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四度目の世界

62.

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 桃の葬儀も無事終わり、桜丘も退院して仕事に戻っているのか、桜華のバイト中に、たまに聖夜の店でサボる姿を見かける。いつもと変わらない日常が戻った。
 前回と同様、不思議な事件なので多くのメディアで騒がれているが、事件進展があるわけでもないので徐々に落ち着いてきているようだった。

「桜華、頭ぶつけないように登ってきて」
「うん」

 今日は侑斗の祖母の家へと遊びに来ている。
 以前、約束したお泊まり会をしたいと連絡が来たのだ。少し話しただけたったのに覚えていたのかと驚いた。
 古びたハシゴが、ミシッと登るたびに音が鳴るので、自分の重さで壊れてしまわないだろうかとヒヤヒヤしながら登る。

「うわぁ…」

 登りきった屋根裏部屋を見て、桜華は感嘆の声を漏らした。
 店の二階よりも、本の量がすごいのもあるけれど、窓際に可愛らしい布が天蓋のように吊るされていて、その下にはマットやクッションなども置かれている。

「すごいね、可愛い」
「話してたやつ全部用意したんだ」

 桜華が泊まりに来ると話したら、おばあちゃんや母たちがお菓子や食べ物を沢山用意してくれたんだと頬を膨らましながら話してくる侑斗。

「俺にじゃなくて桜華にだって。ひどくない?」
「あ、あはは…」

 七海と侑斗も相変わらずなんだなと苦笑した。
 それにしてもすごい量だ。桜華も持ってきたので、二人じゃ食べきれないだろう。

「下に昼ご飯もあるからお腹空いたら言ってね」
「ありがとう。お世話になります」
「うん。いらっしゃい、桜華。ゆっくり過ごして。読みたいのあったら読んでいいから」
「わかった」

 何冊か本を選ぶと壁に寄りかかるように座っている侑斗の隣へと桜華も座る。
 この場所は初めてだと感じないのは記憶が抜けているからだろうか。とても落ち着いた空間で桜華は気に入った。
 しばらくは何も話さずに本を読んでいた二人だけど、ふと隣から視線を感じた。いつの間にか本をめくる音がとまり、少しの間は知らないフリをして本を読んでいたけど、ずっと見られているようだった。これはとても落ち着かない…。

「……読まないの?」

 そのまま本を見ながら侑斗に話しかけてみる。

「いま忙しい」
「え?なんで?」
「桜華を見てるから?」
「っ…なんで?」
「桜華と一緒に、この部屋で過ごすのいつぶりかなって」

 また過ごせて嬉しいんだ。そう言った侑斗。
 よくそんなことを言えるなと思いながら、チラリと侑斗を見たら、甘く蕩けそうな笑みを浮かべていて、桜華は真っ赤になりながら顔を思い切り逸らした。
 いくら嬉しいからって、そのイケメンの微笑みは破壊力やばすぎでしょ。

「む…昔も、来てた?」
「うん、よく来てたよ」
「そうなんだ」
「本読んでるうちに、桜華は寝ちゃってたけどね」

 記憶がない自分も、よく寝る子だったようだ。
 桜華は苦笑した。

「思い出せたらいいのにね」

 ぷにっと人差し指で頬をつつかれた。
 侑斗は笑っているけど、どこか寂しそうな表情をしていて、ズキリと胸が痛む。

「侑斗くんが、じゃがいも沢山食べたら思い出せる気がする」
「なにそれ。普通は逆でしょ。桜華がブロッコリー食べたら思い出すんじゃない?」
「やだ」

 食べたくないと、うげーっと舌を出して首を振ったら笑われた。

「ねえ、桜華」
「なに?」

 名前を呼ばれたけど、じっと笑顔で桜華を見つめるだけで何も言われない。首を傾げて桜華も侑斗を見つめる。

『警戒してください』
「え?」

 いきなり天津の声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には自分よりも大きいだろう侑斗の手のひらで目を覆われた。

「わ、なにっ」
「しーっ…」

 驚いて声を上げたが、「静かに」という侑斗の声が耳元で聞こえて、思ったよりも距離が近くて、驚いて首を竦める。

「大丈夫だよ。思い出せるから」

 ぶわりと冷たい魔力を感じたと思ったら、意識が遠のく。
 またこのパターンじゃないか。最近これ多くない?

