44 / 83
四度目の世界
43.
しおりを挟む「……」
「……」
「……」
無言で歩く二人に挟まれて、桜華は居心地が悪くてソワソワしていた。
(どうして何もしゃべらないの?)
左を見れば桃が恥ずかしそうに俯きながら歩いているし、右を見れば侑斗がつまらなさそうに歩いている。何を食べようかと、はしゃぎながら話している前を歩く花トリオが羨ましく思えた。
「来てくれるとは思わなかったから嬉しいよ」
桃に話しかけたら顔を顰められた。
ひどい…。
「別にお前のためじゃないわよ」
「うう、そんな風に言わなくても…」
「りんご飴のためなんだから!」
そういえば、『なんでお前と行かなきゃ行けないの?』と嫌がる桃をどうにかしようと『来てくれたら、桃が好きなりんご飴を奢ってあげるから!』と言って連れてきたんだった。
「えー岸田さんずるい。俺にも買ってくれないの?」
肩に顎を乗せてきて侑斗に話しかけられ桜華は驚いた。桃も飛び上がる。いや、飛び上がるほど…?
「やきそば?」
「たこ焼きも食べたい」
欲張りだなと思いながらも、歩きにくいよ…と侑斗を離れさせて、ちゃんと来てくれたお礼だし良いかと桜華は頷いた。
「エビせんに絵描くやつだって。楽しそうだね」
「あとで行ってみる?」
「いいね」
思っていたよりも大きい祭なのか、道路を通行止めにして神社までの道に屋台が沢山並んでいる。
「桃ちゃん、色々食べたいし、たこ焼きはんぶんこしようよ」
「なんでお前と」
「え?じゃあ侑斗くんとはんぶんこにする?」
「なっ…!」
何を言い出すんだと顔を真っ赤にさせて睨んでくる桃にニヤニヤ笑ってやった。
「別に俺はいいけど?」
「お、桜華とする!」
「そう?」
二人から少しズレて、いっぱい食べて?と桃が侑斗と話している姿を眺めながら満足そうに頷く桜華。
桃が嬉しそうだ。恋する乙女って可愛いなあ。
「あ、そういえば」
侑斗が思い出したように振り向いてきた。
「夜に西条さん達も来るって」
「え?来るの?」
「東さんの打ち合わせが終わったら合流するようなこと言ってたけど」
そんな事は聞いてない。
というよりは、昨日、あれからすぐ龍鵬は桜華に鍵を渡して桜丘の元へと戻っていってしまった。
業者の人が来て直すまで時間がかかるから、龍鵬の部屋を使えとのことだった。
驚く程に何事もなく黙って仕事に戻っていく龍鵬の姿を見て焦っていたのは東の方だった。
(あーくんのことは知っているはずだから大丈夫だろう)
桜華はそう思って仕事の途中て来てくれたお礼をして龍鵬を見送った。
眠そうな桜華に東は「業者が来るまで時間がかかりますので」と部屋に残るから先に龍鵬の家へと行くように言ってくる。疲労と睡魔で限界だった桜華は東の言葉に甘えて龍鵬の家へと向かうことにした。
天津が可視化を解除して姿が消え、声だけが聞こえてくる状態に不思議そうにしていた東。やはり天津みたいに声が聞こえるのは珍しいことなんだなと改めて感じた。
「久しぶりの龍さん家だ」
前の客室を使ってもいいものなのかわからず、とりあえずは龍鵬の帰りを待とうとリビングのソファーで座って、しばらく待っていたが戻る気配もなく、力尽きてソファーで寝てしまった。
朝起きると、龍鵬に運ばれたのか客室のふわふわの布団に寝かされていた。やはりこの布団のふっわふわ具合は気持ちいい。
起きて部屋を出て、龍鵬のことを探してみるが家にはもういないようだった。
よく見たらテーブルの上には朝ごはんとメモと鍵が置かれていた。
『また呼び出されたから先に出る。鍵は俺も持ってるから桜華用でいい』
ってことは返さなくていいってこと?
こ…これって合鍵というやつなのでは?!
