勇者と冥王のママは創世を魔王様と【番外編】

蛮野晩

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【創世後番外編】ブレイラの髪飾り

ブレイラの髪飾り3

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「あ、あの、魔王様……」
「なんだ」

 ハウストが両手に持った衣装を見比べながら振り返る。
 邪魔をするなと言わんばかりの視線にランディは委縮したが、ここで引いては四大公爵の名折れである。
 しかもランディは魔王の妹姫であるメルディナと晴れて結婚することが決まった。ということは、畏れ多くも魔王ハウストは義兄になるのだ。大変畏れ多いことだが勇気を出して苦言を口にせねばならない時もある。がんばれ自分と励ましながらランディは言葉を続ける。

「そ、そろそろ政務に戻られては」
「そんなもの既に終わったぞ」
「えっ……」
「当たり前だろ」

 当然のようにハウストが答えた。
 これは厄介である。いっそ政務を疎かにしていてくれた方が、そこを突破口に苦言を呈することができたものを……。ハウストはやはり賢帝と称される王で、その辺に抜かりはなさすぎた。
 苦悩するランディだがハウストは構わずに今一番の悩みを相談する。

「それよりランディ、これとこれどちらがブレイラは喜ぶと思う。俺は左も良いと思うんだが、あれはこの形のものは好まないかもしれない……」

 ハウストは深く悩みながら衣装を比べる。
 右手にはふわりとした仕立ての清楚な衣装。左手には少し薄めの生地で体のラインが描かれるような仕立ての衣装。
 色合いはどちらも深みのある上品さでブレイラが好むものだが形が違った。右手が清楚系で、左手が妖艶系だ。
 どう考えてもブレイラが着用しそうなのは右の衣装だが、左は魔王の着てほしいという個人的な願望で間違いない。
 だがもちろんそんなこと言えるはずがない。

「ど、どちらもお似合いかと……」
「やはりどちらも似合うか。当然だな。ではどちらも贈ることにしよう。こっちは好みに合わないかもしれないが、もしかしたら気に入るかもしれない」

 ハウストは自己解決すると次の品に足を向けた。
 そのハウストに外商がぞろぞろと付き従い、ランディは完全に置いていかれる。
 途方に暮れるランディだったが、「ああ、そうだ」とハウストが何か思い出したように振り返った。

「ランディ、この後の視察で寄りたい場所がある」
「寄りたい場所ですか?」
「ああ、視察先の近くに金細工の工房があるらしいな。そこにも寄りたい」
「え、まさか……」
「そこに美しい耳飾りを作る名工がいると聞いている。是非作品を見ておきたい。手配しておけ」
「…………」
「ランディ?」
「か、畏まりました……」

 ここで否と言う勇気などランディにはなかった。
 ランディは顔を引き攣らせながらも命令通り魔王訪問の手配をする。
 だがそれでも僅かばかりの勇気を振り絞り、フェリクトールに急ぎ報告した。そして次の外遊先である東都のグレゴリウスにも。それが今のランディにできる精いっぱいだったのだ……。



 その夜。
 ハウストは西都の迎賓宮で一人の時間を過ごしていた。
 視察先で立ち寄った工房には一流の名工が揃っていたが、作られていた名品は些か派手な品だったのが残念だ。しかしやはり腕は良かったので受注生産を依頼しておいた。半年後にはブレイラの元にブレイラが好みそうな耳飾りが届くはずだ。土産というには時差が発生するものになってしまったが、それもまた良いだろう。
 ハウストは気分よく酒を飲みながら明日の予定を確認しておく。
 明日は相変わらず政務に忙殺されるが、その合間に今日とは別の外商を呼ぶことになっている。それを思うと気分が浮上した。
 ブレイラへの贈り物を選んでいる間はブレイラだけのことを考えていられるのだ。これ以上に至福な時間はない。……ああ間違えた。これ以上の至福はある。それはブレイラが側にいる時だ。
 などと、こうしてハウストが浮かれたことを考えていた時だった。

「魔王よ、私だっ。失礼する!」

 扉がノックされた。宰相フェリクトールだ。
 入室を許可すると些か乱暴に扉が開かれる。

「どうした、鬼のような形相だぞ」
「どうしたもこうしたもないっ。聞いたぞ、政務の合間に外商を呼んだそうだな!」
「なんだその事か。なんの問題もないだろう」

 ハウストは首を傾げた。
 たしかになんの問題もない。外商を呼びよせるのも土産を買うのも自由である。
 だが問題はそこではなかった。

「君ね、ものには限度というものがあるんだ! 少しは自制したまえ!」
「自制? 充分してるだろう。ブレイラに贈る物はすべて俺が吟味している。なんでもかんでも贈っているわけじゃない」

 ハウストは憮然として答えた。
 明らかに不機嫌さを漂わせるそれは魔界中の魔族を震え上がらせるに充分なものだ。この状態の魔王を宥められるのは王妃くらいだが、その王妃は今ここにいない。それどころか今回は原因である。
 しかし付き合いの長いフェリクトールが怯むことはない。むしろ盛大に呆れた顔をした。

「それは自制とは言わないよ。見事な色ボケ具合じゃないか、まさか君がその手の男とは思わなかった」

 フェリクトールの嫌味混じりの苦言。
 ハウストはますます憮然となる。
 だが、ハウストとてフェリクトールが言いたいことは分からないでもないのだ。ハウスト自身も、まさか自分がたった一人の人間にここまで入れ込むとは思っていなかった。
 こうして離れている間もブレイラが余所見をしてしまうのではないかと不安を覚えるくらいに。
 そう、不安なのだ。
 一度は王妃として愛したブレイラを、記憶が過去に戻っていたとはいえ王妃から降ろした。ブレイラの心を折ったのも、傷付けたのも、泣かせたのも、ハウストの記憶に刻まれている。
 北離宮で孤独に過ごしていた姿、自分に縋るように抱かれていた姿、環の指輪を返上した時の姿。それらがハウストの脳にこびりついて、ふっと蘇っては恐怖に苛まれる。
 ブレイラは以前と変わらず愛していてくれているが、それが揺らいでしまうんじゃないかと。
 実際、王妃から降りていた間のブレイラはハウスト以外の男に心が移っても仕方がない状態だった。それほどに深く傷付けた自覚はある。傷付いて尚、変わらず愛していてくれたことの方が奇跡に近いのだ。

「……仕方ないだろう。喜ばせたいんだ」
「なんだ、君は王妃の御機嫌伺をしたいのか」
「……黙っていろ」

 完全な図星にハウストが目を据わらせる。
 ハウストとて贈り物で過去の傷を消してしまえるとは思っていないが、贈り物を喜ばない者はいないだろう。
 それに離れていても贈り物が届けば送り主のことを考えるものだ。ブレイラが日常の中で少しでも自分の存在を近くに感じてくれるならそれだけで意味がある。

「えらく一途じゃないか。意外だよ」
「放っておけ」
「まあいい。だが、ものには限度があることを忘れるんじゃない」

 フェリクトールはそれだけを言うと部屋を出て行った。
 相変わらず煩い男だ。
 ……でも仕方ないではないか。
 泣かせた分だけ笑顔にしたい。
 ブレイラの心に刻まれた傷を消してしまうくらいに。

◆◆◆◆◆◆




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