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四度目の世界

22.

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 むかしむかしのお話です。
 とある岬に降り立った男は美しい女に出会いました。
 一目惚れをしてしまった男はその女に声をかけた。

「私はアナタと結婚がしたい」

 出会ってすぐそれはないだろ、とも思わなくないが、昔の話なので仕方ない。

「私では申し上げられません。父よりお答えいたします」

 男はすぐに女の父親である神に遣いを出した。
 女の父親はたいそう喜んだそうだ。

「この子と共に、姉も一緒に結婚してくれ」

 そう言って、沢山の贈り物と一緒に男の元へと送り届けた。
 普通に考えれば、なんで?となる。
 でも昔の話なので仕方ない。
 男もそう思ったのだろう。しかも美しい女の姉というのは、とても醜かった。

「私はアナタとは結婚しない。帰ってくれ」

 父親の元へと送り返し、男は一目惚れをした女と結婚をした。
 返された姉はとても悲しんだ。父親は男に怒り、こう言い放った。
 そう、二人の娘を送ったのには意味があったのだ。

『姉は石のように硬い長寿を意味し、妹は花のように栄えることを意味します。妹だけを留めた天つ神の御子であるアナタの命は、木に咲く桜の花のよう儚いものとなりましょう」

 その言葉は不老不死であった神には、とてつもなく呪いに近い言葉となる。
 人間の寿命を持った原因ともいわれる出来事だ。

 そして問題はまたひとつ。

 好きな女と一緒になれた喜びも束の間、結婚をした二人は一夜を共にした翌朝、女から妊娠をしたと聞かされたのだ。

「この子は天つ神の子であるので、私ひとりで生むわけにはいかないので申し上げます」

「いくら私が天孫といえど、一夜を共にしたくらいで身篭るわけがない。その子は私の子ではなく、どこぞの国つ神の子であろう」

 疑われた女は泣きそうな顔で男を睨んで、こう言った。

「ならば産屋に火をつけて、その中で産みます。アナタの子であるならば、無事生まれてくることでしょう」

 そして女は燃える産屋の中で出産したという。
 女は無事に御子を三人生んだ。

 そんな昔の話があったことを天津が森の中で話してくれたことがある。
 日本神話のひとつ。

「この話の神様の名前なんだっけ」
『瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)です』
「神話系は残酷だったりするのが多いよね…でもその神様は後悔したかな?機械さんはどう思う?」
『私には…わかりません…』
「ですよねー。はあ、そろそろ寝ないと…明日は街に行かなきゃ…」

 桜華はそう言って目を瞑った。
 すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。
 天津は可視化して桜華の寝るベッドに腰掛けた。
 寝ると、この子は朝まで起きることは少ない。なので姿を現し、寝顔を眺めるのが日課となっていた。

 なぜこの話をしたのか自分でもわからない。
 呪われた記憶の一部でもある。

 そっと起こさないよう桜華の髪に触れる。

 この子を見ていると美しかった妻のことを思い出す。
 寿命を与えられた自分が何故生きているのかはわからない。
 寿命で妻がいなくなり、子供たちもいなくなる。その辛さで姿を隠して生きていくことを決め、人々を眺めて過ごしていた。

 ある日、疲れ切った女が歩いているのに目が留まった。
 妻と出会った時のような気持ちになった。

 ほんの気まぐれ。
 疲れ切った桜華を癒すため、眠っている時に姿を現し、桜華に触れて癒しの魔法を使う。
 ただそれだけで良かった。
 しかしそれも終わりが訪れる。
 突然、桜華は倒れた。

(どうか。どうか。この子を失いたくないのだ。もう愛する者を失いたくないのだ。だからどうか──)

 そう強く願う。
 願った祈りが届いたからなのかはわからないが、気付いた時には桜華は赤子になっていた。
 それからは桜華の成長を見守った。
 しかしそれは続かない。
 桜華は少女に階段から突き落とされ殺される。
 そしてまた再び失いたくないと願い、祈るのだ。

