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勇者のママは環の婚礼を魔王様と≪婚約編≫
一ノ環・婚礼を控えて3
「明日までに頭に入れておくといい。くれぐれも西都では恥をかかないように」
「お気遣いありがとうございます。助かりました」
「他の資料は侍女に渡しておく。それもなるべく早く頭に入れておきなさい」
フェリクトールがそう言うと、彼の背後に控えていた侍従が私の侍女たちに資料や書籍や地図を渡す。これを使って勉強しろということです。
「大丈夫ですか? 手伝います」
とても重そうです。あまりに膨大な量に見ていられなくなって侍女の一人に申し出ました。
しかし侍女が返事をする前にスッと女官・コレットが前に進みでます。
「ブレイラ様、ご心配ありがとうございます。しかしながら宰相様からお預かりした資料を運ぶのは侍女たちの役目でございます。どうぞお気になさらぬよう」
「は、はい……」
「ご理解いただき感謝いたします」
コレットはキリッとした面差しと口調で言うと、侍女たちにきびきびと指示していく。
コレットは私の側近女官です。この度、正式にハウストの婚約者になったことで私専属の女官や侍女が与えられたのです。
その女官や侍女たちも貴族や名家の子女たちばかり。婚約者という立場上、お世話してくれる方々は地位が高い子女たちから選ばれるようになりました。婚礼後はもっと人数が増えるそうです。
仕方がないとはいえ、この環境に慣れるのは勉強よりも大変かもしれません。
以前と違って女官と侍女に常に付き従われる生活は、それはそれで疲れるものだとここ数日で分かったのです。慣れるまでもう少しかかってしまうでしょう。
侍女たちが次から次に運んでいく膨大な資料を見送っていると、横で見ていたハウストが眉間に皺を刻む。
「……いきなり大量すぎだろう。もっと段階は踏めないのか」
「生温いことを言っている場合か。婚礼の儀式までに王妃の名に相応しくなってもらわなければ困る。それはブレイラ自身が一番分かっていることだろう」
そうだね? とフェリクトールにじろりと見られました。
もちろん言い返せません。
「はい、ご尤もです……」
婚礼の儀式の正式な日取りはまだ決まっていませんが、目下のところ婚礼までに私が王妃に相応しくなるということが一番の課題です。
その話しをするとハウストは「今でも充分相応しいだろう」と慰めてくれます。とても嬉しいですが、それは惚れた欲目というものです。まだまだ王妃として未熟だということは私自身が一番分かっていますから。
私は受け取った資料をパラパラと捲くって目を通すと、一緒に西都へいくイスラにも声をかけておくことにします。
「イスラ、ちょっといいですか?」
「なに?」
小石と葉っぱを並べて遊んでいたイスラが振り返りました。
ちょこんとしゃがんだままじっと見上げてきます。
「明日のことでお話があります。明日からハウストの視察に同行して西都へ行くことになりましたが」
「い、いらない! おはなしいらない! オレ、あっちであそんでくる!」
突然イスラが大きな声をあげました。
イスラは泣きだしそうな顔で逃げるように駆けだして行きます。
「待ちなさいイスラ! いったいどうしたんですか?!」
慌てて引き止めましたがイスラの背中はあっという間に小さくなっていく。
予想外の反応に訳が分かりません。
困ってしまってハウストを見ると、彼も首を横に振りました。
どうしてイスラの様子が変わってしまったのか分かりません。今までこんなことなかったのです。
イスラはどんな時も私の側にいてくれた大事な子どもです。それなのに、何も分かってあげられないことが辛い。
私はどうしていいか分からず途方に暮れたのでした……。
「お気遣いありがとうございます。助かりました」
「他の資料は侍女に渡しておく。それもなるべく早く頭に入れておきなさい」
フェリクトールがそう言うと、彼の背後に控えていた侍従が私の侍女たちに資料や書籍や地図を渡す。これを使って勉強しろということです。
「大丈夫ですか? 手伝います」
とても重そうです。あまりに膨大な量に見ていられなくなって侍女の一人に申し出ました。
しかし侍女が返事をする前にスッと女官・コレットが前に進みでます。
「ブレイラ様、ご心配ありがとうございます。しかしながら宰相様からお預かりした資料を運ぶのは侍女たちの役目でございます。どうぞお気になさらぬよう」
「は、はい……」
「ご理解いただき感謝いたします」
コレットはキリッとした面差しと口調で言うと、侍女たちにきびきびと指示していく。
コレットは私の側近女官です。この度、正式にハウストの婚約者になったことで私専属の女官や侍女が与えられたのです。
その女官や侍女たちも貴族や名家の子女たちばかり。婚約者という立場上、お世話してくれる方々は地位が高い子女たちから選ばれるようになりました。婚礼後はもっと人数が増えるそうです。
仕方がないとはいえ、この環境に慣れるのは勉強よりも大変かもしれません。
以前と違って女官と侍女に常に付き従われる生活は、それはそれで疲れるものだとここ数日で分かったのです。慣れるまでもう少しかかってしまうでしょう。
侍女たちが次から次に運んでいく膨大な資料を見送っていると、横で見ていたハウストが眉間に皺を刻む。
「……いきなり大量すぎだろう。もっと段階は踏めないのか」
「生温いことを言っている場合か。婚礼の儀式までに王妃の名に相応しくなってもらわなければ困る。それはブレイラ自身が一番分かっていることだろう」
そうだね? とフェリクトールにじろりと見られました。
もちろん言い返せません。
「はい、ご尤もです……」
婚礼の儀式の正式な日取りはまだ決まっていませんが、目下のところ婚礼までに私が王妃に相応しくなるということが一番の課題です。
その話しをするとハウストは「今でも充分相応しいだろう」と慰めてくれます。とても嬉しいですが、それは惚れた欲目というものです。まだまだ王妃として未熟だということは私自身が一番分かっていますから。
私は受け取った資料をパラパラと捲くって目を通すと、一緒に西都へいくイスラにも声をかけておくことにします。
「イスラ、ちょっといいですか?」
「なに?」
小石と葉っぱを並べて遊んでいたイスラが振り返りました。
ちょこんとしゃがんだままじっと見上げてきます。
「明日のことでお話があります。明日からハウストの視察に同行して西都へ行くことになりましたが」
「い、いらない! おはなしいらない! オレ、あっちであそんでくる!」
突然イスラが大きな声をあげました。
イスラは泣きだしそうな顔で逃げるように駆けだして行きます。
「待ちなさいイスラ! いったいどうしたんですか?!」
慌てて引き止めましたがイスラの背中はあっという間に小さくなっていく。
予想外の反応に訳が分かりません。
困ってしまってハウストを見ると、彼も首を横に振りました。
どうしてイスラの様子が変わってしまったのか分かりません。今までこんなことなかったのです。
イスラはどんな時も私の側にいてくれた大事な子どもです。それなのに、何も分かってあげられないことが辛い。
私はどうしていいか分からず途方に暮れたのでした……。
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