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1章 葉月と樹
葉月・・・拾う。
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「ヒェ~!!!ちょっと待った!!」
両手で男の顔を押さえ…唇を死守!!ぁ、危なかった。思わず…この人の世界に引きずりこまれるところだった。
「ハァハァ…あの私達1時間前に会ったんですよ。
それがなぜ、プロポーズされるんですか?!おまけになんで…キ、キ、キ…」
「…キス…してない。」
その男は、そう一言って…ずるずるとその場に腰を下ろし、ベンチに凭れると気だるそうに、茶色い髪をかきあげ、まだ酔いが醒めていないのだろう…潤んだ淡褐色の瞳で
「…酔いつぶれていたのを助けてもらった…お礼。」
「こ、この!!酔っ払い!!」
大好きな人から、言われたのなら、そりゃ狂喜乱舞でしょうが!
一時間ほど前に、小さな公園のど真ん中で、倒れている人からのプロポーズなんて、ただ恐いだけだよ。あぁ…何でこんな事に…。
人が倒れていれば…一応「大丈夫ですか?」と聞くのが人の道。
そう信じ、生きてきた21年。あぁ…見ない振りすりゃ良かった。
「と、取り敢えず!話せますよね、歩けますよね…じゃぁ、さよなら!」
「……」
「ちょっと…聞いてます?!」
「……」
「…って寝てるし…」
はぁ~もう溜め息しかでてこない。
10月の夜だもん、外で寝ても…凍死なんてないよね。このところ暖かいし…。
だ、大丈夫だよね。あっ!でも…テレビのニュースで夜半頃……雨って言っていなかった?
だいたい夜半頃って…いったい何時?!今は夜半頃なの?!
あぁ~もう~どうしよう。なんでこの人、公園で倒れてんのよ!
助けてやりたいとは思うけど…2階の私の部屋まで、まさかこの大きな男性を抱えて行くわけにはいかないし、いやその前に抱えるのは無理。
…いやいや!そもそも、6畳一間の私の部屋に、連れて行くわけいかないから。
はぁ~参った…。
私って…昔から、よく捨て犬、捨て猫に縁があったけど…今回は…マジ有り得ないよね。あぁ…こんな感じって、昔あったような…やっぱり公園で捨てられた子犬を抱えて…
…あれは…あぁ…そうだ…あそこにいた頃だ。
【 捨てられた子供が…動物を拾ってくる。】
その事を(愛情に飢えている子供)(心に深い傷が…)と、大層に考える人もいたけど…小さかったんだもの、そんな深い意味なんか、考えも…感じもしなかったんだけど…
だから…
いつも嫌だと言って、ずいぶんごねたはいたけど、先生が…困った顔で
『ここでは無理なの、わかるわよね。戻してらっしゃい。』
と言えば…結局最後は…頷いていた。
あぁ…でも…あの時は…頷けなかったなぁ…。
…あの子犬…右の前足に血を滲ませ、まるで涙を零すかのように…大きな黒い瞳を潤ませて、私に向かって、小さな声で鳴くから、私はどうしたらいいのかわからなくて、ずいぶん泣いて先生を困らせたよなぁ。
先生、今回は男…拾いました。でもこれは…さすがにマズイって、私も思います。
カッコイイお兄さん…。
悪いけど…ほんとに悪いんだけど、ご、ごめん!
そこのゴミ箱から、新聞でも拾って掛けておくから、風邪なんかひかないでね。
…し…死んだりなんかしないでね。
なるべく、綺麗なのを探すから…
今日の夕刊を探すから、恨まないで…
真夜中にゴミを漁る若い女…ほんと私って何やってんだか…
今日の夕刊…ないなぁ。今日のスポーツ紙でもいいよね。
お兄さん、これで我慢して…
スーツ、仕立てなのかなぁ?
…高級そうなスーツだよね。
…左胸の内側に…B・r・i・o・n・i(ブリオーニ)というロゴがある。
…こんな高いスーツを着ることが出来る仕事してるんだ。
あぁ…でも残念、ポケットが…破けている。
…えっ?
ええっ?!マジ?!…この人、靴の片方がない!!
