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四度目の世界

64.

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 虫食い状態である失われた部分の記憶を侑斗と一緒に中学生の桜華を追いかけながら辿っている。
 確かにそれは、そういえばこんな事があったかも?と懐かしく感じて、失った部分の記憶を取り戻しているのだとわかる。そしてその記憶は、どれもこれも侑斗が関わったものばかりだった。
 侑斗の話題が出たものは全然覚えていない。

『触れたファイルはどうなるの?』

 帰宅途中の中学生の桜華の後を追いながら侑斗に話しかけた。

『こうして読み取ることができるかな』
『他は?』
『他?わかりやすく言えば消したり修正したり?』
『!?』

 天津は記憶の部分には触れることが出来ないと言っていたはずだ。いじる魔法やスキルはないと思っていたのに、侑斗はそれが出来てしまう。それはすごいことなのでは…?

『それって』
「桜華だ。帰るの?」
「あ、侑斗くん」

 言いかけたところで、商業施設から出てきた中学生の侑斗に声をかけられて遮られる。声がする方に視線をやれば、手を振りながら近寄ってきている。

「買い物?」
「うん。ノートなくなったからね」
「そっか。じゃあまた…」
「待って、待って。ねえ桜華…」

 また明日!と帰ろうとする気まずそうな桜華の肩を引っ掴んで、侑斗はものすごい笑顔で桜華の名前を呼ぶ。

「な、なに?」
「どうせ帰るだけなら暇でしょ?ほら、放課後デートのチャンスだよ?」
「チャンスって…」
「言ったでしょ。あー、なに逃げようとしてんのさ」

 逃げようとしたら、侑斗が肩に腕を回してきてガッシリと捕まった。なにこの笑顔なのに怖いのは。

「どこ行くー?この辺りって何かあるかな?」
「ちょっと、まだ遊ぶって言ってないっ」

 ずりずりと引きずられて連れていかれる二人を見ながら桜華は指を差してチラリと侑斗を見た。

『うぇぇ…?強引すぎない……?』
『えー?そんなことないよ?』
『そんなことあると思う』
『あんな風にしないと誰かさんが恥ずかしがって逃げちゃうからね?』

 普通に繋いでいた手を、するりと指を絡めて強く握り直す。コイビトツナギってやつじゃん…?
 照れながら、ぶんぶんと手を振り回す。

『もー。暴れないで。次に行くよ?』

 また目を反対側の手で覆われた。侑斗の魔力は冷たい。天津の魔力は温かく感じたから、人によって違うものなのだろうか?

『………』
『………』

 ひたすら着いていく。
 登下校一緒にしたり、放課後デートしたり、文化祭準備がある日は一緒に作業したり。ほぼ侑斗に連れ回されている感が強いが、なんだかんだ二人は仲が良く、クラスの皆にも付き合い出したとバレてからは侑斗が隠そうともせずにくっついて過ごすものだから生暖かい目で見守られている。ひとりを除いて。

『うわ、すっごい睨まれてたんだね』

 気付かなかったよ。そう葵を見つめながら侑斗は言った。首を傾げながら桜華も視線をやると、葵が侑斗のことを睨んでいた。
 当時は、いつもの女の子避けが出来ないから葵の機嫌が悪いと思っていたけど、侑斗のことが気に入らなかったのか…。

