ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第06話 ざまあみろ、ウィルクトリア(過去編)

15.プロポーズ

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 ヴァンはジルーナ・ハンゼルが好きだ。

 いつだって彼女だけがヴァンに寄り添ってくれた。何もかもをヴァンに託す歪んだ国の中で、彼女だけが支えてくれた。絶対にそばに居てほしかった。妻として。愛する人として。

 ジルーナの猫耳が一瞬ピンと立ち、やがてしゅんと垂れ下がった。固まる尻尾。目をまん丸にして、唇は弛緩していく。

「な、何急に……っ」
「急でもないさ。ずっと言いたかったんだからな」

 許されないことだと自分に言い聞かせて何年も堪えていた。随分遅くなったくらいだ。だが、もう耐え忍ぶのは終わりだ。

「君が好きなんだ。君はいつだって俺の味方でいてくれて、いつだって俺を一人の人間扱いしてくれた。俺が君からどれだけ勇気と力を貰ったことか。俺は君の隣に居たい。俺の……妻になってくれ」

 推敲もできなかったたどたどしい告白。だが、不思議と伝えたいことは言えた気がした。彼女への想いなどとっくに固まっていたのだ。

 ジルーナの口がわなわなと震える。 言葉を探しながらそれでも懸命に、彼女は答える。

「わ、私もヴァンが好き、大好き……!」

 やっと聞けたその言葉には恐怖の色が滲んでいた。

「でも、怖いよ……。私と結婚したら後継ができないでしょ? 戦争になっちゃうんでしょ? 私のせいでみんな死んじゃうなんて、怖くて仕方がないよ……」

 ジルは怯えるように自分の肩を抱いた。俺とビースティアの結婚は国民にとって死刑宣告。世界中を巻き込む凶行に走らせるか、そのまま死に絶えるか。いずれにせよ大勢の命が消える……はずだった。

「いや、状況は変わったんだ。総理が言ってた一夫多妻制のおかげでな」
「え……?」

 今後もスナキア家を使い倒すつもりで考えたのだろうが、悪手だったな。

「一夫多妻制があるなら、俺と君が結婚しても国民たちはこう判断する。『後継の可能性は消えていない』と」
「そ、そっか……!」

 図らずも一夫多妻制はジルーナとの結婚の危険性を消してくれた。

 ファクターとも結ばれる道が残っているのなら、まだ怠惰な暮らしを続けられる可能性が残っているのなら、奴らは絶対に無茶はしない。それはもう痛いほど理解した。

「ただ、俺はファクターと結婚するつもりはない。実はな、ジル……」

 ヴァンは父から告げられたスナキア家当主だけに伝わる秘密を、そっと彼女に漏らす。

「ルーダス・コアは愛する人との子どもにしか継承できないんだ。俺は性癖のせいで、その……」
「…………え? じゃ、じゃあ⁉︎」
「そうなんだ。俺が誰と結婚しようがスナキア家の力は失われるんだよ」
「……!!!」

 子どもを望める相手は愛することができず、愛する相手とは子どもを残せない。スナキア家はどの道詰んでいる。

「そんな……。ど、どうするの⁉︎」
「……思うままに自分が望む相手と結婚して幸せに暮らしたい。それだけだよ。ただ、何も投げやりになったわけじゃないんだ。君との結婚はきっと良い方向に作用する」

 不安そうに眉尻を下げている彼女に解説を添える。

 宿敵・アシュノット総理は、他国を利用して生きていく可能性が残っているなら最後の最後まで縋りつきたいと考えている。だったら可能性は残してやればいい。

 ヴァンは「守護者を降りる」とも「後継は作れない」とも言わない。ただビースティアのジルと結婚して、「後継を作る気がない」という態度を取るだけでいい。

 それでも国民は強烈なプレッシャーを感じる。このままでは滅びるかもしれないという危機感を抱く。大人しくヴァンの要求を受け入れる者や、積極的に国家改革を推し進めようとする勢力も生まれるはずだ。総理はいずれ民主主義の名の下にその立場を失う。

