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四度目の世界

43.

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「……」
「……」
「……」

 無言で歩く二人に挟まれて、桜華は居心地が悪くてソワソワしていた。

(どうして何もしゃべらないの?)

 左を見れば桃が恥ずかしそうに俯きながら歩いているし、右を見れば侑斗がつまらなさそうに歩いている。何を食べようかと、はしゃぎながら話している前を歩く花トリオが羨ましく思えた。

「来てくれるとは思わなかったから嬉しいよ」

 桃に話しかけたら顔を顰められた。
 ひどい…。

「別にお前のためじゃないわよ」
「うう、そんな風に言わなくても…」
「りんご飴のためなんだから!」

 そういえば、『なんでお前と行かなきゃ行けないの?』と嫌がる桃をどうにかしようと『来てくれたら、桃が好きなりんご飴を奢ってあげるから!』と言って連れてきたんだった。

「えー岸田さんずるい。俺にも買ってくれないの?」

 肩に顎を乗せてきて侑斗に話しかけられ桜華は驚いた。桃も飛び上がる。いや、飛び上がるほど…?

「やきそば?」
「たこ焼きも食べたい」

 欲張りだなと思いながらも、歩きにくいよ…と侑斗を離れさせて、ちゃんと来てくれたお礼だし良いかと桜華は頷いた。

「エビせんに絵描くやつだって。楽しそうだね」
「あとで行ってみる?」
「いいね」

 思っていたよりも大きい祭なのか、道路を通行止めにして神社までの道に屋台が沢山並んでいる。

「桃ちゃん、色々食べたいし、たこ焼きはんぶんこしようよ」
「なんでお前と」
「え?じゃあ侑斗くんとはんぶんこにする?」
「なっ…!」

 何を言い出すんだと顔を真っ赤にさせて睨んでくる桃にニヤニヤ笑ってやった。

「別に俺はいいけど?」
「お、桜華とする!」
「そう?」

 二人から少しズレて、いっぱい食べて?と桃が侑斗と話している姿を眺めながら満足そうに頷く桜華。
 桃が嬉しそうだ。恋する乙女って可愛いなあ。

「あ、そういえば」

 侑斗が思い出したように振り向いてきた。

「夜に西条さん達も来るって」
「え?来るの?」
「東さんの打ち合わせが終わったら合流するようなこと言ってたけど」

 そんな事は聞いてない。
 というよりは、昨日、あれからすぐ龍鵬は桜華に鍵を渡して桜丘の元へと戻っていってしまった。
 業者の人が来て直すまで時間がかかるから、龍鵬の部屋を使えとのことだった。
 驚く程に何事もなく黙って仕事に戻っていく龍鵬の姿を見て焦っていたのは東の方だった。

(あーくんのことは知っているはずだから大丈夫だろう)

 桜華はそう思って仕事の途中て来てくれたお礼をして龍鵬を見送った。
 眠そうな桜華に東は「業者が来るまで時間がかかりますので」と部屋に残るから先に龍鵬の家へと行くように言ってくる。疲労と睡魔で限界だった桜華は東の言葉に甘えて龍鵬の家へと向かうことにした。
 天津が可視化を解除して姿が消え、声だけが聞こえてくる状態に不思議そうにしていた東。やはり天津みたいに声が聞こえるのは珍しいことなんだなと改めて感じた。
 
「久しぶりの龍さん家だ」

 前の客室を使ってもいいものなのかわからず、とりあえずは龍鵬の帰りを待とうとリビングのソファーで座って、しばらく待っていたが戻る気配もなく、力尽きてソファーで寝てしまった。
 朝起きると、龍鵬に運ばれたのか客室のふわふわの布団に寝かされていた。やはりこの布団のふっわふわ具合は気持ちいい。
 起きて部屋を出て、龍鵬のことを探してみるが家にはもういないようだった。
 よく見たらテーブルの上には朝ごはんとメモと鍵が置かれていた。

『また呼び出されたから先に出る。鍵は俺も持ってるから桜華用でいい』

 ってことは返さなくていいってこと?
 こ…これって合鍵というやつなのでは?!

