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四度目の世界
36.
しおりを挟む親とはぐれて親を探し歩く子供の泣き叫ぶ声。あちこちで火事が起き、火を消すのに必死になる人々。街の広場にはモンスターの亡骸の山と、モンスターによって命を落とした者たちの亡骸が集められて並んでおり、残された者たちはその者に寄り添って涙を流し悲しむ姿があった。
地獄のような光景を目にして、ただ黙って歯を食いしばって叫びそうになるのを俺たちは耐えていた…─。
正午過ぎた遅い朝食を食べ終え、食器を洗っていた龍鵬の横に桜華は立ちながら言ってくる。
「私も手伝います」
桜華なら、間違いなくそう言うと思っていた。
何を?と、とぼけようかとも考えたが、ちらりと見た桜華の真剣な表情に誤魔化す気にもなれず、溜息をつきながら最後のコップを流し台の上に置いてから水をとめる龍鵬。タオルで手を拭いて桜華を見た。
「必要ない。そもそも魔法使いの顔もわからないだろうが」
「それはそうですけど…」
「俺たちの問題だ。お前を巻き込みたくない」
ありがとうな?と頭を撫でられ、桜華は不満そうな表情で龍鵬を睨んでいた。
「なんだよ」
「わからなくても手伝うんです!そう決めました!」
「なに子供みたいなことを…。危ねぇからダメだ」
「龍さんのケチ!」
「ケチってお前な…」
何がなんでも手伝ってやるんだという固い意思で拳を握って見つめてくる桜華。こんな様子じゃ何を言っても聞かないだろう。
「わかった、わかったから」
諦めて肩をポンポンと叩いて桜華をなだめる。
ソファーに連れて行って桜華を座らせると、自分の荷物からファイルケースを取り出し、それを桜華に渡す。その書類を見る桜華の横に座って、読んでる姿を見て深く息を吐き出した。
(なるべく関わらせたくないんだがな…)
そんな龍鵬の心配なんか気付きもせず、桜華は書類に書かれてることを覚えるために必死になって読んだ。
魔法使いは風属性の魔法を得意とする。
今現在は売人をしているのか、取引をした者たちを襲ったり、女の人を襲ったりしている危険人物のようなことが書かれている。
「こっわ…」
よくテレビで警察密着番組のモザイクの人みたいじゃないかと桜華は思った。
書類をまくり、二枚目に目を通して桜華は眉を寄せた。
「これ…リヒトの街…?龍さん、これ、この書かれてるやつ本当ですか…?」
「あぁ…」
魔法使いは魔物達と協力をしてリヒトの街を襲う手伝いをしたと書かれている。そして、リヒトの街で東も龍鵬も魔法使いによって殺されているようなことも書かれていた。
「仲間なのに裏切られたんですか?」
何も答えない龍鵬。
思わず書類を持つ手に力が入りそうになり、しわにならないよう一旦テーブルに書類を置いた。
「俺はダメだって言ったからな?」
「……」
じっと龍鵬の顔を見つめて龍鵬の手を握った。
守るはずだった街が魔物に襲われ、仲間だと信じていた者に裏切られ殺された。
この人は、この時、どんな願いをしたのだろう…。
どんな願いをして呪われたんだろう。
聞きたい。でも、そう簡単には聞けない。
「書類にこの人の名前が書かれてないですよ?」
「そういうのには名前は書かれないんだよ」
情報が漏れないように。そう答える龍鵬。
「ねえ、教えて」
リヒトの街を襲った人なら自分にも関係ある。探して、見つけなければならない。
(リリーさんたちを…龍さんと東さんを殺したヤツなんだ。絶対見つけてけちょんけちょんにしてやるんだから!)
この魔法使いは自分が何がなんでも見つけてやると燃えている桜華の肩に手を置いて、自分の方へと向かせて見つめる。
「桜華、教えてやるが…これだけは約束しろ」
本当は教えたくない。
しかし、桜華が楽しそうにリヒトの街で過ごした話を聞いてしまった後だ。桜華がどんな思いなのかも痛いほどわかる。
「たとえ見つけたとしても一人で突っ込むなよ」
俺か、しのぶに連絡を必ず入れろと龍鵬は言う。
二人でも勝てないほど強い人なのだろうか?
桜華は「はい」と頷いた。
「魔法使いは、葵という男だ」
「あお………え?葵?」
聞き間違いだろうか?