「なんで…生き返ってるの…」
『わかりません』
「!?」

 混乱する桜華が不憫で、声をかけてしまったのが始まりだ。
 この子を守るため、失わないように傍で見守ることにした。
 しかしそれは続かない。
 幼馴染の葵に殺されてしまう。
 これは自分の呪いのせいなのだろうか。わからない。
 桜華の死体を喜んで犯している葵に、涙を流して睨む。
 
(よくも。よくも。お前達を私は決して赦さない…)

 そして森の中。
 静かに暮らす桜華を見守り、この安泰が続けばいいのにと思っていた頃だった。

「この街にも王子とその一行がこの街に来て下さるってさあ」
「王子?」
「勇者様に魔法使い様まで」
「へえ。勇者ってことは、その人達は強いの?」
「あんた森に暮らしてるくらいだから田舎者だとは思ってたけど、勇者様たちのことも知らないの!?」

 道具屋のおばさんの驚いた表情に、酷い言われようだなと苦笑する桜華。

「北にいる魔族たちの王を討伐しに向かっているのよ。王様もなにも自分の息子に行かせなくても良いのにねえ…」

 王子の戦う姿は強く、敵をも魅了させてしまう程に美しいと、もっぱらの噂だ。
 勇者は肩に剣と盾と翼の大きな痣を持って生まれてくると言われている。
 その子供は強い力と魔力を持っているそうだ。

「素敵ですね」
「王子様も勇者様も、とーっても素敵な男って聞いたわよ。うちの旦那もそうだったら良かったのにねえ」
「聞こえてるぞ」
「あ、あはは…」

 嫁になりたい年頃の女たちが騒いでいると言っていたら、熊のように大きな体をしたおじさんが奥の部屋から出てきて、二人を交互に見てヤレヤレと大袈裟に溜息をついた。

「お前もオウカのように若い頃は可愛げがあったのによぉ」
「今は可愛くないって言うの!?」

 桜華は、また始まった…これ以上ここにいたら夫婦喧嘩に巻き込まれるので帰ることにした。

「リリーさん、ベリルさん、また来るね!」

 そう言って手を振りながら道具屋のドアを急いで出た。

「いいなあ。私も魔法が使えたらいいのに」

 何気なく言った呟きを聞き、桜華に魔法の力を与えた。
 日々の暮らしで使えそうな魔法を教えると、桜華はとても嬉しそうに笑って喜んだ。その笑顔を見ると、自分も嬉しかった。

「そう言えば強い人たちが来てるって言ってたな」

 ここ数日、街の人達は準備やらで、そわそわしていた。
 最近は桜華の作る香水がよく売れていた。
 リリーの話は冗談ではなく、狙ってる女たちが沢山いるんだなあと他人事のように思っていた。
 王子や勇者が来ているなら、しばらくは街に行かないで過ごそう。食べ物はあるし。

「どんな人達なのかなぁ…」

 人混みは苦手だが魔法が使えるという強い人達のことは気になるようだ。
 しかし平穏な日々だった今回もまた終わりを迎える。
 勇者が街にいると知った魔族側が攻めてきたのだ。
 街に向かう途中の森にある桜華の家が最初に襲われた。
 教えた魔法を使い、桜華は魔族を倒そうとしたが、魔族に囲まれて殺られてしまった。
 見守ることしか出来ない自分が悔しかった。

(どうか。どうか。この子が幸せになれるよう…)

 願い、祈ることしか出来ない自分の代わりに誰でもいい。桜華が笑顔でいてくれればそれでいい。

(すまない…桜華…)

 恐らく輪廻の呪いに巻き込んでしまったのは自分の気まぐれのせいだ。
 だから次もまたアナタが幸せになれるよう見守ろう。

 そうして四度目は会話をするようになり、桜華はなんもわからないはずだが自分に『天津』という名前まで付けて「あーくん」と呼んでくれる。
 ずっと見守ることしか出来なかったのに、会話ができるというのは、とても嬉しい。

 愛して失った妻に良く似た少女に恋をした神様の話だ。
 結ばれることはない。
 ただ、ただ、少女の幸せを願い祈るだけ。

 その物語の結末はどのようになるのかは誰にもわからない。


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