Betrayed Heroes -裏切られし勇者の末裔は腐敗世界を破壊し叛く-

砂糖かえで

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火に渦巻くは歴史の咎

ep.43 だから今度こそは救ってみせる

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 次に現れた時、アルテは頭からすっぽりと覆ったローブ姿だった。

「行きましょう」

 そのまま裏門に行っても門番に止められると踏んでセンリはアルテを抱き上げて城壁を飛び越えた。そこから馬車用の道に出て2人は歩き始める。今のところ彼ら以外に人の気配はない。

 久しぶりの城外でアルテは極度の緊張状態になっていた。センリが声をかけると、

「い、いきなり声をかけないでっ!」彼女は驚いて男らしい声を発した。
「皮が剥がれてるぞ」
「……い、いきなり声をかけないでいただけませんか?」
「もういいだろ。本性を出せ」
「……はあ」

 アルテは大きなため息をついて頭巾から顔を出した。苛立っているのか自身の髪を手でくしゃくしゃにしている。

「バレてしまったけどまあいいわ。どうせあんたたちは国に帰るし」

 本当のアルテはこれ。崩れた言葉遣いに気怠そうな口調。態度も大きく変わっている。

 そう。今までアルテは皆が理想とする王女様を演じていたのだ。

「二重人格の上に仮面まで被るとはもう滅茶苦茶だな」
「ええ。滅茶苦茶よ。私だってやりたくないわ。でも一国の王女がこんな態度だと周りに迷惑がかかるでしょ」
「セレネはどうなんだ?」
「あの子はそのままよ。……本当はあの子が王女で私が巫女になるべきだったかも。性格的にね」

 神託は絶対。彼女がどれほど後悔していようとも巫女として選ばれたのはセレネのほうだった。いまさら変更する術はない。

「それと、この前は悪かったわ。あんたを障壁に突き飛ばして。本当に反省しているわ」

「危うく死ぬところだったがまあいい。こっちも連れだしてはいけないお前をこうやって外へ連れだした。これで貸し借りはなしだ」
「そうしてもらえると助かるわ。会うたびにねちねち言われるのは嫌だもの」
「なるほどな。こんな口振りなら仮面を被って正解だ」
「で、もし黒いやつが来たらどうするつもりよ? 戦えないことはないけどまさか私に全部任せるって言うんじゃないでしょうね?」
「そのことなら気にする必要はない。お前は黙ってついてくればいい」
「……分かったわよ。でもまあ、やっぱり外はいいものね。街にはたくさんの人がいるのかしら」

 王女でありながら街の様子をほぼ知らぬ彼女は頭の中で想像の街を組み立てていた。

 この街への連れだし。それは単にアルテの特異体質を試すだけではない。他の意図も隠されていた。それに気づかない彼女は城の者に罪悪感を覚えつつもその足を速めた。

 街に出るとアルテは目を丸くして辺りを見回した。彼女は再び頭巾を被っていてこれで万が一城の者に出くわしても大丈夫だろう。

「多いわね、人。まさかこんなに多いとは思ってなかったわ」
「籠から出た感想はそれか」
「よく知らなかったんだから仕方ないじゃない。それよりも早く行きましょ。あまり時間は無駄にしたくないわ」

 アルテの心の中では城を出た喜びと城へ戻らなければという焦りが混ざりあっていた。

 街の様子は前に来た時と変わらず盛況だった。通りは多くの人々が行き交っていてセリアンと呼ばれる種族も見かけた。

 セリアンとはいわゆる獣人のことである。

 ヒトと動物の外見を併せ持つ種族で性格は基本的には短気。耳や尻尾、濃い体毛が特徴的で身体能力に優れている。繁殖力旺盛ではあるが寿命はヒトより短い。排他的でとある問題を併せ持つエルフと違って彼らは友好的である。