背丈もあるし…顔だってカッコ良くて…恵まれた人生を歩んでいるみたいのに…
こんな人でも酔って忘れてしまいたいことがあるんだ。
公園で酔いつぶれ、挙句の果てには、痴漢まがいの行為…なんか可哀想な人
…って…いけない!いけない!
や、やっぱり、置いていくしかない。貞操の危機を自ら招くことなんてできない!申し分けないけど…無理、無理。
破けた高級スーツに…新聞。
・
・
それも裸のお姉さんが、手招きしている写真がついているスポーツ紙…
見なかったことにしょう。
そう…私は見なかった。気が付かなかった。
・
・
だ…段ボールもつけときますから…
・
・
…ごめんね。
段ボールと、卑猥な言葉と、裸のお姉さんたちが微笑む新聞の隙間から、長い指と前髪で半分隠れた顔が見えたけど…ギュッと目をつぶり、立ち上がった。
「・・・」
「えっ?目が覚めた?良かった、このまま、置いて行くのも……」
言葉が…その先の言葉が言えなかった。
長い指が小刻みに震え…茶色い髪の間から…光るものが見え…それはキラキラと光りながら、その人の鼻筋から口元へと零れてゆくのが見えた。
あの綺麗な瞳は見えなかったけど…
その瞳から零れ落ちた涙も綺麗だった。
すごく綺麗で、すごく切なくて…そっと顔に掛かる茶色い髪へと、手を伸ばし髪をあげると、淡褐色の瞳が…細くなり…目頭から涙が零れ、その姿は…あの時の子犬に見え…
「…うちに来る?」と言葉が自然に…出ていた。
淡褐色の瞳は一瞬見開いたが、心の内を隠すように瞼の下に隠し、もうその瞳を私には、見せてはくれなかった。
見られたくないんだ。涙を…心の中を…
でも目頭に残る、悲しみの欠片の様な涙を、拭ってあげたくて、そっと指を伸ばそうとしたけど、雨が…その涙を隠すように降り注ぎ、遠くのほうで雷鳴も聞こえ…空を見上げた時だった。
この場所に雷が落ちた。
「葉月…!男を連れ込むなんざぁ…100万年早えーぞ!!」
「ヒェ~!!」
それは隣人…松下 理香さんの雷だった。
両手で男の顔を押さえ…唇を死守!!ぁ、危なかった。思わず…この人の世界に引きずりこまれるところだった。
「ハァハァ…あの私達1時間前に会ったんですよ。
それがなぜ、プロポーズされるんですか?!おまけになんで…キ、キ、キ…」
「…キス…してない。」
その男は、そう一言って…ずるずるとその場に腰を下ろし、ベンチに凭れると気だるそうに、茶色い髪をかきあげ、まだ酔いが醒めていないのだろう…潤んだ淡褐色の瞳で
「…酔いつぶれていたのを助けてもらった…お礼。」
「こ、この!!酔っ払い!!」
大好きな人から、言われたのなら、そりゃ狂喜乱舞でしょうが!
一時間ほど前に、小さな公園のど真ん中で、倒れている人からのプロポーズなんて、ただ恐いだけだよ。あぁ…何でこんな事に…。
人が倒れていれば…一応「大丈夫ですか?」と聞くのが人の道。
そう信じ、生きてきた21年。あぁ…見ない振りすりゃ良かった。
「と、取り敢えず!話せますよね、歩けますよね…じゃぁ、さよなら!」
「……」
「ちょっと…聞いてます?!」
「……」
「…って寝てるし…」
はぁ~もう溜め息しかでてこない。
10月の夜だもん、外で寝ても…凍死なんてないよね。このところ暖かいし…。
だ、大丈夫だよね。あっ!でも…テレビのニュースで夜半頃……雨って言っていなかった?
だいたい夜半頃って…いったい何時?!今は夜半頃なの?!
あぁ~もう~どうしよう。なんでこの人、公園で倒れてんのよ!
