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第4話 皇帝、恋に落ちた
「あ、あんた何者なんだっ……」
「助けてくれ、助けてくれよ……!」
帝国兵たちは命乞いを始めましたが男は視線を向けることもありません。
男は怯える子どもたちをちらりと見ると、淡々としたまま背後に向かって命じます。
「ここにいる兵を連れていけ。戦場での人身売買は軍法違反だ」
刹那、森の木々がザワリッと揺れました。
一陣の風が吹いたと思った次の瞬間。
「制圧完了。連行します」
帝国兵たちが帝国の精鋭部隊に制圧されていました。
そう、森に潜んでいた精鋭部隊がまたたく間に帝国兵を取り押さえたのです。
混乱しました。どうしてこんな森の奥に帝国の精鋭部隊がいたのでしょうか……。
私が呆然としていると、男が立ち去っていく。
「ま、待ってください!」
思わず呼び止めました。
精鋭部隊を引き連れた男が振り返ります。
「あの、……助けてくれて、ありがとうございました……」
あなたは誰ですか?
どこから来たんですか?
ほんとうは聞きたいことがたくさんあるのに、なぜだか胸がいっぱいでどれも言葉になりませんでした。
男は黙って私を見ていましたが、すぐに背を向けて歩いていく。
遠ざかっていく背中を呆然と見送るしかできません。
そんな私に子どもたちが泣きながら抱きついてきました。
「マリスさま! うわああああん、こわかったよ!」
「マリス様、マリス様、うぅっ、マリスさま~……!」
帝国兵がいなくなったことで子どもたちが堰を切ったように泣きだしました。
「もう大丈夫です。よく耐えてくれましたね。大丈夫ですよ、大丈夫」
大丈夫、大丈夫と繰り返します。
子どもたちひとりひとりの顔を見つめて、もう大丈夫ですよと安心させました。
私は燃えている孤児院を振り返ります。
窓からは炎が噴き出し、屋根が燃えて崩れ落ちてしまいました。この炎は孤児院を燃やし尽くすでしょう。
「……みんなの家が、燃えちゃった……」
リリーが燃える孤児院を見つめながら言いました。
私はそっと抱きよせて慰めるように髪を撫でてあげます。
「みんな、よく生きていてくれました。よく耐えてくれました。家はまた建て直しましょう。大丈夫、誰も離ればなれにはなりません」
「うぅ、マリスさま~~っ……、うっ、う」
私は嗚咽を漏らすリリーを抱きしめ、子どもたちと一緒に炎に巻かれた孤児院を見つめました。
◆◆◆◆◆◆
ザッザッザッ。
マリスを助けたヴェルハルトは精鋭部隊を引き連れて燃え盛る孤児院から立ち去った。
軍靴を鳴らして整然と歩いていたが。
「――――び、びっくりした~! なんだあの美しさは!?」
「へ、陛下!?」
突然のことに精鋭部隊の兵士が驚く。
「どうされました?」とこわごわ聞く精鋭兵にヴェルハルトははっとして咳ばらいを一つ。
いつもの冷ややかな面差しで精鋭兵に命じる。
「なんでもない。行くぞ。今夜中に南方の街を制圧する」
「はっ」
精鋭部隊は敬礼すると作戦行動に動きだした。
容赦ない制圧作戦。それを皇帝ヴェルハルトみずからが率いた精鋭部隊で実行していく。
それは帝国兵や帝国民にとって誇りだった。我らが陛下は時に冷徹と畏怖されるが、圧倒的な風格と力で覇道を制するのだ。
歴戦の精鋭兵ですら「さすが陛下だ」「陛下の武勇は我らの誇り」と興奮と敬愛に高揚する。陛下直属の精鋭部隊に入隊することは戦闘兵にとって憧れだったのだから。
だが。
(きれいだった。最高に美しかった……!)
ヴェルハルトはそれどころではなかった。先ほど出会ったマリスを思い出していたのだ。
それは衝撃の瞬間だった。
子どもたちを守ろうと気丈に戦う姿、あまりにもキラキラしていたので宝石かと思った。
いや輝きは美貌だけではない。所作や立ち振る舞い、毅然とした面差し。あんな美しい人間がいようとは……!
また会いたい。しかし相手の名前も分からない。名前くらい聞いておくべきだったが、見惚れていて名前を聞くのを忘れていたのだ。
だが、……諦めたくない!
キリッとした面差しで前を睨み据えた。
その鋭い横顔に精鋭兵はざわめく。
「陛下が真剣な顔を……。きっとなにか深いお考えがあるんだ」
「どんな時も冷静さを失わない姿。俺たちと戦場に立つ姿。やべぇ、かっこよすぎだろ……!」
「なんだこれ尊すぎる……!」
若い精鋭兵が沸き立った。
おかげで帝国兵の士気はますます上がったが。
(あれはいったい誰なんだ。どこから来たんだ。なんていう名前なんだ。尊すぎる……!)
ヴェルハルトは前をキリッと見据えたまま内心誓う。
(俺は絶対に諦めない! なんとしても見つけだす!)