「ここでは北野葵という名前のようだ」
「葵が魔法使い?」
『あの者が?』
間違いない。自分が知っている葵で間違いなさそうだ。桃がいるからもしかしたらと思ってはいたけれど、桜華は驚いて口を押さえた。
何故か龍鵬も驚いている様子で、キョロキョロと辺りを見回す。
「なんだ今の」
「え?」
『北野葵がこの世界にいると?』
「うわ、なんだ…!?」
『一時的に西条龍鵬にも声が聞こえるようにしました。嫌ですが仕方ありません』
「あーくん!?」
天津の嫌そうな声。
どうやら龍鵬にも天津の声が聞こえているようで耳に手をやって驚いた表情で桜華を見つめていた。
「あーくんって、これが話してたやつか?」
「う、うん。天津って名前だよ」
『名前よりも北野葵のことを』
「に、人間みてぇだけど…本当に補助機能か?」
『アナタには関係ない』
「あーくん!?」
この攻撃的な態度は一体どうしたんだろう?
「っていうか、アイツを知ってるのか?」
「はい。一度目と二度目の幼馴染です」
「? 同じ場所に転移したってことか?」
「二度目は転移というより…死んだ一年前に戻ってました」
桜華の言葉に龍鵬は首を傾げた。
「過去に戻るなんて話は聞いたことないぞ」
「え?」
「呪われた魂は輪廻に囚われ、一生抜け出すことができない呪いと言われてるんだ。お前のそれは…違う気がするぞ…?」
言われてみれば、そうかもしれないと思った。
この世界の桃は一度目の世界のことしか知らない様子だった。
二度目では桃とは関わらないよう避けていたので出会いもしなかったけど、桃は一度目で葵に殺されている。しかし二度目の世界で二人は再び付き合っていた。殺された相手と付き合うかな…。
桃は一度目の世界で死んだら、この世界にいたと言っていたから二度目の世界の桃は違うということだ。
過去に戻ることがないのなら、あの二度目の世界はなんだったのだろうか…。
そもそも、二度目の世界で自分は葵に出会わない世界で生きたいと願ったはずだ。三度目の同じ世界にいたというのなら、その願いは叶ったことになるのか?会わなかったからセーフ?そんなバカな話あるの…?
(あれ?葵に会わない世界にいきたいと願ったから呪われた?)
いや、しかし神社に行って願ったわけでもなければ、葵を恨んだわけでもないから違うかな?
考えれば考えるほど訳がわからない。
桜華は考えるのをやめて、龍鵬の膝の上に頭を乗せて寝転がった。
「探す相手が葵なら、顔はわかるので手伝えます」
『危険すぎます。アナタはあの者に殺されている』
「は?殺され…?」
「あーくん!うるさい!」
ガバッと起き上がって天津に怒る。
本当、黙ってて欲しいと思った。今は龍鵬にも声が聞こえる状態だ。余計なことを言わないで。
「どういうことだ?」
ほらぁ!龍さんの眉間の皺がすごいことになってるじゃん!あーくんのバカ!!
慌てふためく桜華にお構いなしに天津は続ける。
『桜華の二度目の世界では北野葵に刺殺され死亡。先程の書類を確認しましたがネクロフィリアの可能性もあります』
「マジかよ…」
「ねく…?」
「お前は知らないでいい」
聞きなれない言葉に首を傾げて龍鵬を見つめれば、龍鵬は困ったように答えた。
その後も、どんどんと二人で話を進めていて、桜華は除け者にされているような気分になった。天津が話す内容にブツブツ言いながら書類に追加のメモを書き込んでいく龍鵬を眺める。
(葵も回帰者…)
こんなにも偶然が重なり合うわけがない。
全て何者かの力がそうさせている気がする。それが天津ではないのなら、天津が言っていた女神様の力?
(葵がいると思うだけでぞわぞわするなあ…)
腕をさすった。
ふと脳裏に思いがよぎる。
最近、似たような…ぞわぞわしたことがあったような気がする。いつだっただろう。
「……あっ!?」
突然立ち上がる桜華にびっくりする龍鵬。
思い出した!と龍鵬のほうを振り返った。
「どうした?」
「葵には兄がいました。年が離れててあまり話したことはなかったけど」
「兄…?」
「その人、隣の家の人だ」
どうりでぞわぞわするわけだ。雰囲気も女たらしなところも似てるじゃないか。
北野という時点で気づけば良かった…。
「葵のこと何か知ってるかもしれない」
あの人も回帰者なのだろうか?
管理人のおばさんが言っていたことを思い出す。
夜の仕事をしているのか、あまり家にはいないようなことを言っていた。遅い時間に毎日違うお姉さんを連れて帰宅して、この間のような騒ぎをよく起こす。
「夜、行ったら話が出来るかな?」
「なら、俺も一緒に行こう」
話を聞く限り、そんなヤツのもとに桜華ひとりで行かせるわけにはいかない。龍鵬は書類をまとめながらそう言った。
「お仕事…大丈夫そうですか?」
「たぶんな。呼び出されたらまた次の時だな」
「わかりました」
一度目の時も、二度目の時も、仲良さそうではなかった。すでに社会人として一人暮らしをしていたようで北野家にもおらず、あまり会った事がない。
なにか葵の情報が手に入ればいいのになあ…。
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