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断片;旅の途中
ハリボテの町 -5-
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刺客を撃破して屋敷へ帰るとルブールが動揺を見せた。しきりに頭をかいては落ち着かない様子でエスカたちに町でのことを聞いた。
エスカが何事もなく貧民街の人々と触れ合えたと言うと、ルブールは険しい顔をして自分の書斎に向かった。
しかし夕食の席ではさきほどの様子が嘘のように饒舌になって町の名所をひたすらエスカに勧めていた。
このクリューグで過ごす最後の夜は最高の警備態勢で迎えた。エスカの部屋の周囲には騎士団の中でも精鋭が配置された。屋敷の周りにも数多くの騎士を配置して近づけさせないようにした。
部屋の中にはオルベールとクロハが待機しておりセンリとルゴーは別室で備えている。
そのおかげかあるいはもう弾切れだったのか最後の夜は平穏に過ぎ去った。
###
出発の日。朝食の時間が終わり、エスカはルブールの書斎に挨拶へ出向いた。何も知らされていなかったルブールは身を乗り出して焦りの表情を見せた。
「短い間でしたがお世話になりました」
「こ、これはまた突然ですね。発つならば事前に言ってくだされば良かったのに。お見送りの準備もできていませんし」
「見送りなら結構です」
「ですが私としては姫様を盛大にお見送りして差し上げたかった。もしあと数日お時間をいただけるのなら必ずや満足のいくおもてなしを約束いたしましょう」
「結構です。私はできる限り早く王都へ帰らねばなりません」
「……しかし」
しつこく食い下がるルブールを無視してエスカは背を向けた。そのまま書斎を後にしようとした時、わざとらしく手を叩いて思い出した素振りを見せた。
「……そうでした。忘れていたことがありました。ルブール男爵」
「はい。なんでしょう」
振り返る笑顔の姫を見てルブールは何かを期待した。しかし、
「今日を以てあなたから爵位を剥奪します。ならびに鉱山での労働を課します。期限はこの町の闇が晴れるまで」
「ななな、なんですとッ!」
それは期待どころか予想の斜め上をいく衝撃的な内容だった。
「ひ、姫様。何をおっしゃっておられるのですか。貧民地区を放置していたことが原因だとしてもこの処遇はあまりにも酷すぎます。権力の濫用はおやめください。第一この私が退いたとしてその後はどうするのです?」
「後任ならすでに決まっています。入ってきてください」
エスカがそう言うと書斎の扉から誰かが中に入ってきた。それを見た途端ルブールは唇を強く噛み締めた。
「ルゴーッ! 貴様ッ! 姫様にあることないこと吹き込みおったなァッ!」
「失敬ですね。私はあることしか吹き込んでおりません」
「私を裏切るのかッ! 身寄りのない貴様を引き取ってやったのは誰だッ! その恩を仇で返すつもりかッ!」
「育てていただいたことに関しては深く感謝しています。ですが今回の件とは関係がありません」
「抜かせッ! どうせ私を貶めるために以前から画策しておったのだろうッ!」
「あなたが良き父親であり良き領主であったならば私もこんなことはしなかった。まさか重罪を冒すまでの悪に成り果てるとは」
「重罪だと?」
「姫様の誘拐、いえ暗殺未遂のことです」
それを聞いてルブールは突然笑いだした。
「何を言い出すかと思えば馬鹿らしい。妄想は頭の中だけにしたまえ」
「こちらには決定的な証拠があります」
「そんなものがあるならぜひ見せてほしいものだな。もしもそれが決定的な証拠足りえなかった場合は相応の責任を取ってもらうぞ」
「いいでしょう。では入ってきてください」
ルゴーは手を叩いた。するとローブ姿の男を連れたセンリとオルベールが入室した。
「……ッ」
ルブールは一瞬だけ目を見張ってすぐ元の表情に戻った。
「彼に見覚えはありませんか?」
「……ふんッ。誰だそいつは」
「彼はあなたから依頼を受けた暗殺者の1人です」
「まさかとは思うがそれが決定的な証拠とでも言うつもりか? 笑止千万。そんなものいくらでも捏造できるわ」
「ではこれも捏造と言い張るおつもりですか?」
「そ、それは……ッ!」
ルゴーが懐から取りだしたのは1枚の羊皮紙。紛うことなきルブール直筆の署名入りである。
「き、ききき、貴様、寝返ったなッ! 金にでも目が眩んだかッ!」
ローブ姿の男に向けてルブールは吐き捨てるように言った。
