Betrayed Heroes -裏切られし勇者の末裔は腐敗世界を破壊し叛く-

砂糖かえで

文字の大きさ
26 / 84
その勇者の名は

ep.26 とても重い言葉ですね

しおりを挟む
「そ、そんな馬鹿なッ……! 神より賜りし至高至善の聖剣が……!」

 神に祝福された聖剣が砕ける様にジュゼットは目を見張った。

「まさか……闇の力は我らの予想を遥かに超えるというのか……」

 ジュゼットはその場に膝から崩れ落ちる。その顔は絶望に満ちており血の気が失せていた。他の白ローブの面々はリーダーが敗れたことに酷く動揺していた。

「おい、遅刻した罰だ。ここの掃除はお前たちがやれ」

 センリは後方で様子を見ていた黒ローブの集団に向かって言った。

 黒ローブの集団は何も答えなかったが察したように動き始めた。それを見てセンリは2人のもとに戻った。ジュゼットはただただ打ちひしがれていて戦闘不能状態だった。

「帰るぞ。面倒事に巻き込まれる前に」
「ですが怪我をした人々が……」
「放っておけ。あいつらに任せてある」
「主よ、一体あやつらは何者なのだ」
「いちいち説明してやる暇はない。行くぞ」

 センリは強引に2人を両脇に抱きかかえて地面を蹴り跳躍した。屋根から屋根へと軽やかに飛び移り最短路で城へと帰った。辺りは当初の予定よりも暗くなっていた。

「ま、待ってください! 城の周りには障壁が! ぶつかってしまいます!」

 城壁を飛び越えようとした時、エスカが声を上げた。城の周りに張り巡らされた魔術障壁は侵入者対策。触れようものなら気絶するほどの衝撃が全身に伝わるだろう。

「んなもん俺には関係ない」

 センリは慣れた様子で障壁に穴を開けて難なく通過。そのまま自室のバルコニーに飛び移り2人をそこに下ろした。

「……はあ、びっくりしました」
「なかなか心地良い緊張感であったぞ」

 対照的な2人をよそにセンリはもはや玄関代わりの大窓を開けて中に入った。指をパチンと鳴らして部屋の明かりを点けると2人も部屋の中に入った。その際エスカはセンリから預かっていた古書をテーブルの上にそっと置いた。

「のう、センリ。さきほどの白と黒のローブを身に纏った者たちは何者なのだ」

 クロハは名を呼んで問うた。それはエスカが聞きたいことでもあった。

「お前たちには関係ない」
「しかし、あやつらは我らのことを配下と言うておった。主はそれでも関係がないと言い張るつもりか?」

 クロハは息が触れる距離まで詰め寄った。身長差による上目遣いで睨みながら返答を静かに待っている。そのうしろではエスカが真剣な表情をしていた。

「……明日だ明日。今日はもういいだろ」

 大きな息を吐いてセンリは頭を掻きながらベッドに向かった。途中で上着を脱ぎ捨ててベッドに寝転がった。

「ああだこうだと言うても真剣に向き合えば素直に応えてくれる主のそういうところ我は嫌いではないぞ」

 クロハはそう言いながら背中のボタンを後ろ手に外し紐を引き抜いてドレスを脱いだ。妖艶な下着姿を露わにしてそのままベッドに乗り寝転がった。

「ちょ、ちょっと! クロハさん! 何をなさって!」

 それを見て慌てたエスカはクロハに駆け寄った。

「我は疲れた。今日はもうここで眠る」
「駄目です! ここはセンリさんの場所です! ましてやそのような格好で!」
「よいではないか。我1人がいたところで邪魔にはならぬ」
「もうっ! なら私もここでっ!」

