ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第04話 一家総出の救出作戦

02.妻の勇気

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 ***

 各妻の部屋にいたヴァンはそれぞれ分身を現地に送りつつも家に残っていた。その八名を合成したヴァン[自宅待機]と妻八人が一階の共用ダイニングでテーブルを囲う。

「集まってはみたけどぉ、どうするの? ヴァンさん」
「今回はまあ、何も起こらないとは思う」

 ヴァンが大規模分身するのは突発的に決まったこと。誘拐犯が計画的にこの機を狙うことはできない。仮にいつでも実行できる準備があるのだとしても、

「また別荘に避難するか。海外に移動しておけば安全だろう」

 妻にはそれぞれ別宅がある。いずれもウィルクトリアからすぐ来られるような場所にはない。ヴァン以外のファクターのテレポートでは届かない距離だ。全員集まってくれた方が守りやすいとはいえ、そもそも誰も攻め入れられない場所に居れば守るも何もないのだ。あわよくばイチャイチャの続きもできよう。

 第六夫人・ヒューネットがおずおずと挙手した。

「ヒューはできればここでみんなと一緒に居たいかも……っ。誘拐とかはヴァンが近くに居れば大丈夫だと思うけどさっ。そっちじゃなくて……。ヴァンが危ないところで頑張ってるって思うと何となく心細いよっ」
「ヒューちゃん、わたしもねぇ、同じこと思ってたの」

 第四夫人・フラムが同調すると他のみんなも頷いた。残念ながら海外に連れ込んでイチャイチャ続行計画は頓挫だ。実に口惜しい。全員すました顔をしているが、結構な段階まで進んでいた子だっているのに。

「ヴァンさん?♡」

 第二夫人・ミオが意味ありげに名前だけを口にした。見抜かれたかと焦り、ヴァンは慌てて背筋を伸ばした。

「別荘だって絶対に何もないとは言えないわよぉ。誘拐犯って大抵政府の差し金なんでしょう?」
「あ、ああ。証拠は残してくれないけどな」

 妻を人質に取ってでもヴァンに後継を残させたいと思っているのは何といってもウィルクトリア政府だ。政府筋による犯行であっても不思議はない。

「政府はヴァンさんが持ってる不動産を把握してるだろうしぃ、避難場所としてはイマイチでしょう?」
「まあ、そうなんだよな……」
「フフ、今回はそれでも効果的だと思うけどねぇ。咄嗟に海外には来れないもん♡」

 結局どっちなんだとヴァンは訝しむが、おそらくミオはとにかく別荘行きを否定することでヴァンの下半身に「一旦落ち着け」と釘を刺したのだろう。ヴァンはいい加減頭を切り替えることにした。妻八人にはここに居てもらい、ヴァンが護衛につく。

「ヴァン、ガミラタはどうなってるの?」

 第一夫人・ジルーナが心配そうに問いかけた。

「孤立したミカデルハ市は俺がどうにかしないといけない状況だ。救助隊の到着には時間がかかりそうなんだ」
「ヴァンがテレポートで運んであげたら?」
「そのつもりだ。ただ、現場は相当バタバタしてるみたいで、充分な人員と物資を確保するのに少し手間取ってる。彼らの準備が整うまでの二、三時間、初期対応を俺が担当することになった」
「初期対応?」
「とりあえず倒壊した建物は全部調べて人命救助だ。現地の警察や消防も居るが、彼らも被災者だからな。なるべく俺が助けるよ」

 一つの街全ての建造物をチェックする。本来膨大な人員と手間が必要な作業だ。だがヴァンの手にかかれば二、三時間もあれば充分。

 ふと、現地の分身から連絡が入る。

「あ。……マズいな。避難所の一つに指定されている体育館が倒壊したらしい。代わりになるものを作るか……。あ、火事も起きてるな。そっちも俺が魔法で……」

 ヴァンの業務は秒毎に増えていった。これは数千・数万の分身を要する大仕事になりそうだ。ミカデルハはヴァンの分身で充満することになるだろう。

「ヴァンさん大変ねぇ……。今日だって何百人分も働いてきて疲れてるのにぃ……」
「今日は六百人くらいだったからマシな方だよ。問題ない。みんなのおかげでいつも健康だからな」

 ヴァンは妻たちに向けて朗らかな笑顔を送った。彼女たちに心配をかけるようなことはなるべくしたくない。実際ヴァンは日々鍛えているおかげもありまだまだ元気だった。

 第八夫人・ユウノが眉をひそめながら問いかける。

「その、……分身ってどうなってんだ? 合体したら六百人分の疲れが集まったりしないのか?」
「疲労は合計されるけど、元気な部分も合わさるんだ。結局消耗具合は普通の人と変わらないよ」
「そ、そうか……」

