恋する唇💋 ~短編集~

秋野 林檎 

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誓いの唇

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私ね…あなたに2つ嘘をついていたの。

ひとつは……本当は入社して間もない頃から、あなたが好きだったの。だから少しでもあなたに近づきたくて…あなたがバスケットボールが好きで、よくBリーグ(男子プロバスケットボール)の試合を見に行くと知って、あの日…偶然と装ってあなたに会ったの。ほんとはね…バスケットボールのルールさえよくわからないのに…。

会社から出てきたあなたに、バスケットボールの試合を見に行くことを知りながら「今日は早いんだね。」と聞いて、あなたが「今夜の○○の試合を見に行くんだ。」と言う言葉を待って、「わぁ、私もなの。」と驚いたように言ったけど…ごめんね。
席はもちろん離れていたし、一緒にバスケットボールの試合を見たって感じじゃなかったけど。でもあれがきっかけでそれからBリーグの試合を一緒に行こうと誘ってくれるようになって、あなたに顔と名前を覚えてもらえる存在になって、すっごく嬉しかった。あれから2年…バスケットボールのルールはもちろん、選手の名前もバッチリだよ。だから…だからごめんね。

でもあれがきっかけだよね。あの時Bリーグの試合を見に行ったのがきっかけで、ふたりで出かけるようになったのは…。

二つめは……”元カレ”の話。だいたい誰とも付き合ったことがないから、元カレなんていたことないの。あなたの元カノの話をあなたの先輩から…ほら一番後ろに座っているあの人から聞いて…つい…見栄を張りました。でもまさかあなたが知ることになるなんて思ってもみなかったの。だからあなたから「前の彼氏って大学が俺と同じって聞いたけど…誰?」と聞かれた時、正直にいえばよかったんだけど、「ひ…ひ…み…つ」と…見栄をはって…嘘をつきました…ごめんなさい。
でも…あの後、あなたが「じゃぁ、今は彼氏いないんだよね。だったら俺にしない。」と言ってくれたんだもの。
だから結果良ければすべて良しと言う事で…うっ…ごめんなさい!



俺…君の嘘に気がついていたんだ。

俺を知ってもらいたくて、いつか君をBリーグの試合に誘おうって思っていたんだ。でも…君がスポーツは苦手で、とくに球技系はやるのはもちろん、見るのも…と話しているの聞いて、誘うに誘えなくなって、そんな時、君からBリーグの試合を見に行くと聞いて、もしかして…君から切っ掛けを作ってくれているのかと思ったら、男としては情けないけど…嬉しかった。

それから…元カレの話。あれも嘘だよね。あの挙動不審の態度を見れば、誰だってわかるな。でも…君に告白する切っ掛けになった。まぁ…今一番後ろの席で可愛い子がいないかと目をぎらつかせている先輩にも感謝かな。



ほら…いい加減、他の事を考えて緊張を解そうとしないで、俺を見て。

白いベールの下で緊張していないで、俺を見て。






新郎 幸田 優希 あなたはここにいる 安永 桜子を
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?

「はい。」

新婦 安永 桜子 あなたはここにいる 幸田 優希を
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか? 

「は、はい。」


緊張がピークだ!指輪が…うまく優希の指にはまらない。…ぁ…優希は簡単に私の指に…どうしてそんなに落ち着いてできるんだろう。チラッと優希を見ればにっこり笑っている。
 
歳は同じなのに…あの落ち着きはなんだ、人間の器の大きさ?
ちょっと剥れた顔で見れば、白いベールが優希の手で上がられ、ゆっくりと優希の顔が近づく。

う、打ち合わせではおでこだったよね。このままだと唇にいっちゃうよと、眼で訴えたら…小さな声で優希が言った。
「誓いのキスは誓いの言葉をお互いに封じ込めるためだから…もちろん唇でしょう。」

「えっ…。」

優希の唇が、私の唇に触れた。


カメラの音と、参列したみんなからの拍手。


愛し 敬い 慈しむ…うん、封じ込められた。
               

    あぁ…幸せ。

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