平和に生き残りたいだけなんです

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四度目の世界

5.

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 あれから色々と店を回ってはみたけれど、結局は何も買わずに家へと向かって歩いている。
 桜華は溜息をついた。

「喋れるのはわかったけど、あそこまでうるさいと困る」
『良かれと思って』

 こっちは機能的に…。あっちは電力が…。これは良いだの、あれは良いだの。店員いらずの説明を、ひたすらずっと脳内再生されている状態で何を買おうか見るのがしんどくなって、桜華は黙って店を出たのだ。
 家電を見ながら頭を抱えて唸る桜華を、店員は遠くの方から変な目で見てきていた。もうあの店には行きたくないと桜華は泣きたくなった。

「う、嬉しいよ。ありがとう。んー、値段覚えた?通販か、どっちがいいのか選んでから買いに来よう」
『わかりました』

 機械はどっちが安いのか調べてまとめておきますと言って、次の瞬間には画面のお知らせ部分にまとめられた情報が追加されていた。仕事が早すぎるだろ…。桜華は帰ったら見ておくことにした。

「あとは今日食べるやつかな」
『家の近くにコンビニエンスストアがあります』
「そこで買おうかな。あー、八百屋に果物もあったからそれも買っていきたい。森の赤い木の実に似たやつあればなぁ。あれ美味しかったよね」
『この世界には似たものはありませんね』
「ないか…。見た目はラズベリーに似てるけど味が違うしなあ。とりあえず八百屋に寄ろう」

 家から近い商店街の中にコンビニも八百屋もあった。夕方近くなので、子供を連れた主婦の方が多い。

「奥さん今日も可愛いねえ」
「あらやだ!源さんったら調子いいんだから」

「僕大きくなったなあ、これおまけだ。いっぱい食ってもっと大きくなれよー」
「やったー!ママ、りんごもらった!」
「いつもすみません」

「うちの奥さんがご機嫌ななめだから買い物してご機嫌取りしてんだよ」
「えらいなあ。うちのかあちゃんなんて毎日鬼みたいだぜ」
「私がなんだって?」
『ヒィ…!』

 店主なのだろう。小太りのおじさんが忙しそうにニコニコと接客している。
 りんごとバナナを手にして、その様子を見ていたら、桜華の視線に気付いたのか、ニッコリと笑ったまま近寄ってきて、手を伸ばして話しかけてきた。

「らっしゃい。見ない顔ですねえ。これだけでいいのかい?」
「あ、はい。引っ越してきたばかりでー」

 笑顔のおじさんと目が合うと、桜華は何故かゾワっとした。今の感覚はなんだろうと首を傾げながら伸ばされたおじさんの手に、りんごとバナナを渡して、カバンから財布を取り出した。

「じゃあ引越し祝いだ。これも持っていきな!」

 オレンジとグレープフルーツをひとつずついれてくれた。

「あ、ありがとうございます!」

 まさかおまけをくれるとは思ってなかったので嬉しくて笑った桜華。おじさんも笑いながらお代を渡した時に、これからもよろしくなー!と、ぎゅっと手を握られて頷いた。
 あとはコンビニで弁当と飲み物も買って家に帰った。
 桜華は着いてから、買ってきた荷物をテーブルに置いて、敷かれたままだった布団に勢い良く寝転がる。

「あー、疲れた…」
『手洗うがいをした方が良いかと』
「えー、布団懐かしい…。もう無理…。あとでする」

 ふわふわの布団。
 森で暮らしていた時は、こんなにふわふわの布団は手に入らなかった。草と藁で作られたベッドだった。あれはあれで良かったのだけど。久しぶりの、この布団のふわふわを堪能する。

『食事をしてから寝た方が…』
「んー…」
『桜華』

 思っていたより疲れていたようだ。睡魔が襲ってきて目が開けられない。

「まったく…仕方のない子だ」

 眠りに落ちていく中、いつもの機械音ではない声が耳元で聞こえた気がする。不思議に思って目を開こうとするが眠過ぎて目が重くて開かない。

「少しでも休まるように」

 何かを唱えながら頭を撫でられる。ふんわり温かなその手に桜華は擦り寄った。撫でられていた手がビクリと震え、止まって離れたと思ったら、そっと掛け布団が掛けられる。そしてまたしばらくの間、優しく頭を撫でられていた。


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