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四度目の世界

12.

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 龍鵬の後輩がやっているという店は、とてもキラキラしていた。取り扱っているインテリア類もお洒落で、なんか場違いなのではと、桜華はひとり冷や汗を流しながら通されたソファーで龍鵬の横に座って縮こまっていた。

「俺は西条さんの後輩の東と言います」
「あずまさん。私は鏡です。よろしくお願いします」

 渡された名刺には、東しのぶと書かれている。

『これなら読めますね』

 天津が龍鵬の名前を読めなかった時の事をからかっているのだろう。これくらい読めるわ!と思わず天津にツッコミそうになり両手で口を押えた。なんてタイミングで話しかけてくるのだろうか。

「去年、先輩のお宅やったばかりなのに」
「俺の家じゃねーって電話で言っただろ?」
「珍しいですね、こんな可愛い子を連れて歩くなんて」
「兄貴にも言われたぞ、それ…」

 東は縮こまっている桜華を見て苦笑すると、カタログを持ってきて、どれがいい?と優しく聞いてくれる。正直どれがいいのかよくわからなかったので、これとこれが好みかもとしれないと伝えると、東がパソコンを操作しはじめて、こんなのはどう?と見せられたのは、モデルルーム並のウッド調、北欧系インテリアのもので揃えられた家具たちが表示されてる。
 素直にすごいと感動していたら龍鵬と東が顔を見合せて笑った。

 そんなこんなで、揃えられた家具&家電は、さくっと選び終わった。
 ただ問題がひとつあるとすれば…

「これだと二日間かな」
「なら、俺の家に泊まるか。空き部屋あるし」
「…え?」
「今は先輩の家、誰もいないんすか?」
「まぁな」
「先輩の家なら安心ですね。鏡さんの家の鍵はお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「えっ、あ、鍵はこれです」

 知らないうちに話がどんどんと進んでいき、慌てながらポケットから鍵を出して渡すと、東は笑顔で受け取る。

「部屋に触れられたくないものなどはありますか?」
「まだ片付いてないダンボールが積まれてるくらいで…」
「じゃあ、それもついでに片付けちゃいましょうか」
「え?」
「家具などの設置は明日やってもらって、明後日、俺も片付け手伝いますよ。先輩もね」
「ああ、もちろん」
「えっ?」
「明後日の朝、鏡さんの家に10時に来てくださいね」

 ……えっ??

 なんでそんなに全部ぽんぽんと決まっていくのかと理解できないまま、気付けば桜華は龍鵬の家のソファーに座っていた。

(あれ?手続きとか私なんもしてないよ?)

 店を出てからは、来た時と同じように龍鵬に手を引かれながら家に向かったような気もする。
 家に着いてからは、夕飯まで休憩しようと言われて、帰り道にあったケーキ屋でおやつを買って、家に着いてからは、まったりケーキを食べながら二人でテレビを眺めていた。
 そこまで思い出して、桜華は龍鵬に声をかける。

「あ、龍さん」
「ん?なんだ?」
「お邪魔します」
「お前、なんだそれ…今更かよ。今日はずっとぼんやりしてんな」
「うん、まあ…いや、そうじゃなくて」

 あの流れで龍鵬の家に泊まることになったわけだけども…いいのだろうか?

「男はオオカミなんじゃないんですか」
「部屋に鍵もついてるぞ」

 龍鵬の家だというマンションは部屋が4部屋あって広かった。2部屋使われてない部屋と、1部屋は客間だという。
 少し前までは友人と二人でシェアしていたようだけど、今は出ていって空き部屋のようだった。

「私が襲うかもしれないじゃないですか」
「ぶはっ…お前が??」

 腹を抱えてゲラゲラと笑う龍鵬にカチンときた。

(手を繋ぐだけでも照れてるくせに!!)

 そんな笑うことないじゃないか!と、桜華は頬を膨らませて、龍鵬の膝を思い切り叩いた。

「あの、支払い全然していないのですが」

 まだ笑っている龍鵬に、そういえばと思い出したことを尋ねてみる。

「ケーキ?」
「じゃなくて」
「引越し祝いってことで無料」
「そんなわけあるかぁ…!!」

 思わず大声で突っ込んでしまった。龍鵬は相変わらずゲラゲラ笑っている。

(あんなお洒落な家具が無料なわけがないでしょう!? )

 こんな様子の龍鵬に聞いても無駄だと諦めて、東に会った時に聞くことにした。

「ガキが気にするなってことだよ」

 桜華を見て優しく笑うと、龍鵬は頭をぐりぐりと撫でる。そのせいで桜華の髪がぐしゃぐしゃになった。
 桜華がムスッとした表情で睨んでいたら、龍鵬は自分の顎に手を当てて何かを考える仕草をする。そして何かを閃いたのかニヤニヤと笑う。