 さらに──。

「”終末の雨”みたいなことももう起こらない。他国はわざわざウィルクトリアを攻撃しなくてもいいんだ。俺が後継を作らずにスナキア家が滅びるのを待っていればいい」
「え⁉︎ ってことは……!」
「そうだ。もう俺が戦場に駆り出されることもなくなる」

 攻め込まれるリスクさえも激減する。最低限の警戒は必要だが、ほとんど心配ないだろう。

 ヴァンは責務から解放され、世界は平和になり、歪んだこの国が必死で態度を改める。何より、ヴァンはもう頑張らなくていい。ヴァンがやるのはジルーナと幸せに暮らしていくことだけだ。

 いつの間にか逆転していた。ジルーナとの結婚は世界を滅亡させるものではない。────全てを好転させる唯一の道だ。

「……ただ、一つだけ懸念がある。間違いなく俺たちの結婚は国中から非難される。俺は別に構わないんだが、君にも危険が及ぶかもしれない」
「!」

 国民たちからすれば悪夢の結婚に変わりはない。もちろん結婚相手がジルーナ・ハンゼルであること自体隠し通すつもりだが、調べ出して消そうとする愚かな奴が現れるかもしれない。

 そうでなくともきっと、世間には誰かも分からない「妻」に宛てた誹謗中傷が溢れる。彼女の猫耳に届くことは避けられないだろう。

「絶対に俺が守る。……そうとしか言えない。だけど絶対不安にさせない。きっと俺は、君を守るために強くなったんだ」
「ヴァン……」

 少しの間の後、ジルーナは深く息を吸い、目を瞑りながらゆっくりと吐いた。そしてまるで普段の何気ない会話のようなトーンで尋ねる。

「ちょっと頭整理させて? 急な上にめちゃくちゃだよ、このプロポーズ……」
「ハハ、ごめんな。家庭の事情で説明事項が多いんだ」
「だいたい、どうせならもっとタイミング選んでくれてもいいじゃんか。私泣いたばっかりだから顔ぐちゃぐちゃなのにさ」
「最初に謝ったろ? ようやく言えると思ったら止まれなかったんだ」

 二人は微笑み合う。そしてジルーナは数秒間目を伏せ、やがて意を決したようにヴァンを見つめた。

「……あのね、私は私のことは心配してないよ。だってヴァンがいるじゃんか。絶対守ってくれるって信じてる」

 そう言い切った彼女の瞳は透き通っていて、少しの不安も疑いも見て取れない。ジルーナはヴァンを心の底から信頼してくれている。全部をくれている。

「私が怖いのは、私のせいで誰かが死んじゃうこと。それだけは絶対に避けないとって思うの。戦争で人が死んじゃうなんて、もう嫌だからさ」
「……ああ、そうだな」
「だからヴァンのことは諦めなきゃって思ってたんだ……。ずっと思ってた。ヴァンと毎日一緒にいられて嬉しかったけど、毎日悲しかったんだよ……」

 ジルーナは日々を思い出すように遠い目をして、その声を涙声に変えていく。

「でも、もういいんだよね? 後継ができないって聞いてさ、その……ヴァンはそれで悩んでいたんだろうけど、私はちょっとホッとしちゃったんだ。おかげで踏ん切りがついた。相手が誰でも後継ができないっていうなら、私は絶対ヴァンを譲らない……!」

 いつだって意思が強かった彼女が、何よりもこれだけはと訴えるように、強く言い放つ。

「私もヴァンと結婚したい!」

 性癖が重症化したときはもうお終いかと思った。だが、まさかそれが決め手になるなんてな。

「でもね、ヴァン。一つだけ……、お願いがあるの」

 ジルーナは気まずそうに前髪をいじって語気を弱めた。

「何でも言ってくれ」
「あの、すごく変なことを言うんだけど……、他のビースティアの子とも結婚してくれる?」
「え……っ⁉︎」
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