「いえ、彼は寝返っていませんよ。最初からこちら側の人間です。そうですよね?」
ルゴーが問いかけるとローブ姿の男はそのローブを勢いよく脱いで見せた。
「ば、馬鹿なッ! そんなことがッ!」
ローブの下に現れたのはアガスティア王国騎士団の紋章。
「彼は私の率いる騎士団に所属する方です。今回の計画のために協力してもらいました」
「……姫様。私を謀ったのですか」
「町の民を守るためです」
「……というわけであなたにもう逃げ場はありません。大人しく刑に服してください」
ルゴーは羊皮紙を丁寧に丸めて懐へしまった。
「だがそれならばおかしなことがある。私があの晩あの場所で待ち合わせしていた者とは姫様がここへ来る以前から文でやり取りをしていた。にもかかわらずなぜ……」
「答えは単純。本物とすり替えたからです」
ルゴーの言葉にルブールはあり得ないと首を横に振った。
「すり替えただと……? そんな馬鹿な。お前はやつらの居所を知っていたとでも言うのか? この私ですら知らなかったことを」
「私にはこの町を見通すことができる千里眼がありますので」
「ふざけるのも大概にしろ。何が千里眼だ」
「お忘れですか。この町には民の目があります。彼らの目はありとあらゆる場所まで張り巡らされていて常に何かを見ている。触れ合えばこの町の膨大な情報が手に入ります。千里眼と言っても過言ではないでしょう」
「……お前が日頃、貧民のところへ出向いていた理由はそれか」
たった1人の暗殺者を懇意にしていればすり抜けられたかもしれない網。しかし多くの暗殺者を抱えていたことが図らずも仇になってしまったのだ。
もっと早く殺しておくべきだったとルブールは口惜しげにルゴーを睨みつけた。
「最初はそういうつもりはありませんでした。ですが他愛無い話の中にも貴重な情報が混ざり込んでいることに気づいたんです。それはとある暗殺者の居所を暴くきっかけにもなりました」
「……それが偶然やつの居所だったというわけか」
「ええ。すでに過去のあなたとのやり取りは処分されていましたが、今回の依頼についての文はまだ残っていました。そのおかげで待ち合わせ場所も分かりましたし、羊皮紙には仕事内容も正確に記すことができたというわけです」
「本物はいったいどこへやった?」
「……今頃は川の底で寝てるだろうな」
その問いにはセンリが横から答えた。ルブールは忌々しげに舌打ちをした。
「さてと、もういいでしょう。姫様の出発時刻を遅らせるわけにもいきませんし、さっそくですがこれから鉱山へ行ってもらいます。馬車もすでに用意してありますので」
とうとう観念したのかルブールは椅子から立ち上がった。
「さっさとどこへでも連れていけ」
ため息をつき自棄な調子で言葉を吐き捨てた元領主を見てみんなはこれにて一件落着だと思い安心した。だがその中で1人だけまだ納得していない者がいた。
「待てよ」
それはセンリだった。周りは呆気に取られていた。
「まだやることがある」
言いながらセンリは部屋を歩いて本棚の前へ。そこで並べられている本を目利きし、何かを確認するように手で触り、
「……やっぱりここだったか」
中から1冊の本を手に取った。するとルブールの顔が一瞬にして真っ青になった。
「センリさん。いったいどうしたのですか?」
「まあ見てろ」
手に取った本を乱暴に捲ると中から何かが落ちてきた。それは鍵だった。
「鍵、ですか?」
「ああ。お前、ルブールとか言ったな。この鍵はいったい何の鍵だ?」
「に、庭の物置の鍵だ。第一どうしてその本に鍵があると分かった……?」
「お前はあまり本が好きではないようだ。本棚に並べられているどの本も埃まみれで手垢が付いていない。だがある1冊だけは異様に綺麗で手垢が付いていた。つまり何度も手に取っているというわけだ」
「そ、それだけで中に鍵があると分かったのか。い、いや。それはおかしい。そもそもなぜ鍵の存在を知っていた?」
「開かない扉があったら誰だって鍵の存在を考えるだろ」
「貴様まさか……ッ! あ、ありえんッ! そんなことがあってなるものかッ!」
ルブールは何かを察して激しく取り乱した。
「センリ様。私たちにも説明をお願いいたします」
ルゴーが求めると、センリは「ついてくれば分かる」と言って部屋から出ていった。
他の面々はポカンとした顔で彼の後についていった。ルブールは暴れないように手をうしろで縛られてオルベールに連行されていた。
案内されたそこは大広間。あの気味悪いルブールの巨大な肖像画が飾られている場所である。センリはその真ん前にいた。