 見かけたセリアンは旅商人らしく露店の商品を値踏みしながら歩いていた。

「……へえ。あんなのもいるのね」

 アルテはそんな獣人を不思議そうに眺めていた。

「見てないでさっさと行くぞ」
「そうね」

 我に返ってアルテは再び歩き始めた。

 様々な種類の店も。露店に並ぶ商品も。生活する人々をこうしてまともに見るのも初めてのことで彼女は子供のような無邪気さで口を開けながら楽しんでいた。

「あれは?」
「喫茶店だ。中に入るぞ」

 センリが入った喫茶店はあの酔っぱらいの男ルキがいた店だ。今日も隅のほうで酒を飲んで酔っ払っている。

 2人が彼の近くの席に腰を下ろすと店主がやってきた。

「私はあの茶葉でお願い」

 アルテは説明も何も聞かずに注文した。店に入った時から香草茶の店だと気づいていたようだ。

「あんたは疲れてそうだし、あの茶葉にしたら? フレールって言うんだけど結構効くと思うわ」

 アルテは選んでいる途中のセンリに声をかけた。

「詳しいな」
「まあね。ずっと城の中じゃお茶を飲むくらいしか楽しみがないし」
「セレネのほうは?」

「あの子はあまり好きじゃないみたい。何度かテーブルに置いておいたけど飲んだことは一度もないわね」
「そうか。なるほどな。フレール、か」

 センリは茶葉の名前をしかと記憶に刻み込んだ。

 しばらくして2人のお茶が運ばれてきた。アルテはまず匂いを嗅いで粗悪なものを使用していないか確認したのち、口に運んだ。

「うん。悪くないわね」

 この店のお茶は姫様の御眼鏡に適ったようで彼女は二口目をいただいた。

「そういえばお前からはまだ聞いてなかったな」
「いきなり何のこと?」
「火の巫女についてだ。セレネから話を聞くことはあってもお前から聞いたことはない」

 火の巫女という言葉にルキはピクリと反応した。

「ちょっと。外でそういう話はしないで」

 素性を知られたくないアルテは小声で注意した。しかしもう遅い。近くで聞いていたほろ酔いのルキが近寄ってきた。ほんのり赤い顔で口から吐く息はとても酒臭い。

「お前たち。火の巫女の関係者か?」
「ああ。そうだが」
「あんたいきなり何言いだすのよっ!」

 アルテは焦った顔でテーブルにお茶をこぼした。

「なら俺を火の巫女のところへ連れていってくれ」
「いきなりだな」
「俺は先代の火の巫女を悪魔から救えなかった。だから今度こそは救ってみせる」
「……マリーレ様」アルテはぽつりと呟いた。
「先代の火の巫女マリーレは俺の幼馴染だ。火の神殿に住むあのにっくき悪魔によってその命を奪われた」

 一見するとただの酔っぱらい。言葉もたどたどしい。だがしかしその目だけは真剣そのもの。未だ輝きを失ってはいなかった。

「と、こいつは言ってるが?」
「……まさかあんたこのために私を連れてきたんじゃ」

 正面のセンリを睨みつけるアルテ。

「さあな。それよりもまだ話したそうだぞ」

 センリはわざとらしく話を逸らし、アルテの視線をルキに向けさせた。

「どうなんだ? 俺を連れていってくれるのか」
「それなら答えは否よ。当たり前でしょ」
「どうして駄目なんだあッ!」
「不審者を神聖な巫女に会わせることなんてできないわ」
「いいのか。また火の巫女が死んでも……!」

 ルキはテーブルの上に置いた両拳を小刻みに震わせる。

「その言い方だとまるで火の神様が殺してるみたいね」
「そうだと言ってる。あれは神様なんかじゃない。神を騙った悪魔だ」
「その根拠は?」
「……そ、それは……。と、とにかく! 俺は昔見たんだ。あいつが本性を現したところをなッ!」

 痛いところを突かれたとルキは苦しげに喉から言葉を吐く。どうやら決定的な証拠はなく過去の体験に基づくもののようだ。

「本性、か。それならちょうどさっき見たところだ」
「……あんたね。あとで覚えてなさいよ」

 アルテは横目でキッと睨んだ。

「あれは俺がまだ若かった頃……」

 2人をよそにルキは勝手に語り始めた。アルテは不愉快そうに眉をひそめる。今にも店から出ていきそうな雰囲気だが、目の前にいる男が留まれと目で圧をかけていた。
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