助けてやりたいとは思うけど…2階の私の部屋まで、まさかこの大きな男性を抱えて行くわけにはいかないし、いやその前に抱えるのは無理。
…いやいや!そもそも、6畳一間の私の部屋に、連れて行くわけいかないから。
はぁ~参った…。
私って…昔から、よく捨て犬、捨て猫に縁があったけど…今回は…マジ有り得ないよね。あぁ…こんな感じって、昔あったような…やっぱり公園で捨てられた子犬を抱えて…
…あれは…あぁ…そうだ…あそこにいた頃だ。
【 捨てられた子供が…動物を拾ってくる。】
その事を(愛情に飢えている子供)(心に深い傷が…)と、大層に考える人もいたけど…小さかったんだもの、そんな深い意味なんか、考えも…感じもしなかったんだけど…
だから…
いつも嫌だと言って、ずいぶんごねたはいたけど、先生が…困った顔で
『ここでは無理なの、わかるわよね。戻してらっしゃい。』
と言えば…結局最後は…頷いていた。
あぁ…でも…あの時は…頷けなかったなぁ…。
…あの子犬…右の前足に血を滲ませ、まるで涙を零すかのように…大きな黒い瞳を潤ませて、私に向かって、小さな声で鳴くから、私はどうしたらいいのかわからなくて、ずいぶん泣いて先生を困らせたよなぁ。
先生、今回は男…拾いました。でもこれは…さすがにマズイって、私も思います。
カッコイイお兄さん…。
悪いけど…ほんとに悪いんだけど、ご、ごめん!
そこのゴミ箱から、新聞でも拾って掛けておくから、風邪なんかひかないでね。
…し…死んだりなんかしないでね。
なるべく、綺麗なのを探すから…
今日の夕刊を探すから、恨まないで…
真夜中にゴミを漁る若い女…ほんと私って何やってんだか…
今日の夕刊…ないなぁ。今日のスポーツ紙でもいいよね。
お兄さん、これで我慢して…
スーツ、仕立てなのかなぁ?
…高級そうなスーツだよね。
…左胸の内側に…B・r・i・o・n・i(ブリオーニ)というロゴがある。
…こんな高いスーツを着ることが出来る仕事してるんだ。
あぁ…でも残念、ポケットが…破けている。
…えっ?
ええっ?!マジ?!…この人、靴の片方がない!!
背丈もあるし…顔だってカッコ良くて…恵まれた人生を歩んでいるみたいのに…
こんな人でも酔って忘れてしまいたいことがあるんだ。
公園で酔いつぶれ、挙句の果てには、痴漢まがいの行為…なんか可哀想な人
…って…いけない!いけない!
や、やっぱり、置いていくしかない。貞操の危機を自ら招くことなんてできない!申し分けないけど…無理、無理。
破けた高級スーツに…新聞。
・
・
それも裸のお姉さんが、手招きしている写真がついているスポーツ紙…
見なかったことにしょう。
そう…私は見なかった。気が付かなかった。
・
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だ…段ボールもつけときますから…
・
・
…ごめんね。
段ボールと、卑猥な言葉と、裸のお姉さんたちが微笑む新聞の隙間から、長い指と前髪で半分隠れた顔が見えたけど…ギュッと目をつぶり、立ち上がった。
「・・・」
「えっ?目が覚めた?良かった、このまま、置いて行くのも……」
言葉が…その先の言葉が言えなかった。
長い指が小刻みに震え…茶色い髪の間から…光るものが見え…それはキラキラと光りながら、その人の鼻筋から口元へと零れてゆくのが見えた。
あの綺麗な瞳は見えなかったけど…
その瞳から零れ落ちた涙も綺麗だった。
すごく綺麗で、すごく切なくて…そっと顔に掛かる茶色い髪へと、手を伸ばし髪をあげると、淡褐色の瞳が…細くなり…目頭から涙が零れ、その姿は…あの時の子犬に見え…
「…うちに来る?」と言葉が自然に…出ていた。
淡褐色の瞳は一瞬見開いたが、心の内を隠すように瞼の下に隠し、もうその瞳を私には、見せてはくれなかった。
見られたくないんだ。涙を…心の中を…
でも目頭に残る、悲しみの欠片の様な涙を、拭ってあげたくて、そっと指を伸ばそうとしたけど、雨が…その涙を隠すように降り注ぎ、遠くのほうで雷鳴も聞こえ…空を見上げた時だった。
この場所に雷が落ちた。
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「ヒェ~!!」
それは隣人…松下 理香さんの雷だった。
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