 桜華はポケットに入っている鍵を見つめて握りしめた。
 もらっていいのか聞いてみたら答えてくれるかな?顔真っ赤にして照れたりするかもしれない。何それ見てみたい。

「お前の好きな人が来るの?」

 耳元に小声で桃が尋ねてきた。
 桃とは、龍鵬のこと、東のことはメッセージでやり取りして話したことがあった。
 少し戸惑いながらもこくんと頷いた。

「どんな人?」
「侑斗くんがベタ惚れするくらいにカッコイイ人」
「なによそれ」

 そんな睨まれても本当のことだから困る。

「んー。んんー…あ、ヤクザのゲームの主人公みたいな?黒いスーツにサングラス」
「怖い人じゃない!大丈夫なの?」
「怖くないよ」

 むしろ優しい。とても優しくて温かい人。
 桜華は大丈夫だよと笑った。
 桃はなにか言いたそうにもごもごしていたけど、桃の腕に自分の腕を絡めて、少し前を歩く侑斗のほうへと引っ張っていくと並んで歩いた。

「ちょっ…」
「早く行って何か食べよ!侑斗くんも早く!」

 ガシッと空いてる方で侑斗の腕も掴み、他の三人の元へと連れていく。


 一の鳥居が見え、その先の二の鳥居まで露店が沢山並んでいるようだ。
 皆が話しながら通り過ぎて行く中、桜華が鳥居のところで深くお辞儀をすると、桜華の横にいたすみれが不思議そうに見てきて、真似をするようにお辞儀をした。

「ちゃんとするんだね」
「おばあさんの影響かな」

 一度目、二度目の世界の祖母は、とてもしっかりした人だった。毎朝散歩に行っては、通り道である神社でお参りしていた。家にも神棚や仏壇などもあって祖母は毎日お祈りをしていた。
 そんな祖母が桜華は大好きで小さい頃から一緒に過ごしていた。

「参道は…この道ね、真ん中は歩いちゃダメだとか色々教えてもらったよ」
「え?ダメなの?夜とか混みすぎて気にしてられない気もするけど」
「そういう時は仕方ないかもね。普通にお参りに来た時とか。真ん中は神様の通り道だと言われてるんだって」
「へえ!そうなんだ!」

 気をつけよう!と言いながら、すみれは道の端に寄ると露店を眺めながら歩く。
 とても素直で人懐っこいすみれ。こんな可愛らしい子と友達になれたことが不思議だ。他の子達もそうだ。自分が友達とお祭りに出かけているだなんて信じられない。

「桜華ちゃん、これあげる」
「いいの?」
「じゃんけん勝ったの」
「すごいね!ありがとう」

 桔梗がチョコバナナを渡してくる。よく見ると椿とすみれも持っている。じゃんけんに勝って五個もらえたようだ。残りは桃に渡していた。

「え?俺のは?」
「ないよ?」
「ひどくない!?」

 当たり前でしょうというような表情で言ってのける桔梗に侑斗が吠えた。
 しばらく言い合いをしていたのだけど、他の三人はそれを無視して、食べたり、眺めたり、それぞれ楽しんでいるようだ。その様子に桜華は苦笑した。

「あいつらひどい」
「もう少し先にたこ焼きあるよ?買ってあげるから」

 不貞腐れて頬を膨らましながら桜華の横に来る。
 なにそれ可愛い。
 少し歩いたところにタコのマークが書いてあるのが見えたので指差して侑斗に言うが、桜華をじっと見つめるだけでなんの反応もない。
 どうしたの?と聞こうとしたところで、侑斗はチョコバナナを持つ桜華の手を掴んできたので驚いてビクッとした。

「それ少し頂戴」
「え?」

 にっこり笑顔で言ってくる。食べかけだよと言う暇もなく、がぶっと大きい一口で半分ほど食べられた。

「ぜ…全然少しじゃないよ…!?」
「ふほへふほへ」

 もごもごと満足そうな様子に桜華は溜息をついて残ったチョコバナナを食べると棒をゴミ箱に捨てた。
 ふと視線を感じて横を見ると、信じられないものを見たかのような目の桃と目が合った。

「どうしたの?」
「お、お前…その…間接キスとか、気にしないの?」
「え?」

 間接キス?
 ああ、チョコバナナのことを言っているのか。

「んー、あんま気にしたことないかな」

 葵もよくこうして人が食べていたものを横取りしてきたりもしたし、自分もしていた。ちゃんと思い出せず記憶が曖昧だが幼い頃は侑斗ともそうだったようだ。

「そうか。ごめん、桃ちゃんの好きな人とこんなのしてるの見たくないよね」
「謝って欲しいわけじゃないわ。ただお前も女の子なんだから、もっと…」

 ぶつぶつと桃が色々と言ってくるのを、女の子はそういうことを気にするんだなあと桜華は大人しく聞いた。
 たこ焼き屋の前まで進んだので、ふたつほど買って、ひとつ侑斗に渡した。残りは女子みんなで分けて食べた。
 侑斗は自分だけ仲間はずれだと不満そうだったけど、こうして食べるのも楽しいと桜華が笑うと、仕方ないなという感じで頭を撫でられた。
 侑斗の眼差しが何だか優しくて、桜華はその眼差しが自分ではなく桃へと向けられれば良いのにと思った。

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