 力なく倒れてくる桜華を抱きとめると、膝に頭を乗せて寝かせてやる。周りを見回し、近くにあったブランケットに手を伸ばして取ると広げて桜華にかけてあげた。

「大丈夫」

 眠っているのを確認してから頬を撫でて、ゆっくり自分も目を閉じた。

「………」

 ぱちりと目を開くと、制服を着ていた。また前回と同じで誰もいない学校の廊下に立っている。
 桜華は手をひろげたり握ったりと動かして頷いた。

「また中学校ここか」

 何故、侑斗が透みたいなことができるのかわからないけど、天津の声が聞こえたということは、たぶん侑斗に似たような魔法を使われたのかもしれない。

「あーくん、聞こえる?」

 しん、と静かな廊下に声が響くだけ。
 天津の返事がない。どうやらいないようだ。
 じっとしてても何も起こらなそうだし、桜華は適当に歩いてみることにした。チラッと扉が開いてる教室を覗けば、黒板に書いてある日付は11月14日。

「この前の夢は11日だったのに」

 教室の中は机が奥の方に積み上げられていて、空いてるスペースで何かを作っているのか、ダンボールやらハサミやペンなど文房具が散乱している。

「ああ、やっぱり文化祭の準備だ」

 中学の秋のイベントといえば体育祭に文化祭だった。懐かしいなあと感じながら、それぞれの教室を覗きながら歩いていく。
 書道や絵が飾られた教室もあれば、おばけやしきに、ボールを投げてペットボトルを倒すやつ、ダンボールで作られたものをピカピカの電球で飾り付けて映えスポットなども設置されている。定番なものや、それなりに工夫して作られているものもあり面白い。
 桜華は階段を上がり、その階の突き当たりにある図書室のドアの前で立ち止まった。

(ここかな)

 なんとなく足が向かったのは図書室だった。
 ガラリとドアを開いて中へと進む。
 近くに大きな図書館があるから、みんなはそちらに行ってしまうため、使用する人が少ない図書室。しかし、人が少ないし、新しい本なども置かれているので、桜華はよく放課後に来ることが多かった。

「侑斗くん」

 図書室の一番奥の棚の前に置いてある脚立に浅く腰をかけて本を読んでいる侑斗がいた。
 声をかけると、本から視線をあげて桜華を見る。

「桜華も読みに来たの?」
「うん」

 自分の特等席。
 一度目の世界には侑斗はいなかったはずだ。なのに、どうして自分のお気に入りの特等席に彼はいるのだろうか。

「何を読んでるの?」

 横に移動して、侑斗が倒れない程度に軽く寄りかかり本を覗き込む。すると侑斗は素早く本を閉じて桜華がいないほうへと隠した。

「ちょっと桜華には早いかな」
「どゆこと?」
「秘密ってこと?」
「なにそれ。気になるじゃん!」

 思春期真っ只中だし、もしかして、えっちなやつでも読んでたのだろうか?こんなイケメンが??
 じとっとした目で侑斗を見つめる。
 どんなの読んでるのか気になってしまい、手を伸ばして奪おうとするが、また避けられたので本には届かなかった。

「なんで隠すの?侑斗くんのむっつりスケベ」
「むっつ……桜華、何言ってんの?そんなんじゃないよ?」
「なら見せてくれてもいいじゃん」
「だめ。秘密ったら秘密」

 腕をあげられたら侑斗は脚立に座ってるので桜華が背伸びをしても届かない。ガシッと侑斗の肩を掴み、脚立の一段目に足をかけて思い切り手を伸ばした。

「わ、桜華」

 危ないよ、と侑斗が慌てて桜華の背中に手を回して支えてくれた。おかげでバランスを崩さず倒れることもなかったのだけど、肝心な本を入手できていない。

「もー!見せ…」

 足を床に戻し、文句を言おうと侑斗の顔を見上げようとしたら、息がかかるほど近くに侑斗の顔があった。思わず後退りしようとしたが、侑斗の手が背中を支えていたため身動きが取れない。
 身を硬くする桜華に、くすっと笑った侑斗は更に距離を縮めて、ふんわり優しく抱きしめて桜華の肩に自身の頭を乗せた。

「桜華。もう素敵な恋はした?」
「え?こ、恋?」

 突然そう言われて戸惑う。

「引越ししてさ、あれから会わなくなっちゃったけど。大人になって、色んな人と出会って、王子様みたいな恋人見つけるんだって言ってたじゃん。見つけた?」

 王子様みたいな恋人?なにそれ?
 幼かった自分はそんな事を言っていたの??

「久しぶりに桜華のお母さんに会ったら、桜華が過労死とか聞かされてさ。びっくりしたんだよ。勉強とかに夢中になって過労死したとか?」

 過労死?
 がばりと勢いよく侑斗から離れて顔を顰めて見つめる。いきなり動く桜華に驚いたのか侑斗も見つめてきて首を傾げた。

「桜華?」

 侑斗が何を言っているのかわからなかった。
 いつものあのキラキラした笑顔で覗き込まれて顔が赤くなるのを感じる。

「恋愛、まだならさ…その、いっその事、俺でもいいんじゃない?ここでは幼馴染の関係は取られちゃったみたいだけど。恋人はまだいないでしょ?」
「なにを…」
「あ!もしかしてあの幼馴染ともう付き合ってるとか?」
「ま、まって。違う。違うよ。葵とはそんなんじゃない」
「いつも一緒に帰ってるし…っむぐ」

 気になることがありすぎて、話を進めていってしまう侑斗についていけなくて混乱した。
 待ってと言いながら桜華は両手をあてて侑斗の口を塞いだ。
 もごもごしてるけど、悪いと思いながらも手に力を込めた。

 お願いだから少し黙ってて!

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