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プロローグ1

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2008年12月24日 21時33分

街中に流れるクリスマスソングをパトカーのサイレンが、掻き消しなから走っている。

深澤は華やかな街を横目で見ながら、乾いた唇を舐めると、ほんの少し上擦った声で言った。

「…デカ長、これは例の犯人の4件目の犯行でしょうか?!」

「深澤!!」

想像していたとは違う助手席から圧に、深澤は思わずハンドルを握る手に力が入った。

デカ長と呼ばれた○○県警、捜査一課の金本は思いっきりダッシュボードを蹴り上げ

「確かにこの1か月余りで3件の事件は…同一犯だろうさ。放火、空き巣、窃盗など、事件の大小に関わらず、警察が事情を聴きに行った家が…半月以内に殺人の被害者になるという点でそうだろうな。だがまだ現場に行ってないんだ、4件目だなんて、うかつなことを言うな!」



それは1か月ほど前に始まった。だが、最初はこの3つの事件がつながっているとは誰も考えてはいなかった。

最初の事件は11月13日〇〇町4丁目2ー1。真田昭利宅の犬小屋が放火された。犯人は近所に住む中学生ですぐに逮捕されたが、その3日後だった。真田昭利(89)と当日真田宅を訪れていた昭利のケアマネージャー町田忍(53)が刃物によって刺されて死亡。凶器は被害者宅の包丁。

また通報者(真田昭利の長男、真田克之(60))宅に、昭利氏の主治医鎌田という男から”昭利さんが怪我をした”という電話があり、訪ねて行って発見したとの事。(昭利氏の主治医は電話をしていないと証言)

そして不可思議なことに真田昭利は犯人を自宅に招き入れ、お茶までだしているのだ(真田の指紋しか検出されず)この状況から犯人は顔見知りと思われたが、真田氏の周辺には該当者は見当たらなかった。


2件目の事件は11月19日に起きた空き巣が始まりだった。
○○町3丁目3ー12 セントラルガーデン1010号。成宮克之宅に空き巣が侵入。腕時計、指輪、現金1万円の計3点(時価合計8万4000円相当)を盗まれたが、警察が周辺の防犯カメラ映像などを調べた結果、事件から10日後の11月29日犯人を逮捕。そしてその5日後の12月5日、成宮克之(34)妻 美香(35)長女 桜子(6)遊びに来ていた桜子の友人 小松 凛(6)が刃物によって死亡。凶器は被害者宅の包丁、

そして成宮もやはり自宅に犯人をあげ、紅茶をだしていた。(指紋は成宮美香の指紋のみ検出)

通報者の長女桜子の小学校の担任(風間百合(27))によると、学校に”桜子の事で話がしたいのですぐに来てくれ。”という父親(?)から電話で訪ねて行って発見。


3件目は12月7日○○町1-1ー223 〇塚駅に於いて、原 聡が経営のコンビニエンスストアにて万引きがあり、たまたま非番だった警官によって犯人を検挙。そして事件2日後の12月9日、原 聡(44)宅○○町1-1-223(コンビニエンスストア2階)にて刃物による死亡。(チワワも同じく刃物によって死亡。)凶器は被害者宅の包丁、

茶の間にはペットボトルが2本あったが、指紋が多数あり犯人の特定に結びつかず。

通報者の運送業者(高木祐樹(33))によると昨日の午前9時40分頃、配達に行ったが留守の為不在者連絡票をいれていたら、翌日LIN〇に8:00~12:00間の再配達の依頼があり、訪ねたところ発見。





疑問は多くあった。

まず一つは
*犯人は何故、警察が他の事件で被害者宅の訪れたことを知っていたのか?

第1、2の事件は新聞等にも大きく掲載され、またパトカーも数台現場に出ており、犯人が知ることは可能だったろう。だが第3の事件の万引きの犯人は、たまたまコンビニに買い物に来ていた非番の警官によって検挙されたので、このことを知る人間はほとんどいなかったと思われる。


*なぜ被害者全員は、犯人を家に上げたのか?
顔見知りだから、家に上げお茶を出したという点もあるが、初対面ではあるが、家に上げお茶を出さなくてはならなかった人物だった…という点も捜査関係者からの意見もあった。

*犯人はなぜ第三者に連絡をして、第一発見者にしているのか?
そして、なぜ犯人は第一発見者となった被害者の親族、関係者や、宅配業者が事件の前日に入れていた不在連絡票を知ることができたのか?


また犯人は他の事件で被害者になった人物(家族)だけを狙っていたわけではないように思われる、

なぜなら1件目の真田昭利宅ではケアマネージャーの町田忍も一緒に殺害され、2件目では長女桜子の友人小松凛が殺害され、3件目では犬までも殺害している。特筆すべきは、一件目の町田忍も、2件目の小松凛もその被害者宅を訪れる予定ではなかった。つまり犯人はたまたまその日に訪れた客にも容赦しなかったわけだ。
その日、その場にいた生き物すべてを殺すという狂気に満ちた犯行だと言える、何より犬まで殺す神経には誰もが薄気味悪さを感じていた。


警察は被害者の人間関係、被害者宅周辺での聞き込みに力を入れ、捜査を進めていたが、なんの手掛かりも掴めないままでいた。


そして4件目の事件が起きた。
だか、4件目の今回は少し違っていた。

金本のところに一報として入った情報によると、現場となった早川家は大手ゼネコンのCEO早川 保の自宅(○○町2-1-3)家族構成は、早川 保(52)、妻 バーバラ(32)長女 明奈(15歳)次女 友梨奈(6歳)の4人家族。(追記 長女 明奈は保と前妻の子供、友梨奈は保とバーバラとの間にできた子供だが、家族仲はとても良かったと証言有)

12月10日 長女 早川明奈(13)が塾の帰り、19時15分発××谷行の電車内で痴漢(強制わいせつ)にあったという事件が始まりだった。そしてやはり警察が介入後の12月24日に家族3人が殺されたのだ。(痴漢行為を働いた者は検挙されている。)
今回もリビングにコーヒーカップが3客とココアが入ったカップがあり、コーヒーカップから早川保、バーバラの指紋を検出。またココアのカップから長女明奈の指紋を検出。残されたコーヒーカップからは指紋は検出されなっかったことを見れば、おそらく犯人に家の者が出したと思われる。そして凶器は被害者宅の包丁。

そこまでは同じだが…。
2階の部屋にいた次女友梨奈は殺害されなかったのだ。

通報者は早川保の秘書(吉田加奈子(49))いつも通り早川宅に行って発見。
また、早川保の仕事関係はもちろんプライベートも把握していた吉田加奈子は、次女友梨奈が家にいたことに驚いていたそうだ。おそらく犯人も友梨奈の在宅を知らなかったのだと思われる。
(犯人は被害者の情報を手に入れられる術を持っていることは、今までの捜査でわかっているが、さすがに前日の情報までは手に入れられることはできないらしい。)

追記  アメリカ人の祖父母の話によると、友梨奈は祖父母のところ(ワシントン州)に行っていて、予定では年明けに帰国予定だったが、突然友梨奈は祖父母に日本に帰ると言い出し、犯行があった日の午前中に帰国できる便に乗せたとの事。







「早川友梨奈…。7歳か…ガキの事情聴取かよ…苦手だぜ。」


金本をそう呟くと額に手をやった。



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