桜華はポケットに入っている鍵を見つめて握りしめた。
もらっていいのか聞いてみたら答えてくれるかな?顔真っ赤にして照れたりするかもしれない。何それ見てみたい。
「お前の好きな人が来るの?」
耳元に小声で桃が尋ねてきた。
桃とは、龍鵬のこと、東のことはメッセージでやり取りして話したことがあった。
少し戸惑いながらもこくんと頷いた。
「どんな人?」
「侑斗くんがベタ惚れするくらいにカッコイイ人」
「なによそれ」
そんな睨まれても本当のことだから困る。
「んー。んんー…あ、ヤクザのゲームの主人公みたいな?黒いスーツにサングラス」
「怖い人じゃない!大丈夫なの?」
「怖くないよ」
むしろ優しい。とても優しくて温かい人。
桜華は大丈夫だよと笑った。
桃はなにか言いたそうにもごもごしていたけど、桃の腕に自分の腕を絡めて、少し前を歩く侑斗のほうへと引っ張っていくと並んで歩いた。
「ちょっ…」
「早く行って何か食べよ!侑斗くんも早く!」
ガシッと空いてる方で侑斗の腕も掴み、他の三人の元へと連れていく。
一の鳥居が見え、その先の二の鳥居まで露店が沢山並んでいるようだ。
皆が話しながら通り過ぎて行く中、桜華が鳥居のところで深くお辞儀をすると、桜華の横にいたすみれが不思議そうに見てきて、真似をするようにお辞儀をした。
「ちゃんとするんだね」
「おばあさんの影響かな」
一度目、二度目の世界の祖母は、とてもしっかりした人だった。毎朝散歩に行っては、通り道である神社でお参りしていた。家にも神棚や仏壇などもあって祖母は毎日お祈りをしていた。
そんな祖母が桜華は大好きで小さい頃から一緒に過ごしていた。
「参道は…この道ね、真ん中は歩いちゃダメだとか色々教えてもらったよ」
「え?ダメなの?夜とか混みすぎて気にしてられない気もするけど」
「そういう時は仕方ないかもね。普通にお参りに来た時とか。真ん中は神様の通り道だと言われてるんだって」
「へえ!そうなんだ!」
気をつけよう!と言いながら、すみれは道の端に寄ると露店を眺めながら歩く。
とても素直で人懐っこいすみれ。こんな可愛らしい子と友達になれたことが不思議だ。他の子達もそうだ。自分が友達とお祭りに出かけているだなんて信じられない。
「桜華ちゃん、これあげる」
「いいの?」
「じゃんけん勝ったの」
「すごいね!ありがとう」
桔梗がチョコバナナを渡してくる。よく見ると椿とすみれも持っている。じゃんけんに勝って五個もらえたようだ。残りは桃に渡していた。
「え?俺のは?」
「ないよ?」
「ひどくない!?」
当たり前でしょうというような表情で言ってのける桔梗に侑斗が吠えた。
しばらく言い合いをしていたのだけど、他の三人はそれを無視して、食べたり、眺めたり、それぞれ楽しんでいるようだ。その様子に桜華は苦笑した。
「あいつらひどい」
「もう少し先にたこ焼きあるよ?買ってあげるから」
不貞腐れて頬を膨らましながら桜華の横に来る。
なにそれ可愛い。
少し歩いたところにタコのマークが書いてあるのが見えたので指差して侑斗に言うが、桜華をじっと見つめるだけでなんの反応もない。
どうしたの?と聞こうとしたところで、侑斗はチョコバナナを持つ桜華の手を掴んできたので驚いてビクッとした。
「それ少し頂戴」
「え?」
にっこり笑顔で言ってくる。食べかけだよと言う暇もなく、がぶっと大きい一口で半分ほど食べられた。
「ぜ…全然少しじゃないよ…!?」
「ふほへふほへ」
もごもごと満足そうな様子に桜華は溜息をついて残ったチョコバナナを食べると棒をゴミ箱に捨てた。
ふと視線を感じて横を見ると、信じられないものを見たかのような目の桃と目が合った。
「どうしたの?」
「お、お前…その…間接キスとか、気にしないの?」
「え?」
間接キス?
ああ、チョコバナナのことを言っているのか。
「んー、あんま気にしたことないかな」
葵もよくこうして人が食べていたものを横取りしてきたりもしたし、自分もしていた。ちゃんと思い出せず記憶が曖昧だが幼い頃は侑斗ともそうだったようだ。
「そうか。ごめん、桃ちゃんの好きな人とこんなのしてるの見たくないよね」
「謝って欲しいわけじゃないわ。ただお前も女の子なんだから、もっと…」
ぶつぶつと桃が色々と言ってくるのを、女の子はそういうことを気にするんだなあと桜華は大人しく聞いた。
たこ焼き屋の前まで進んだので、ふたつほど買って、ひとつ侑斗に渡した。残りは女子みんなで分けて食べた。
侑斗は自分だけ仲間はずれだと不満そうだったけど、こうして食べるのも楽しいと桜華が笑うと、仕方ないなという感じで頭を撫でられた。
侑斗の眼差しが何だか優しくて、桜華はその眼差しが自分ではなく桃へと向けられれば良いのにと思った。
10
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる