 律が目を上げた。

「小中高で隣にいれなかったから。大学、一緒にしたいって、律くんが言った」

「……言った」

「その時、楽しそうって本気で思った。律くんが効率重視なのも、要領いいのも、連絡多いのも知ってる。そこは今更いい」

 律の顔が、神妙になる。
 未那は言い直すように、もう一つ言葉を落とす。

「でも、管理されたくない。信じてほしい」

 律はすぐに返さなかった。
 少し考えてから、未那は短く言う。

「友達、だよ」

 律が黙る。
 喉仏が、ゆっくり動いた。

「……わかった」
 短く言って、それから間があいて、
「友達でいる」
 と言った。

 胸がほどける。
 自分の言葉ひとつで、この人が引いた。
 その手応えが、わずかに甘い。――まずいと、わかるくらいには。

「……約束ね」

 律は、頷いた。
 雨はまだ落ちてこない。なのに、空気はもう濡れていた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

友達の領分 番外編

都々
BL
完結済み本編『友達の領分』の後日談です。両想いドキドキ付き合い始め、夏休み合宿、秋からの学生生活を描きます。週1、2の更新予定。【本編】https://www.alphapolis.co.jp/novel/318735949/382040153 一途執着攻め×美人受け。一話が「過激表現あり」になってます。苦手な方は、読み飛ばしてください。本編との落差に、ごめんなさいです。二話目以降は段階踏んでいきます。 感想、もっとやれ、などありましたらなんなりと。アルファポリスの規約範囲内で頑張ります。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

記憶を無くした幼馴染が王子様?になりました

イケのタコ
BL
イケメン×幼馴染 「お前は誰だ」――。長年の付き合いがある幼馴染から、まるで他人を見るような冷たい目で見つめられた。 物心つく前から兄弟のように育ってきた絃羽(いとは)と枢(かなめ)。しかし、ある事故で頭を強く打った枢は、家族のことや日常を送るのに必要なことは覚えているのに、なぜか絃羽のことだけをすっかり忘れてしまったのだ。 「まさか幼馴染に忘れさられるとは……でも不意の事故なのだから仕方ない」 そう覚悟を決めた絃羽だったが、記憶を失った枢の言動はあまりにも奇妙だった。 従兄弟に「友人だ」と紹介された絃羽に対し、枢は戸惑いながらも握手を求める。だが次の瞬間、信じられない言葉が紡がれた。 「君が可愛いと思って」かつてロマンのかけらもなかった彼が、甘い言葉を囁き、王子様のように手の甲にキスをしてくる。これは本当に、俺の知っている幼馴染なのか? 記憶と共に性格まで変わってしまった枢、一体どうなるのか。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

貴族様からイジメられてる孤児院のボッチだって幸せになりたい

極寒の日々
BL
孤児院で暮らすイオはかつて親友だった貴族の子息に嫌がらせを受けていた。 きっかけはイオが勇者をカッコいいと褒めたから。 互いに話し合い離れる事を決めたが、その日以来イオは親友により孤児院で孤立することになる。 そんな日々の中で慰めてくれたのは勇者だった。 ある日魔王の贄としての役目を命じられ、勇者と共に旅に出ることに。 イオは自らの死を覚悟しながらも勇者との旅を喜んだ。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき
BL
 凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。  二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。  それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。 「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」  人前でそんな発言をして爽やかに笑う。  発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。