「ここはあの時の……。センリさん。やはりこの肖像画には何かあるのでしょうか」
エスカの問いには答えずセンリは普通なら気づかない肖像画のある部分に鍵を突き刺して右へ回した。どこからともなくガチャッという音が聞こえてきて肖像画の真ん中が扉の形に窪んだ。窪んだ部分を手で押すと横へ動いて目の前に地下へ続く階段が現れた。
「どれだけ貯め込んでるか見ものだな」
センリは鼻で笑って躊躇なく階段を下りていった。エスカは慌ててその後を追い、さらにその後を他が追った。ルブールは死んだように項垂れていた。
階段を下りていった先には思わず目が眩むような輝きを放つ黄金の山があった。金貨はもちろんのこと換金しやすい宝飾品が多々積まれていた。
「こ、これは……」
「ハハッ。想像以上じゃないか」
「ルブール。あなたはいったいいつからこんなことを……」
エスカ、センリ、ルゴーの3人はそれぞれ驚いてその黄金の山に近づいた。
「……もう駄目だ……何もかもおしまいだ……」
ルブールは両膝をついてその顔から完全に生気を失った。
「じゃあこれは報酬としてもらっていくぞ」
センリは黄金の山から金貨を一掴みして革袋に入れると満足げな表情で踵を返した。
###
馬車隊は希望を残してクリューグの町を離れた。ガタガタと揺れる荷台の中では珍しくセンリが上機嫌だった。
あのあとルブールは馬車に乗せられて鉱山へと運ばれた。ルゴーは無罪放免、とはいかず自らこれまでの行為に対しての処分を受け入れた。新たな領主になった上で、休みなく空いた時間の全てを鉱山労働と貧民地区での奉仕活動に費やすと言う。
彼は笑顔でこの町の再興をエスカに誓った。あの黄金の山は全て貧民地区の環境改善に使われるという。
結局失敗に終わったがルブールの目論見はこうだった。エスカを誘拐して取引場所を別の町に移すことでまずクリューグから目を逸らさせる。そこでエスカに強い心的外傷を与えて貧民地区のことを忘れさせるつもりだったようだ。
「のう。エスカ。結局全て解決したのかえ?」
「ええ。これでもう大丈夫だと思います」
今回は寝てばかりでほとんど仲間外れだったクロハ。やはり少し不満げだったがエスカの返事を聞いて「なら良かった」と微笑を浮かべた。
王都に到着まであともう少し。
そこで待つのは因縁深いエスカ以外の王族たち。何かが起こる、そんな予感がしていた。
エスカが何事もなく貧民街の人々と触れ合えたと言うと、ルブールは険しい顔をして自分の書斎に向かった。
しかし夕食の席ではさきほどの様子が嘘のように饒舌になって町の名所をひたすらエスカに勧めていた。
このクリューグで過ごす最後の夜は最高の警備態勢で迎えた。エスカの部屋の周囲には騎士団の中でも精鋭が配置された。屋敷の周りにも数多くの騎士を配置して近づけさせないようにした。
部屋の中にはオルベールとクロハが待機しておりセンリとルゴーは別室で備えている。
そのおかげかあるいはもう弾切れだったのか最後の夜は平穏に過ぎ去った。
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出発の日。朝食の時間が終わり、エスカはルブールの書斎に挨拶へ出向いた。何も知らされていなかったルブールは身を乗り出して焦りの表情を見せた。
「短い間でしたがお世話になりました」
「こ、これはまた突然ですね。発つならば事前に言ってくだされば良かったのに。お見送りの準備もできていませんし」
「見送りなら結構です」
「ですが私としては姫様を盛大にお見送りして差し上げたかった。もしあと数日お時間をいただけるのなら必ずや満足のいくおもてなしを約束いたしましょう」
「結構です。私はできる限り早く王都へ帰らねばなりません」
「……しかし」
しつこく食い下がるルブールを無視してエスカは背を向けた。そのまま書斎を後にしようとした時、わざとらしく手を叩いて思い出した素振りを見せた。
「……そうでした。忘れていたことがありました。ルブール男爵」
「はい。なんでしょう」
振り返る笑顔の姫を見てルブールは何かを期待した。しかし、
「今日を以てあなたから爵位を剥奪します。ならびに鉱山での労働を課します。期限はこの町の闇が晴れるまで」
「ななな、なんですとッ!」
それは期待どころか予想の斜め上をいく衝撃的な内容だった。
「ひ、姫様。何をおっしゃっておられるのですか。貧民地区を放置していたことが原因だとしてもこの処遇はあまりにも酷すぎます。権力の濫用はおやめください。第一この私が退いたとしてその後はどうするのです?」