 エスカは躍起になってクロハに対抗した。

「主は城の者に顔を見せておかねばなるまい。心配をかけたままでもよいのか?」
「うううっ……。なら顔見せを済ませたあとにすぐ戻ってきます!」

 そう言うとエスカは急いだ様子で部屋から出ていった。

「くふふ。これで主と二人きりじゃな」

 クロハはセンリの腕をぎゅっと握った。センリはそれを払いのけて布団を被り背中を向けた。

「自分の部屋に帰れ」
「その申し出は受けられぬと言うたら?」
「ふざけるな。殺すぞ」
「くふふ。そのつもりなどないくせに」
「……これだからガキは」

 センリは苛々しながら部屋を別の場所に移すことを真面目に考えた。

 ###

 それから2、3時間後のことだろうか。ようやくエスカが戻ってきた。顔を見せるだけもそれなりに時間がかかったようだ。

 清楚な寝間着に着替えたエスカはきちんと部屋の扉をノックしてから中に入った。すでに消灯しておりセンリもクロハも寝息を立てていた。

 ベッドの上、クロハはセンリにべったりと身を寄せていた。それを見てエスカは慎重にクロハをセンリから引き離した。幸い熟睡していたクロハが起きることはなかった。

「……よしっ」

 満足したエスカはクロハの反対側、空いたセンリの隣に身を横たえた。目の前にはセンリの寝顔。少し手を伸ばせば触れる距離。

「……ふふっ」

 エスカはいたく幸せそうな表情を浮かべてその寝顔をただ見つめていた。

 ###

 寝顔を見続けるつもりが知らぬまに寝てしまったエスカ。次に目を覚ました時にはもう朝になっていた。

「……いけない。いつの間に」

 エスカは体を起こした。そこに熟睡するクロハの姿はあったがセンリの姿はない。新鮮な風が通り抜ける部屋を見回すとセンリが見つかった。椅子に座って水を飲んでいた。

「おはようございます」

 声をかけてエスカはベッドから降りた。まだ眠く自然とあくびを漏らした。

「そのお水、私もいただいていいですか?」

 勝手にしろと言わんばかりにセンリはコップをテーブルに置いた。エスカは「ありがとう」と一言。自分でそのコップに水を注いで喉を潤した。

「……ふう。とても美味しかったです」

 朝の一杯は乾いた身体に深く染み渡った。

「そういえばこの本はどこまで読まれたのですか?」

 エスカはテーブルの上に置かれた古書に触れた。

「少し前に読み終えた」
「そうでしたか。見たところ悲しい歴史のようですが、どの辺りがセンリさんの興味を引いたのですか?」
「……産声を上げた時から磔刑のやつらもいるってことさ」
「それどのような……?」
「分からなくていい。それよりも昨日の話が聞きたいんだろ?」
「はい。それはお聞きしたいですがクロハさんがまだ……」

 エスカは起きる気配のないクロハを見やった。

「あいつが起きた時にお前から伝えればいいだろ。まさかあいつが起きるまで待てと言うつもりか?」
「……分かりました。クロハさんにはあとで私からお伝えします」

 エスカが頷いたのを見てセンリは重い口を開いた。

 センリが話す内容はドゥルージ教内のいざこざとそれが自分にどう関係しているのかについて。七賢者の話に関しては真偽が定かではないので伏せた。

「……ドゥルージ教徒の中にそのような危ない方々がいるとは知りませんでした」
「お前はアーシャ教徒だったな?」
「はい。家族はみなアーシャ教徒です。特に母方は先祖代々アーシャ教の家系です。アーシャ教徒の中にも悪さをする方がいますが、そこまで酷い話は聞いたことがありません」
「この国においてのドゥルージ教は今どんな立ち位置にある?」
「そうですね。最大勢力のアーシャ教は国教ですから、それを除けば最も広く信仰されている宗教になるでしょうか。年々その数も増しています」
「改宗してるのか?」
「全くないとは言えませんが、その多くは無宗派層の人々です。ドゥルージ教の方々は熱心に彼らへ神の教えを説いていると聞きます」
「なるほど。つまり今この国は二分化しつつあるというわけか」
「……そういうことになってしまいますね。アーシャ教徒の私としては残念ですが信仰の自由ですから仕方がありません。強制はできませんし」 
「いずれ宗教間の抗争が頻発するようになるかもな」
「……そうはなってほしくないものです。本当に」

 エスカは最悪の未来を想像して悲しげに目を伏せた。

「残念だがおそらくそうなるだろう。人間は愚かだ。流れに身を任せることで自らの意思を捨てその手を汚すことさえ厭わない。全てを失った時にようやく学ぶが、その時にはもう何もかもが遅い」
「……とても、とても重い言葉ですね」

 聞くだけでも胸を締めつけられるような感覚に陥る。勇者の一族の言葉はそれほどの重みを帯びていた。

「センリさんを襲ったあの方々は……また現れるでしょうか」
「さあな。できることならあの小蝿どもには二度とまとわりつかれたくないが、万が一次に会うようなことがあればその時は……塵一つ残さず消してやる」

 その背筋が凍るような声色にエスカは身震いした。そして思いだした。これがセンリなのだと。穏やかな寝顔を見せる彼と憎悪に満ちた怖い顔を見せる彼は同一人物なのだと。

「あの、彼らのことについて父上にお話してもよろしいでしょうか。先日の事件のこともすでにご存知でしょうし力になってくれると思うのです」
「好きにしろ」
「感謝します。……あと少し席を外しますね」

 エスカは礼を言って立ち上がり部屋から出ていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

処理中です...