「じゃあ、そうだな。こっち来い」
「?」
「ここだ、ここ」

 膝の上を両手でぽんぽんと叩いてる龍鵬を見て、何をしているのかわからずに桜華は困る。

「え?なに?」
「ほら、こっちだ」

 その場でどうしたらいいのか固まっていたら、腕を掴まれて引っ張られた。桜華の体が傾いてバランスを崩したが、それを気にもせず受け止めると、龍鵬は桜華の両脇に手を差し込んで持ち上げると、向かい合わせになるように膝の間に桜華を座らせた。

「ちょっ…!え?えっ?龍さん?」

 近い…!というか、なにこれ!恥ずかしい!
 米俵の担ぎ方の時よりも恥ずかしい!!

 桜華が慌てふためいているのを、龍鵬はニヤニヤ笑いながら見ている。
 背中に腕を回して、離れていかないように、ぎゅうっと抱きしめてくる。

「んー、ちいせえな」
「何が!?」

 桜華は離れてほしくて龍鵬の背中を叩いてみるが、そんな桜華を気にすることもなく、頭のてっぺんに顎をのせて落ち着かせるよう背中を撫でてくる。

「なにもしねぇから。怪我したとこが痛えから暴れるなよ」
「もうしてる!」
「大人しく抱き枕になれよ」

 このまま顎に頭突きしてやろうかとも思ったけども、それだと桜華自身も痛そうなので、唸りながら龍鵬の胸に頭を預けた。

「最近調子悪かったからな。はー。落ち着く…」

 そう言うと、片手でクッションを掴んで横に投げ、そのままそのクッションに倒れるように横たわり、抱き枕状態の桜華も共に倒れた。

「うあっ」

 すっぽり龍鵬の腕の中。
 お腹の上に乗ってる状態だから重くないか、痛くないかと心配で焦ってもがいたけれど、龍鵬は離してくれそうもない。もう離れることは諦めた。
 こうしてると、某アニメ映画ト〇ロのあのシーンを体験してるんじゃないかって思えてくる。

「俺はお前が心配だ」
「え?なんで?」
「すぐ騙されて詐欺にでもあいそうでな」
「そんなことないです!」

 なんてこと言い出すのだろう。
 そりゃ、まあ、押しに弱いかもしれないが、今まで詐欺などの被害などにあったことはない。

「知らない奴に着いていかないしな?」
「そうですよ」
「でもこれはダメだろ。もっと抵抗しろよ」
「離してくれない龍さんが悪いと思います」
「抱き心地良すぎて離せねえな」
「じゃあ、どうしようもないですね」

 龍鵬は笑ってから目を瞑ると、桜華を抱きしめている腕を少し強めてきた。
 眠たそうだ。静かにしてようと桜華は黙ると、じっと龍鵬の顔を眺めていた。
 本当は安静にしていなけらばならないのに、歩いたから疲れてしまったのだろうか。
 きっかけは事故だったけれど、出会って間もない桜華に、どうしてこんなに世話を焼いてくれるのか不思議だった。というか、そろそろ本当に龍鵬の上から退きたい。なんとか龍鵬の腕から抜け出せないだろうかとモソモソ動いたら寝返りをしてしまい、桜華は先程よりも抱き枕状態になってしまった。

(抱き枕…ぎゅうっと抱きしめるタイプの人じゃん。これじゃ動けない…)

 お腹の上から真横に移動できただけでも良かったと思うべきだろうか。だけど耳に龍鵬の吐息がかかりくすぐったい。
 桜華は背後から聞こえてくる音に、テレビをつけっぱなしにしてることを思い出して、リモコンに手を伸ばそうとしたが届かない。

「あーくん、消せる?」
『はい』

 テレビの電源が切れて部屋が静かになる。聞こえてくるのは龍鵬の寝息だけ。

「龍さんをベッドに運ぶとか無理かな」
『可能ですが怪しまれるかと』
「ですよねー。仕方ない…動けないし、私もお昼寝しよ…」
『危機感なさすぎでは…?』

 天津が『魔法が使えるとはいえ…男女なのに警戒もせず…』とかなんとか、ぶつぶつ言っているけれど、桜華はそれをまるっと無視して、龍鵬の胸にぐりぐりと顔を埋めた。

(あー温かいなあ)

 久しぶりに感じた人の温もりは心地良かった。葵に抱きしめられながら命を落とした時に感じた不快感などは一切ない。龍鵬に抱きしめられて、こうしてのんびり過ごすのは安心する。何でだろう。

(本当に不思議な人だなあ)

 桜華は微睡みながら、そういえば家にピザ置きっぱなしだったなと思い出したが、防腐魔法かかってるし大丈夫だろうと目を閉じた。


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