「後任ならすでに決まっています。入ってきてください」
エスカがそう言うと書斎の扉から誰かが中に入ってきた。それを見た途端ルブールは唇を強く噛み締めた。
「ルゴーッ! 貴様ッ! 姫様にあることないこと吹き込みおったなァッ!」
「失敬ですね。私はあることしか吹き込んでおりません」
「私を裏切るのかッ! 身寄りのない貴様を引き取ってやったのは誰だッ! その恩を仇で返すつもりかッ!」
「育てていただいたことに関しては深く感謝しています。ですが今回の件とは関係がありません」
「抜かせッ! どうせ私を貶めるために以前から画策しておったのだろうッ!」
「あなたが良き父親であり良き領主であったならば私もこんなことはしなかった。まさか重罪を冒すまでの悪に成り果てるとは」
「重罪だと?」
「姫様の誘拐、いえ暗殺未遂のことです」
それを聞いてルブールは突然笑いだした。
「何を言い出すかと思えば馬鹿らしい。妄想は頭の中だけにしたまえ」
「こちらには決定的な証拠があります」
「そんなものがあるならぜひ見せてほしいものだな。もしもそれが決定的な証拠足りえなかった場合は相応の責任を取ってもらうぞ」
「いいでしょう。では入ってきてください」
ルゴーは手を叩いた。するとローブ姿の男を連れたセンリとオルベールが入室した。
「……ッ」
ルブールは一瞬だけ目を見張ってすぐ元の表情に戻った。
「彼に見覚えはありませんか?」
「……ふんッ。誰だそいつは」
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「まさかとは思うがそれが決定的な証拠とでも言うつもりか? 笑止千万。そんなものいくらでも捏造できるわ」
「ではこれも捏造と言い張るおつもりですか?」
「そ、それは……ッ!」
ルゴーが懐から取りだしたのは1枚の羊皮紙。紛うことなきルブール直筆の署名入りである。
「き、ききき、貴様、寝返ったなッ! 金にでも目が眩んだかッ!」
ローブ姿の男に向けてルブールは吐き捨てるように言った。
「いえ、彼は寝返っていませんよ。最初からこちら側の人間です。そうですよね?」
ルゴーが問いかけるとローブ姿の男はそのローブを勢いよく脱いで見せた。
「ば、馬鹿なッ! そんなことがッ!」
ローブの下に現れたのはアガスティア王国騎士団の紋章。
「彼は私の率いる騎士団に所属する方です。今回の計画のために協力してもらいました」
「……姫様。私を謀ったのですか」
「町の民を守るためです」
「……というわけであなたにもう逃げ場はありません。大人しく刑に服してください」
ルゴーは羊皮紙を丁寧に丸めて懐へしまった。
「だがそれならばおかしなことがある。私があの晩あの場所で待ち合わせしていた者とは姫様がここへ来る以前から文でやり取りをしていた。にもかかわらずなぜ……」
「答えは単純。本物とすり替えたからです」
ルゴーの言葉にルブールはあり得ないと首を横に振った。
「すり替えただと……? そんな馬鹿な。お前はやつらの居所を知っていたとでも言うのか? この私ですら知らなかったことを」
「私にはこの町を見通すことができる千里眼がありますので」
「ふざけるのも大概にしろ。何が千里眼だ」
「お忘れですか。この町には民の目があります。彼らの目はありとあらゆる場所まで張り巡らされていて常に何かを見ている。触れ合えばこの町の膨大な情報が手に入ります。千里眼と言っても過言ではないでしょう」
「……お前が日頃、貧民のところへ出向いていた理由はそれか」
たった1人の暗殺者を懇意にしていればすり抜けられたかもしれない網。しかし多くの暗殺者を抱えていたことが図らずも仇になってしまったのだ。
もっと早く殺しておくべきだったとルブールは口惜しげにルゴーを睨みつけた。
「最初はそういうつもりはありませんでした。ですが他愛無い話の中にも貴重な情報が混ざり込んでいることに気づいたんです。それはとある暗殺者の居所を暴くきっかけにもなりました」
「……それが偶然やつの居所だったというわけか」
「ええ。すでに過去のあなたとのやり取りは処分されていましたが、今回の依頼についての文はまだ残っていました。そのおかげで待ち合わせ場所も分かりましたし、羊皮紙には仕事内容も正確に記すことができたというわけです」
「本物はいったいどこへやった?」
「……今頃は川の底で寝てるだろうな」
その問いにはセンリが横から答えた。ルブールは忌々しげに舌打ちをした。
