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四度目の世界

30.

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 目を開くと部屋の中は明るかった。
 重たい瞼を擦りながらスマホの時計を見れば午前十時を過ぎたばかりだった。
 付けっぱなしだったテレビの中では芸人達がわいわいと話を盛り上げていた。

「あーくん、テレビ消せる?」

 神様だと知ってしまっても、なんだかんだいつものように頼んでしまう。
 しかし、返事もなければテレビも消えない。

「? あーくん?」

 天津の返事がないことに寝惚けていた頭が一瞬で覚めた。
 もしかして昨日の魔法が失敗したのではないかと心配になる。焦ってたとはいえ、天津を止めるために魔法を使おうとしたのがいけなかったのだろうか。
 起き上がるとローテーブルの上にあったリモコンでテレビを消してからソファーに座って膝を抱えた。

(まだ寝てるってこと?)

 魅了を使おうと思ったけど使用方法がわからなかったし、恥ずかしすぎたので、睡眠をイメージして言葉に魔力を込めてみた。成功して天津が眠ったと思っていたのだけど…失敗した?

「永眠とかになったらどうしよう…!」
「あの程度では無理ですね」
「うわあああ!?」

 背後から声が聞こえて驚いて飛び上がった。
 振り返ると、不機嫌な表情を隠しもせず立っている天津がいた。どすんと桜華の隣に腰掛ける。
 着物姿ではなく、白いハイネックのシャツを着ている。

(この神様、昨日のことに不貞腐れて返事しなかったってこと?)

 心配したのに、と小さな声で呟く。

「心配してくれたのですか?」
「そりゃするよ」
「人の告白を遮っておいて?」
「なっ、そ、それは……返事もしてないのに、あーくんがあんなことするからじゃん」

 思い出してしまって顔を赤くさせ、それを隠すように片手で顔を覆い、軽く息を吐き出す。

「あーくんは…その、あ、あ、愛してる…って言ってくれたけど、神様だよ…?」
「わかってます」

 即答する天津に桜華は眉を顰める。

「ちゅー…したら、赤ちゃんできたりしないよね?」
「…ぷっ……ごほっ」

 機嫌が悪そうな天津だったが、一瞬だけ無表情になって吹き出す。それを誤魔化すように小さく咳払いをした。

「ねえ、あーくん。今、笑った?」
「いえ」
「笑ったよね?」
「何故そんなことを」
「話逸らしたな!?」

 頬をふくらませながら、ぷいっとそっぽを向く桜華に天津は笑うと、膨れた頬を指で突っついて押した。

「あまりにも可愛らしい発言でしたので」
「だって!話で…お嫁にきた妹さんは一晩で赤ちゃんができたって…言ってたじゃん!だからそれで…」
「ああ。それで…?まさか口付けしたくらいで子供ができるとは思ってませんよね?」
「私をなんだと思ってるの!?」

 驚愕する天津の様子に桜華は怒鳴った。
 この世界では未成年だが、一度は成人している。
 ふふっと笑う天津に、昨日魔法を使った仕返しをされてるのではないかと思ってしまう。
 頬をぷにぷに触れている手が、するりと頬を撫でてきて、桜華はびくりと反応してサッと離れた。

「アナタが望めば可能です」

 可能なの!?
 望みません!と思いながら、首を横にぶんぶんと振った。
 海外の神話とかもそうだけど、残酷なものやドロドロしたものが多かったりする。自分はあまり読んだことがないから詳しくはないけれど。天津の話はまだ良い方だ。出会って一目惚れしたからといって拉致して無理矢理に結婚して夫婦になったという話なんて沢山あった。

「私はダメだよ」

 天津の目を真っ直ぐ見て答える。そんな桜華を見て笑った。

「わかってます」

 苦しいほどに。
 桜華が自分の気持ちに応えてくれるとは最初から思ってはいなかった。ずっと見ていればわかる。
 最初からそうだった。だから今回は違うということに焦りを感じていた。

「あーくん、ありがとう」

 にっこりと笑う桜華の首筋に手を伸ばす。昨日、自分が噛み付いた場所が痣になっていた。

「痛いですか?」
「え?ううん、なんかなって…わっ!」
「桜華、治すのでこちらに」

 桜華の手を取ると自分の方へと引き寄せた。
 自分が付けたとはいえ痛々しい痣を見て苦笑する。

「あーくん?」
「噛み跡が沢山残ってます」
「ええ?そんなに?」

 どうなってるのだろうと気になるのか、ぺたぺたと首に触ったり服を捲り見ようとしている桜華に「じっとしてください」と伝えて回復魔法を使う。天津が触れてるところが温かい。

「ねえ、あーくん。こうやって魔法を使ってくれてたの?」

 はじめの世界から。
 じっと見つめてそう聞いてくる桜華と目が合う。
 見つめられているだけでまた乱暴で身勝手な感情が暴走をしてしまいそうになる気がして天津は視線をそらして頷いた。

「アナタが寝ている時に、こうして魔法を…すみません…」

 そのせいで桜華にも自身の呪いがと思うと胸が痛くなる。あの時、触れてはいけなかった。

「なんで謝るの?言ったじゃん。ずっと見守ってくれてありがとうって」

 きれいに治ったので手を離そうとしたら、その手をぎゅっと握られた。

「あーくんがいたから頑張れたんだよ?本当だよ?」

 二度目の世界も、三度目の世界も、天津とは会話らしい会話はしなかったけれど、どんだけ救われていたか。

「そんな風に言わないで」

 泣きそうな顔しないでよと、桜華が赤く潤んでいる天津の目元に優しく触れて微笑んだ。その笑顔に天津は堪らず桜華を抱き締める。

「愛とか恋とかわかんないけど」

 桜華は抱きついてきた天津の背中に腕を回して、ぽんぽんと優しく叩く。

「でも、あーくんのことは好きだよ。もうずっと一緒にいるし家族みたいなものじゃん」

 私のことを私以上に知ってるでしょ?いつもお母さんみたいに優しい愛情をくれているもの。

「それじゃあ…ダメ…?」

 身を離して、天津の顔を覗き込む。
 首を傾げながら聞いてくる桜華の頭を撫でた。

「傍にいてもよろしいのですか?」
「いてくれなきゃ困るよね」
「こうして触れても?」
「え?ま、まあいいけど、昨日みたいなのは嫌…」
「酷いことは、もう二度としません」

 額に口付けをしようと顔を近づけたら、桜華の手が伸びてきて口を塞ぐ。

「そういうのもだめ!」
「口付けで子供は出来ませんよ?」
「もお!それは忘れてよ!!」

 話を蒸し返さないでと怒る桜華に天津は笑った。

「あー、お腹空いた…なんか買いに行かなきゃ」
「今日はアルバイトの面接では?」
「午後からだから、時間までどんな所か店の近く散策しようかな」

 伸びをしてソファーから立ち上がった。

「あーくん、店までの道案内して」
「わかりました」

 天津がそう答えて姿を消す。
 桜華は着替えて出かける準備をしはじめた。


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