キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~

秋野 林檎 

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1章 葉月と樹

樹・・・叫ぶ。

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ここ数日は、最悪だった。

10年振りの日本は、街も人も慌ただしく疲れる日々。…だけ…じゃぁないか…
逃げてきた出来事に、向き合わなければならなくなったから、日本に帰ってきたのに…この場に及んでウジウジしているからだろうなぁ。

飲み過ぎた…。

頭の芯がズキズキする。
昨夜はどこで飲んだ?
いや誰と飲んだ?

・・・・

目を開くと…
いつものように隣に…女がいるんだろうなぁ…。

面倒だ。

唇以外は…いつも、体が凍るように冷える。このまま凍ってしまえば良いと思っているのに、飲むと温もりが欲しくて、手を伸ばす。だが目覚めると…その温もりがうっとしい。

最低だなぁ…俺は…

だが唇以外は…欲しいとねだる女がいれば、誰にやっても良い。どうでもいい体だ。

あぁ…今日は土曜日だ、仕事は休みだがそろそろ起きるか…
伸ばした先には、温もりがないということは…もう女は起きているようだし…

味噌汁の香り?
今日の女は、妙に家庭的だなぁ…コーヒーの香りで目覚めることはあったが…味噌汁とは…



えっ…紐…?あぁ…これって、照明のスイッチだ。ほぉ~これは…また古い照明だ。この紐を引っ張る事で、ONとOFFを切り替えるやつだ。昔…ホームドラマだったかなぁ…見たことがある。おまけに…布団か…。

ゆっくりと体を起こし、周りを見渡すと…
「…部屋…せま…」

手元に視線を移すと…
某キャラクターの掛け布団。おまけにそのキャラクターの抱き枕が畳の上に転がっている。
「…こういうのは…初めてだ…」

ピンクの花柄のカーテン。ソファには、フリルのクッションとぬいぐるみ。
「…まさか…10代ってことはないよなぁ…」

頭を抱え、うな垂れたが…気を取り直し、もう一度、周りを見渡し…


・・・・


「あれって…ダンベルベンチプレスだよなぁ…?」

いったい、ここの住人はどんな女なんだ?

襖をドンドンと叩く音に…
俺は唾を飲み込み。でも口元に笑みを浮かべて、なるべく優しい声で
「昨日は、迷惑をかけたみたいだね…」

襖の建てつけが悪いのか、ガタガタと言う音を立てて…襖が開いた。

「あっ!起きたのね!」

口元に浮かべた笑みは歪み、優しい声は…引きつった叫び声に…

「ぎゃぁ~!!」



俺の叫び声から…数分も経たないうちに…玄関を蹴破る音がした。

「大吾!!おまえ!!」

「ジョセフィーヌさん!」

「…信じて!!なんにもないわ!!!」

******

そして…その15分後。
今俺は、馬鹿デカイ男と、妙に色気はあるが殺気をまきちらす女Aと、ふわふわの茶色い髪の毛をお団子にした少女Bと食卓を囲んでいる。この雰囲気は…落ち着かないが…朝飯の美味さに、二日酔いなのにパクパク食べている。
 
「…おい…何か言えよ。」

「…おかわり…」

「てめぇ!馬鹿にしてんのか!!」

「理香さん…!」

「理香ちゃん、朝から大きな声を出さないの。いいのよ、おかわりね。美味しい?」

「…はい。」
俺は、茶碗を馬鹿デカイ男に差し出しながら…女Aと少女Bに目をやって

「悪い…ぜんぜん覚えていないんだ。迷惑をかけたんだとは思うけど、何をやったのかわからないから謝ることも、礼を言うこともできなくて…」

女Aは、わざとらしく溜め息をついて
「あんた…名前は?」と聞いて、続けざまに

「いくつだ。」

「…久住くじゅう いつき27。」

「…久住。あんたは、このアパート前の公園で大の字になって倒れていたんだよ。27にもなってなにやってんだ。」

「…えっ?!!」

「雨は降るし、おまけに雷も落ちるし、最初は新聞をあんたの上にかけて、帰るつもりだった。」

俺は真っ青になった。昨夜はどうにも気持ちが落ち着かなくて…あぁ、これ以上飲むとヤバイなぁと思っていたが…まさか公園で倒れ、見知らぬ人に拾われ保護されるとは…。
取り合えず、警察の保護室(トラ箱)にぶち込まれなくて…良かった。

もし、ぶち込まれていたら…の耳にもその話は届くだろうし…。
会いたくはないが、いずれ会わなければならないのなら、せめて惨めな格好では会いたくはないからなぁ…。

それにしても…
女だと思っていたから、襖から見えたデッカイ男のフリフリの白いエプロンに…ちょっとビビッてしまったとはいえ、助けてくれた恩人を見た途端、悲鳴を上げるとは…


オネェ言葉には、多少顔が引きつりそうだが、良い人みたいだ。
美味い飯を食べさせてくれたこのデカイ男に頭を下げ
「…迷惑をかけた。すまない…」

「あら、でもね。私は久住君を抱えただけで…」
…と、にっこり(ちょっと怖いが…)笑ってくれたが、女Aは、憎々しげに、俺を見て
「てめぇを助けたのは…葉月だ!感謝しろよ。」

ふわふわの茶色い髪の毛をお団子にした少女B…葉月と言う少女は、ヘラリと笑うと…頭を下げてきた。

慌てて俺も頭を下げ…
「…君が?助けてくれたのか…」

「あの…バイト帰りでたまたま…なんです。良かったです、元気になられて、なんだか辛いことがあったみたいだったから…」

「…辛いこと?」

「…えっと…ごめんなさい。なんか…あの…」

「…俺…なんか言っていた?」

突然…この部屋の空気が一気に冷え、殺気をまきちらす女Aのドスが利いた声が
「なんかじゃねぇぞ!」
そう言うと俺を指を差し

「久住!おまえは葉月に…結婚しようと言って、キスを迫ったんだぞ。それも唇にだ!!うちの可愛いい葉月のファーストキスを奪うところだったんだからなぁ!」


俺が…
結婚しようと言った?!

いや…キスをしようとしただって?!唇に?!!!

ふわふわの茶色い髪の毛をお団子にした少女B…葉月と言う少女は、真っ赤になって、殺気をまきちらす女Aに「やめてください~」と叫んでいる。

どう見ても…子供だ。

有り得ない…俺がこんな子供にキスをしようと迫るなんて、有り得ない!

キスを…唇にしようとするなんて、有り得ない。有り得るわけがない!

「有り得ない!こんな子供に…唇にキスをしようなんて有り得ない!!」

思わず叫んだ俺に…



女Aの右フックが飛んできた。



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