「さてと、もういいでしょう。姫様の出発時刻を遅らせるわけにもいきませんし、さっそくですがこれから鉱山へ行ってもらいます。馬車もすでに用意してありますので」
とうとう観念したのかルブールは椅子から立ち上がった。
「さっさとどこへでも連れていけ」
ため息をつき自棄な調子で言葉を吐き捨てた元領主を見てみんなはこれにて一件落着だと思い安心した。だがその中で1人だけまだ納得していない者がいた。
「待てよ」
それはセンリだった。周りは呆気に取られていた。
「まだやることがある」
言いながらセンリは部屋を歩いて本棚の前へ。そこで並べられている本を目利きし、何かを確認するように手で触り、
「……やっぱりここだったか」
中から1冊の本を手に取った。するとルブールの顔が一瞬にして真っ青になった。
「センリさん。いったいどうしたのですか?」
「まあ見てろ」
手に取った本を乱暴に捲ると中から何かが落ちてきた。それは鍵だった。
「鍵、ですか?」
「ああ。お前、ルブールとか言ったな。この鍵はいったい何の鍵だ?」
「に、庭の物置の鍵だ。第一どうしてその本に鍵があると分かった……?」
「お前はあまり本が好きではないようだ。本棚に並べられているどの本も埃まみれで手垢が付いていない。だがある1冊だけは異様に綺麗で手垢が付いていた。つまり何度も手に取っているというわけだ」
「そ、それだけで中に鍵があると分かったのか。い、いや。それはおかしい。そもそもなぜ鍵の存在を知っていた?」
「開かない扉があったら誰だって鍵の存在を考えるだろ」
「貴様まさか……ッ! あ、ありえんッ! そんなことがあってなるものかッ!」
ルブールは何かを察して激しく取り乱した。
「センリ様。私たちにも説明をお願いいたします」
ルゴーが求めると、センリは「ついてくれば分かる」と言って部屋から出ていった。
他の面々はポカンとした顔で彼の後についていった。ルブールは暴れないように手をうしろで縛られてオルベールに連行されていた。
案内されたそこは大広間。あの気味悪いルブールの巨大な肖像画が飾られている場所である。センリはその真ん前にいた。
「ここはあの時の……。センリさん。やはりこの肖像画には何かあるのでしょうか」
エスカの問いには答えずセンリは普通なら気づかない肖像画のある部分に鍵を突き刺して右へ回した。どこからともなくガチャッという音が聞こえてきて肖像画の真ん中が扉の形に窪んだ。窪んだ部分を手で押すと横へ動いて目の前に地下へ続く階段が現れた。
「どれだけ貯め込んでるか見ものだな」
センリは鼻で笑って躊躇なく階段を下りていった。エスカは慌ててその後を追い、さらにその後を他が追った。ルブールは死んだように項垂れていた。
階段を下りていった先には思わず目が眩むような輝きを放つ黄金の山があった。金貨はもちろんのこと換金しやすい宝飾品が多々積まれていた。
「こ、これは……」
「ハハッ。想像以上じゃないか」
「ルブール。あなたはいったいいつからこんなことを……」
エスカ、センリ、ルゴーの3人はそれぞれ驚いてその黄金の山に近づいた。
「……もう駄目だ……何もかもおしまいだ……」
ルブールは両膝をついてその顔から完全に生気を失った。
「じゃあこれは報酬としてもらっていくぞ」
センリは黄金の山から金貨を一掴みして革袋に入れると満足げな表情で踵を返した。
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馬車隊は希望を残してクリューグの町を離れた。ガタガタと揺れる荷台の中では珍しくセンリが上機嫌だった。
あのあとルブールは馬車に乗せられて鉱山へと運ばれた。ルゴーは無罪放免、とはいかず自らこれまでの行為に対しての処分を受け入れた。新たな領主になった上で、休みなく空いた時間の全てを鉱山労働と貧民地区での奉仕活動に費やすと言う。
彼は笑顔でこの町の再興をエスカに誓った。あの黄金の山は全て貧民地区の環境改善に使われるという。
結局失敗に終わったがルブールの目論見はこうだった。エスカを誘拐して取引場所を別の町に移すことでまずクリューグから目を逸らさせる。そこでエスカに強い心的外傷を与えて貧民地区のことを忘れさせるつもりだったようだ。
「のう。エスカ。結局全て解決したのかえ?」
「ええ。これでもう大丈夫だと思います」
今回は寝てばかりでほとんど仲間外れだったクロハ。やはり少し不満げだったがエスカの返事を聞いて「なら良かった」と微笑を浮かべた。
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