『あー…その、ここからは…しんどいかもしれないよ』

 心配そうな表情で見つめてくる。
 本当に思い出させても良いのだろうかと、瞳が不安と迷いで揺れている。
 そんな侑斗の目をしっかりと見つめて桜華は強く頷いた。

『何を見たとしても、これは過去だから。ちゃんと、大丈夫だから…』

 まるで自分に言い聞かせてるような言葉。
 そっと手で目を塞がれた。その手は微かに震えている。

『侑斗くんがいるから平気だよ』

 そう言って震える手に繋いでいない方の自分の手を重ねた。
 魔力を感じ、手が離される。
 目を開くと教室ではなく中庭の広場に立っていた。
 人が沢山いる。

『文化祭の日?』
『そうだね』

 どこを見ても学校全体が賑わっている。
 そんな中、桜華と侑斗は二人でクラスの出し物の休憩時間中に他のクラスのものを見て回っているようだった。

「それ少し頂戴?」
「そう言っていっぱい食べちゃうじゃん」
「一口、一口」

 にっこり笑顔で言ってくる。
 返事を待たずに、侑斗は桜華が食べていたチョコバナナを持つ手を掴んで、がぶりと大きな口で一口食べた。

「あー!半分も食べてるじゃん!!」
「ひふぐぬ、ひふぐぬ」
「全然一口じゃないよ!もう…食べながら話さないの」

 もごもごとしゃべる侑斗の口にチョコがついてるのを見て、桜華は頬を膨らましながらもハンカチを取り出して侑斗の口を拭ってやった。

『なんか…デジャブ…』
『あ、あははは…』

 神社の祭の時と同じことをしているじゃん。
 ジト目で見れば、そっぽを向かれ笑ってごまかされた。
 しばらく着いていくと、やはり侑斗は食べ物系のクラスを制覇するんではないかというくらい食べ歩いている。あれだけよく食べるのに、なんで太らないのか不思議だ。

「南!さっき教室で誰かが探してたぞ」

二階の窓から男の子が身を乗り出して叫ぶ。

「え?誰だろう…?んー、教室行くけど桜華どうする?」
「疲れたし、ここで座ってる」
「わかった、いってくるね。戻ったら体育館のほうに行こう!」
「うん。行ってらっしゃい」

 手を振って走り去っていく侑斗。
 体育館のほうは演奏やダンスなどがやっているはずだ。ちょっと楽しみだった桜華は、早く戻ってこないかなと待っていた。

『侑斗くんのほうに着いていくの?』
『うん』

 緊張しているのか声がかすれている。
 教室でなにかあったのだろうか?
 記憶を取り戻せているのだから思い出すことも出来るのではないかと思ったけど何も思い出せない。その場面を見なければ思い出せないものなのか…。

「あ、南くん!」

 同じクラスの女の子。侑斗を見つけて手をあげながら「待って」と駆け足で近寄ってくる。

「なに?」
「今、休憩時間でしょ?一緒に回らない?」
「なんで?」
「な、なんでって…その…」

 ぱっと顔を赤く染め俯いた女の子に、わざとらしく侑斗は溜息をついた。女の子の肩がビクッと震える。

(わざわざ走ってくる用事でもなかったか)

 中庭に桜華を待たせてるから早く戻らないとなあ。こんなのだとわかってれば来なかったのに…。

「悪いけど桜華と回ってるから無理。言わなくても知ってるでしょ?」

 ただでさえ前のように幼馴染という関係ではなくなって、転校生という形で桜華に近づき、強引ではあったが彼氏になって一緒に過ごせるようにした。したのだが、このような事が発生したりする。

「でも…」

 イベントの日くらい、少しでも好きな人と一緒に過ごしたいと思うのは学生らしい可愛らしい行動ってことだろうか。

「俺は一途だからね。いくら誘われても桜華がいるから無理。他の子を誘ってあげなよ」

 可愛いんだから俺にはもったいないよ。
 そう肩をぽんぽんと叩いて、走ってきた廊下を戻っていく。

『……』

 桜華は信じられないという目で侑斗を見た。

『……いや、桜華。その目はなに?』
『あれ以上、惚れさせてどうするのかと思って』

 この人も魅了持ちなのではないかと思えるくらいには気障ったらしい。

『別にあの子のこと傷つけたいわけじゃないし。言ったことは本当のことだし?前に話してたじゃん、好きでもない子からの好意は迷惑でしかないんだよ』

 堂々と彼女がいますと言っても付き纏ってくる子もいる。それならまだ自分が対応すればいいけれど、山下のように自分が彼女だと言い始めたり、桜華を呼び出し、傷付けようとしたりする女子もいる。

『モテる人は大変だね…』
『桜華も人のこと言えないからね?』
『???』

 人の好意などに鈍感な桜華は気付いていなかったのだろう。自分もモテる側だということに…──。

(相手が気の毒ではあったな)

 一緒に過ごした学生の頃、桜華に片思いしてる男子が何人もいたのは知っていた。邪魔してやろうかと思ったこともあったが、そんな心配をしなくとも、無知というのは時に恐ろしいもので、気付かぬうちに相手のその淡い恋心をズタズタにする桜華の言動ときたら…ひどいものだった。密かに男子からは初恋クラッシャーと呼ばれていたこともあったな。超ウケる。

(まあ、俺もその一人ではあるんだけど)

 好いた相手に、自分で記憶を消したとはいえ…他の女子をくっつけようとされるのだから複雑である…。

「南くん、ちょっといい?」
『葵…?』

 中庭に戻ろうと歩いてた所を葵が呼び止めた。

(ああ、思い出したくない。見せたくない)

 しかし全てを思い出すためにはこれしかない。侑斗は繋いでいる手をぎゅっと強く握った…。


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