 ユウノは少し安心したようでホッと息を吐いた。しかし、ミオが相変わらず不安そうな目で問う。

「でもヴァンさん、身体は元気でも精神的に疲れない? 六百日分の記憶が一気に集まるわけでしょう?」
「それは、……まあな。今日だけで二年分過ごしたことになるし」

 ヴァンは毎日のように普通の人なら年単位で得る記憶・経験を一気に得る。本日も精神的には二歳年を取った。それを聞いたユウノは再び顔を顰めた。

「……ヴァン、お前いくつ?」
「数えてないが、多分もう数十万年は生きてることになると思う」
「えぇ……⁉︎ とんでもねぇな……じゃあテツカ様なんて赤ん坊みたいなもんだったんだな」
「赤ん坊というよりもはや<検閲されました>ですわ。ちょうど<検閲されました>の最中くらいかもしれませんね」
「エル……! 今はやめろ……!」

 ヴァンの精神年齢は化け物じみていた。人間の一生は約三万日だと言われている。三万人に分身して一日を過ごせばそれだけで通常の一生分だ。

「なんか、アタシなら気が狂いそうだぜ……」

 本日もこれから一生分に近い経験を積むことになるだろう。妻たちからすれば理解不能な感覚のようだ。だが、ヴァンにとってはそれが日常。幸い発狂する予兆はないし、発狂の引き金になるとしたら妻の可愛さの方が余程可能性が高い。

「ルーダス・コアを継承してからずっとこうやって生きてるんだ。もう慣れたもんだし、心配ないよ」

 ルーダス・コア。スナキア家初代当主でありファクターの祖であるルーダス・スナキアから連綿と受け継がれてきた膨大な魔力源。ヴァンはその力を人類の平和や幸福のために使うことがスナキア家当主の責務だと考えている。

「ルーダス様はファクターになった経緯を誰にも明かさなかったし記録も残さなかった。だから意図は分からないんだが、ファクターの魔法は戦闘に特化したものばかりなんだ。でも俺としては、そんな血生臭い目的じゃなく誰かを助けるために使いたい」

 軍で人を殺す訓練をするより有意義だ。ヴァンは力の使い所に出会えたことで張り切っていた。

「それに、下心もある。スナキア家の人間が災害救助に協力すれば、ガミラタがウィルクトリアの友好国になってくれるかもしれない。この国を救うことにもなるなら、できる限りのことはしてくるよ」

 災害救助はヴァンにとって非常に重要な仕事だ。世界のどこかで何か起こればすぐ飛んでいくようにしている。

 ウィルクトリアはスナキア家を失えば世界中からの総攻撃を受けるのが確実な状況。ヴァンが他国のために貢献し、友好の架け橋となる意味は大きい。不純な動機かもしれないが、それで救われる命があるなら問題ないだろう。

 フラムは袖を引っ張って二の腕を隠しながら手を挙げた。彼女は体型を気にしているが、完全最高エッチボデーなだけで決して太ってはいない。

「ヴァンくん、あのね、いっぱい分身するならお腹が空くでしょう? 何か作っておくねぇ」
「あ、悪いな……。今夕食を食べたばっかりなのに」

 彼女は今日の夕食当番を務めた。妻八人と夫八分身の十六名分を作らなければならない大変な仕事だ。それがまさかの二回目である。

「いいの。わたしあんまり役に立てないけど、ちょっとでも協力させてね」
「ありがとな」

 妻がこうして支えてくれるならどんな大変な作業でもやり遂げられる気がしてくる。ヴァンは存分に甘えることにした。

 ────ガタンと椅子が引かれる音。ヒューネットが立ち上がった。

「ミカデルハの人たちにもご飯作ってあげようよっ!」

 アイディアガール・ヒューネットは提言した。

 いつもの彼女なら何か思いついたときは満面の笑みを浮かべている。しかし今日ばかりは真剣な面持ちで、切実に訴えかけるような瞳をみんなに向けていた。

「ヒューたちだってスナキア家だもんっ! ヴァンが頑張るならヒューたちも頑張ろっ!」

 ヒューネットは小さな両手をぎゅっと握りしめ、みんなの猫耳に語りかけた。

 ヴァンは息を呑み、硬直する。彼女の優しさと勇敢さに、身体中が痺れるような思いだ。皆同じ気持ちだったようで、ダイニングは静寂に包まれた。

「ヒューちゃん。……あなた最高よ」

 少しの間の後、ヒューネットの真向かいにいたミオが胸の底から絞り出すような声を漏らした。いつも人をからかうように微笑を浮かべている彼女が、大真面目な顔でヒューネットを見つめていた。

「ミオっ! 言い出しといて何だけど、ヒューは細かいことわかんないのっ! 作戦考えてくれるっ?」

 ヒューネットは困ったように眉根を寄せながら、それでも力強い瞳をミオに向けた。ミオはくすりと笑って頷き、ヴァンに視線を送る。

「ヴァンさん、まだ分身増やせるわよねぇ? それなら私たちも色々手伝えると思うの。協力させてくれるぅ?」
「もちろんできるが、……いいのか?」

 ヴァンが確認を取ると、愚問とばかりに全員が大きく首を縦に振った。頼もしくて、心強くて、自然と笑みが溢れた。

「本当に俺は……最高の妻と結婚したよ。みんな、よろしく頼む」

 これより、スナキア家九名による災害救助作戦が始まる。
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