そうこの夜、ダラム帝国皇帝ヴェルハルトは戦場で恋に落ちたのだった……。
◆◆◆◆◆◆
この夜より、ヘデルマリア王国はダラム帝国に侵攻されました。
今まで何十年間も国境で小さな諍いを繰り返していましたが、とうとう帝国の侵攻が本格化したのです。
多くの街や村が帝国兵に踏み荒らされ、あらゆるものが戦火に燃やされて陥落しました。
王国を守るためにたくさんの兵士が戦場に送られましたが、帝国兵の侵攻を止めることはできませんでした。
帝国兵の侵攻は王都にまで迫り、侵攻から一週間後とうとうヘデルマリア王国は帝国に屈したのでした。
「助けてくれ、助けてくれよ……!」
帝国兵たちは命乞いを始めましたが男は視線を向けることもありません。
男は怯える子どもたちをちらりと見ると、淡々としたまま背後に向かって命じます。
「ここにいる兵を連れていけ。戦場での人身売買は軍法違反だ」
刹那、森の木々がザワリッと揺れました。
一陣の風が吹いたと思った次の瞬間。
「制圧完了。連行します」
帝国兵たちが帝国の精鋭部隊に制圧されていました。
そう、森に潜んでいた精鋭部隊がまたたく間に帝国兵を取り押さえたのです。
混乱しました。どうしてこんな森の奥に帝国の精鋭部隊がいたのでしょうか……。
私が呆然としていると、男が立ち去っていく。
「ま、待ってください!」
思わず呼び止めました。
精鋭部隊を引き連れた男が振り返ります。
「あの、……助けてくれて、ありがとうございました……」
あなたは誰ですか?
どこから来たんですか?
ほんとうは聞きたいことがたくさんあるのに、なぜだか胸がいっぱいでどれも言葉になりませんでした。
男は黙って私を見ていましたが、すぐに背を向けて歩いていく。
遠ざかっていく背中を呆然と見送るしかできません。
そんな私に子どもたちが泣きながら抱きついてきました。
「マリスさま! うわああああん、こわかったよ!」
「マリス様、マリス様、うぅっ、マリスさま~……!」
帝国兵がいなくなったことで子どもたちが堰を切ったように泣きだしました。
「もう大丈夫です。よく耐えてくれましたね。大丈夫ですよ、大丈夫」
大丈夫、大丈夫と繰り返します。
子どもたちひとりひとりの顔を見つめて、もう大丈夫ですよと安心させました。
私は燃えている孤児院を振り返ります。
窓からは炎が噴き出し、屋根が燃えて崩れ落ちてしまいました。この炎は孤児院を燃やし尽くすでしょう。
「……みんなの家が、燃えちゃった……」
リリーが燃える孤児院を見つめながら言いました。
私はそっと抱きよせて慰めるように髪を撫でてあげます。
「みんな、よく生きていてくれました。よく耐えてくれました。家はまた建て直しましょう。大丈夫、誰も離ればなれにはなりません」
「うぅ、マリスさま~~っ……、うっ、う」
私は嗚咽を漏らすリリーを抱きしめ、子どもたちと一緒に炎に巻かれた孤児院を見つめました。
◆◆◆◆◆◆
ザッザッザッ。
マリスを助けたヴェルハルトは精鋭部隊を引き連れて燃え盛る孤児院から立ち去った。
軍靴を鳴らして整然と歩いていたが。
「――――び、びっくりした~! なんだあの美しさは!?」
「へ、陛下!?」
突然のことに精鋭部隊の兵士が驚く。
「どうされました?」とこわごわ聞く精鋭兵にヴェルハルトははっとして咳ばらいを一つ。
いつもの冷ややかな面差しで精鋭兵に命じる。
「なんでもない。行くぞ。今夜中に南方の街を制圧する」
「はっ」
精鋭部隊は敬礼すると作戦行動に動きだした。
容赦ない制圧作戦。それを皇帝ヴェルハルトみずからが率いた精鋭部隊で実行していく。
それは帝国兵や帝国民にとって誇りだった。我らが陛下は時に冷徹と畏怖されるが、圧倒的な風格と力で覇道を制するのだ。
歴戦の精鋭兵ですら「さすが陛下だ」「陛下の武勇は我らの誇り」と興奮と敬愛に高揚する。陛下直属の精鋭部隊に入隊することは戦闘兵にとって憧れだったのだから。
だが。
(きれいだった。最高に美しかった……!)
ヴェルハルトはそれどころではなかった。先ほど出会ったマリスを思い出していたのだ。
それは衝撃の瞬間だった。
子どもたちを守ろうと気丈に戦う姿、あまりにもキラキラしていたので宝石かと思った。
いや輝きは美貌だけではない。所作や立ち振る舞い、毅然とした面差し。あんな美しい人間がいようとは……!
また会いたい。しかし相手の名前も分からない。名前くらい聞いておくべきだったが、見惚れていて名前を聞くのを忘れていたのだ。
だが、……諦めたくない!
キリッとした面差しで前を睨み据えた。
その鋭い横顔に精鋭兵はざわめく。
「陛下が真剣な顔を……。きっとなにか深いお考えがあるんだ」
「どんな時も冷静さを失わない姿。俺たちと戦場に立つ姿。やべぇ、かっこよすぎだろ……!」
「なんだこれ尊すぎる……!」
若い精鋭兵が沸き立った。
おかげで帝国兵の士気はますます上がったが。
(あれはいったい誰なんだ。どこから来たんだ。なんていう名前なんだ。尊すぎる……!)
ヴェルハルトは前をキリッと見据えたまま内心誓う。
(俺は絶対に諦めない! なんとしても見つけだす!)
そうこの夜、ダラム帝国皇帝ヴェルハルトは戦場で恋に落ちたのだった……。
◆◆◆◆◆◆
この夜より、ヘデルマリア王国はダラム帝国に侵攻されました。
今まで何十年間も国境で小さな諍いを繰り返していましたが、とうとう帝国の侵攻が本格化したのです。
多くの街や村が帝国兵に踏み荒らされ、あらゆるものが戦火に燃やされて陥落しました。
王国を守るためにたくさんの兵士が戦場に送られましたが、帝国兵の侵攻を止めることはできませんでした。
帝国兵の侵攻は王都にまで迫り、侵攻から一週間後とうとうヘデルマリア王国は帝国に屈したのでした。
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