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四度目の世界
33.
しおりを挟む龍鵬と会うのは、泊まったあの日以来だ。
メッセージでは何度かやり取りはしていたが、やはり顔を合わすのは、まだ…いや、かなり恥ずかしい。
「元気か?」
「はい」
頷くと頭を撫でられた。
「暁、いつもの」
「アイスでいいですか?」
「ああ。あと最新の情報くれ」
「まだ更新されてませんが…?一応、持ってきます」
聖夜は透に指示を出して上の階へと向かって行き、透はカウンター内の奥の部屋へと行ってしまった。
残された桜華は、じっと龍鵬を見つめる。
何でこの店に来たのだろうとか、情報って何のことだろうとか、聞きたいことは沢山あるけれど、それを聞いてもいいのかわからない。
見られていることに気付いたのか、龍鵬は見ていたスマホをテーブルに置くと桜華に「どうした?」と聞いてくる。桜華は首を横に振った。
「何か暁から聞かされたか?」
「何かって?」
「いや…」
聞き返すけど、モゴモゴと答えにくそうに視線を彷徨わせる龍鵬。
『この西条龍鵬も回帰者なのでは?』
ですよねー。
天津が言うように龍鵬もそうなのかもしれない。
龍鵬の腕にある痣のことを思い出して苦笑した。
「ねえ、龍さん」
「なんだ?」
「ボーデン国って知ってます?」
答えないで黙ったまま桜華を見ている。
そこにアイスコーヒーを運んできた透が、龍鵬の前にコップを置いて、なんの話をしているの?と桜華に話しかけてくる。
「ボーデン国リヒトの街に王子様と勇者様が来ると街の皆が言っていたんです。そうだ、魔法使い様も。女の人たちはカッコイイ人達が来ると聞いて騒がしかったです」
「婚約者とかいなかったんだ?」
「そうですね。だから気に入られようと狙ってる女の人が多くて、香水や化粧品が飛ぶように売れてました」
「桜華ちゃん、作れるの?」
「材料さえ揃えられたら」
すごいね!と透が驚いている。
龍鵬は顔色ひとつ変えず、何も言わずに桜華を見つめて聞いている。
この反応じゃ、そうなのかわからないな。
「私は街から少し離れた森に住んでたんです」
「ひとりで森に?」
戻ってきたのか聖夜が尋ねてくるので頷いた。
手にしていた分厚いファイルを龍鵬の前にドサリと置いた。
「王子様たちは北にいる魔族たちを倒しに行く途中だったらしいです。街にも、たまに魔族が現れたりしてましたし」
「ゲームみたいだね」
「はい。でも私は…王子様たちを見ることはありませんでした」
龍鵬は顔を顰めて俯いた。
「王子様たちが立ち寄ると聞いた魔族たちが街を攻めてきたんです。街に向かう途中にあった私の家が最初に襲われました」
「街はどうなったの?」
「私も…知りません…。それが三度目の死です」
透は桜華の背中をぽんぽんと撫でた。
ありがとうございますとお礼を言って微笑む。
「勇者様の肩には、大きな痣を持って生まれてくると街の人に聞いたことがあります」
龍鵬の腕に手を伸ばして、そっと痣がある場所に触れる。
視線が合うが、すくに逸らされた。
「ねえ、龍さん。これがそうなんじゃないの?」
「知らねえな」
「私のものって言ったじゃん。教えてくれないの?」
「それは…」
透が二人ともそういう仲なの!?と騒いでいたのを聖夜が背後から捕まえて口を塞いで黙らせている。じたばた暴れてたけど、聖夜に抱っこをしてもらって大人しくなった。
「この店に情報を求めて来ている時点で、店長さんが話してた回帰者だって言っているものじゃん」
龍鵬は手を強く握りしめ、まだ話そうとしない様子で桜華はイラッとした。
「透さん、王子様と勇者様の噂話があるんです。聞きたいですか?」
「え?聞きたい!」
透は目を輝かせる。龍鵬と聖夜の二人は一体突然何を?というきょとんとした目で桜華を見ている。男の人はわからないかもしれないけれど、女の子はこう言った噂話は好きなんですよと桜華は心の中で言いながらニッコリと笑う。
「とある領主様がいて、その方には可愛らしいと有名なお嬢様がいました。訪れた彼らを案内しなさいと父親に任されて案内係を任されました」
「なっ…なんで…お前!なんでそれを知って…!!」
慌てて桜華の口を塞ごうと手を伸ばす龍鵬を聖夜が止めた。
「暁…!」
「私も聞いてみたいので邪魔しないでくださいね」
それをチラリと確認して話を続ける。
お嬢様はキラキラ綺麗な顔をした王子様に、ワイルドで男らしい勇者様に、ちょっぴり危ない感じがする魔法使い様の三人のイケメン達を他の女ではなく自分が案内できることに喜んでいたんです。
泊まる部屋へと案内をして、しばらくしてから街へ行こうと誘いに部屋に向かいました。
ノックをするも返事がなく、留守なのかと思ったお嬢様でしたが部屋の中から物音が聞こえてきて、王子様たちに何かあったのでは?と思ったお嬢様はドアを勢いよく開けました。
「部屋の中では何が起きてたと思いますか?」
「王子様たちが倒れてた?」
「おしいです」
「んー、じゃあ、女を連れ込んでたとか?」
「それだと王子様とか大問題じゃないですか…」
「そう?」
そんな展開はロマンス小説などで沢山あるよと透が言った。そういうのはあまり読んだことないなあと桜華が言えば、今度来る時にでも僕のを持ってきてあげると言うので頷いた。
「桜華、やめろ」
「なんで?龍さん知らないんでしょ?関係ないじゃん」
「……」
ドアを勢いよく開けたお嬢様が見たものは、なんとベッドの上に服をひん剥かれて上半身裸の勇者様の上に馬乗りになっている魔法使い様と、それを止めている王子様がいたそうです。
お嬢様は顔を真っ赤にさせて慌てて部屋を出ました。ドアの向こうから怒鳴り声が聞こえてきます。
修羅場を見てしまったのではないかと思ったお嬢様は、その後、勇者様に必死にあの状況のことを説明されるも、生暖かい目で三人のことを見つめ、彼らの事が頭から離れなくて、夜も眠ることができませんでした。
「彼らが去った後も眠れなかったお嬢様は、何日も寝ないでお話を書き上げたそうです」
「もしかして…」
「はい。この世界で言うBL小説ってやつですね…」
透が爆笑している。
「本は貴重なものでした。なので私は噂話で聞いただけでしたけど都市の方では流行ったそうですよ」
龍鵬のほうを向いたら、テーブルに突っ伏してブツブツと文句を呟いていたので、やっぱり本人なんじゃんと桜華は苦笑した。
「王子様は東さんなんでしょう?腐れ縁って言ってましたし」
「……」
「まだお話しますか?」
「ま、まだあるのかよ!」
ガバッと起き上がって、やめてくれという目で見てきてから、しまった…というように視線を逸らす。
「お腹空いてませんか?なにか作ってくるので食べていってください。ほら、西条さんも元気出して。透は手伝ってくださいね」
聖夜はポンと励ますように龍鵬の肩を叩いて、まだ笑っていた透を連れたままカウンター内に入っていった。
残された二人は沈黙し、ゆったりとした音楽が店の中に流れているだけ。
龍鵬はファイルの中身をパラパラと読んでいる。
桜華は書かれていることが気になり、横から覗いて見てみた。能力のことや、どんな世界があるのかとか、とにかく色々なことが書かれているようだ。
「勇者様の話を聞いて憧れてましたよ」
「憧れられるようなもんじゃない」
「どうして?」
「勝手に勇者と呼ばれて、挙句の果てには魔族どもを倒してこいと言われ、街のやつらを守れなかった」
そんな格好悪い勇者がいてたまるかよ。
そう話す龍鵬に、やはり桜華の死んだあと街は壊滅したんだなと悲しくなり俯いた。
「それでもです。勇者の龍さん、会ってみたかったなあ…」
そう呟いて、龍鵬の腕にコツンと額をあてて寄りかかった。複雑そうな表情を浮かべながら桜華の肩に腕を回して抱き寄せた。
「結局、あの噂話は本当だったんですか?」
「もうその話はいいだろ……」
「良くないですよ」
「あー…まあ、話の流れでキスマークなんてつけられたことねえって俺が話したら、アイツが…魔法使いがつけてやるって悪ふざけしはじめたときに、あの嬢さんが来ただけだ」
キスマークのおふざけでBLが爆誕したってなにそれ面白すぎでしょ。
くすくす笑う桜華にムッとして、腕を回していた手を、桜華の首にするりと指を滑らせて触れる。くすぐったくて首を竦めた。
「もう消えたか?あとでつけねぇとな」
そう耳に囁いてやると、あの時のことを思い出してしまったのか、顔と耳、首まで真っ赤にさせる桜華に笑った。
「揶揄うからだろ」
「素直にしゃべらない龍さんが悪い」
「悪かったよ」
額に口付けて謝る龍鵬の顔を見上げる。
「なんでも…話して欲しいです。龍さんのこと、知りたいもん」
ぐいっとネクタイを引っ張って顔を寄せると、ちゅっと可愛らしい小さなリップ音を鳴らして唇にキスをすると、照れているのか、サッと離れて桜華はイスに座り直した。
(くそ、なんでこの嬢さんは…)
店だから抱きしめてもっと触れたいという気持ちを、ぐぐっと我慢して深く息を吐き出した。
見てたのではないかというくらいタイミングよく、聖夜たちがサンドイッチを作って戻ってきたので、客がいないから四人で話をしながらそれを食べた。
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